第二章 火の鳥合戦ゲーム

軽快なポップミュージックが流れるカフェで日隅はコーヒーに口をつけている。よどみをうつさないまっすぐな目でこちらを見てきた。

「で、大志っていうのは何だ?」

「まずは、ゲームしようよ。火の鳥合戦ゲーム。」

「何だそれ。」

「ルールは将棋とほぼ一緒だけど、ちょっと違うよ。」

「ほうほう。」

「将棋で言うところの王将が火の鳥なんだよ。」

「この鳩って書いてある奴が将棋の歩か?」

「そうだよ。将棋と違うところはね、鳩を含めるすべての駒たちが火の鳥になれるところだよ。」

「相手の陣地につけば進化できる奴か。でも、火の鳥が増えたら二重で王手しなきゃいけなくなるな。」

「そこが面白いんだよ。」

「じゃあ、やってみるか。」

将棋と同じ要領で進めていったが、盤面はあっという間に日隅の火の鳥でうめつくされた。

「うわ、もう負けだ。」

日隅は次の一手を進めない。

「取らないのか?」

「私にはこれを取る勇気がまだない。」

「なんでだ?」

「私の火の鳥が勝ったら、私が正義になる。けどきっと私が求めているのはそういうことじゃない。」

「よくわからないな。ところでこのゲームはほかにやってる人はいるのか?」

「いないよ。私がおじいちゃんに作ってもらったから。」

日隅にこのゲームの誕生秘話を聞いた。

「真子、将棋ってのはな世界の縮図みたいなゲームなんだぞ。学んでみたらいい。」

「おじいちゃん、世界ってこんなに窮屈なの?歩はいつまでたっても部下なの?」

「なるほど。確かにそうだな。王将以外の駒は死を覚悟で勝ちにいかなきゃならん。」

「私は、歩も王将も同じ世界を認識できているというだけで、同じ価値があると思う。だからおじいちゃん、歩が王将になれるゲームを作って。」

「そうだ、大志っていうのは何だっけか。」

「まだこの世にないものを見つけたい。」

「この火の鳥合戦ゲームはこの世になかっただろ。」

「これは私が作ったから。私は見つけたいの、作るんじゃなくて。」

日隅が何を言っているのか僕にはわからない。ただ、歩が王将になれるというのは夢のある考え方だなと思ったし、少しだけ思考を固めているボンドが解けた気がした。

経験値をもらった。

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