第388話 いいよいいよ全額出すよ!(企業が)
モンスターは西から来る。
破局の爆心地は『フォーランド』のさらに西、『ナインステイド』。
人の訪れを拒む怪物の巣窟から、本能か、プログラムによってか、人類の生存圏にやってきて人命を脅かす。
『フォーランド』の現地人も自らの生存のためにモンスターのスタンピードから身を守らなければならない。それが自分たちを見捨てた本土人に利する行為だとわかっていてもだ。
ただ、『マスターズ』『シスターズ』の支援を受け、潤沢な火力投射が有効に働けば今後は現地人たちの生存の楽になる……はずだったのだが。
「現地の人たち、木の伐採に難色を示してる」
最近めっきり前線指揮官としての貫禄が出てきたアズサの言葉にユイトは眉間にしわを刻んで頷いた。
二人は歩く。周囲の木々を伐採して確保した前線基地。周囲をぐるりと囲むコンクリートの壁が築かれ、周囲に銃口を向けた自動タレットが睨みを聞かせている。壁の中には各種戦闘車両が整備を終え、時折哨戒を終えた車両が帰還し、整備ロボットと人間の整備士が取りついて作業を始めていた。
本土からアルイーおばあちゃんと共に『マスターズ』の増員がやってきてはや一か月。
ユイトたちは『フォーランド』の最西端にまで調査を完了させていた。
そしてその中で……どうしても了承が取れない事態も発生したのだ。ユイトは首を捻ってアズサに尋ねる。
「一応、事情や理由は説明したんだよな……」
「マスター、これは根本的な戦術の違いだと思う」
「ああ……」
……大量のモンスターが来る。
この場合に『マスターズ』がとる手段は迫撃砲や曲射砲などによる火力投射で可能な限り敵戦力を削ぐことだ。
そして、砲撃には正確な位置の測定、情報の迅速な伝達が必須。それには航空ドローンによる上空からの観測が必要で。視界の確保には分厚い樹木の陰を取り払いたい。
それに対して現地人、第五世代を名乗る彼ら戦士たちの戦法は俊敏さと膂力を生かした白兵戦だ。
足場を生かした三次元的な動きは読みづらく、鈍重なモンスターでは到底相手にならないだろう。
そして彼らの戦い方なら身を守る盾であり、足場である大量の木々はあればあるほどいい。
「共同しての運用は諦めるべきだろうな……」
銃を使う兵士と刀を使う剣士は同様に扱えない。それぞれ得意分野を生かす場所で戦わせるしかないだろう。
「それは分かってるけど、惜しいとも思ってる。……彼らへの贈り物はそろそろだっけ」
「ああ」
めきめきと前線指揮官として手練れになりつつあるアズサだが、現地人と本土人の双方が納得する落としどころを探るのは……『サン』や仲間たちの支援があっても激務だ。
そんな中、何かと頑なな現地人たちの態度を軟化させるべく秘密兵器がここに送られてくる予定だ。
二人の拡張現実に、サンがくるりと衣を翻して姿を現す。
『二人とも、そのお望みの車両が到着しました』
「あー! お久し振りッスー!!」
大型の輸送車両が数台前線基地に姿を現し、先頭車両の助手席で上半身を乗り出して諸手を振る女性には見覚えがあった。
サムライ・イクイップメント社の人間で、一度ノリか何かでユイトに結婚を申し込んだ経歴もあるミツバ社員だ。彼女は停車と共に降り立つと満面の笑顔で握手を求めてくる。
「いやぁー渡りに船、地獄に仏とはまさにこの事ッス!! ご依頼通り、わが社の刀剣類の在庫の大半と砥ぎの専門家を山ほど連れてきたッス!」
「こっちこそ、まだ閉店してなくて助かったよ」
「社員一同転職サイトに登録を考えていた時期だったッスから、神業のタイミングッス!」
大型ウイング車の荷台部分が羽を広げるように左右に広がり、内部にみっしりと搭載された刀剣類が姿を現す。
今回ユイト達が要求したのは好事家が美術品として求めるような昔ながらの木製の鞘や唾などない、実戦で使うことを求めた実用一辺倒の武骨な代物だ。ユイトは荷台に飛び上がって中の一つから適当に引きぬいて確かめてみる。
手になじむ感覚、ずしりとした命を預けられる確かな手ごたえ。刀身に浮かぶ冷え冷えとしたひかり、剣士としての本能を疼かせる風格があった。
ミツバ社員はしみじみとした様子でアズサからタブレットに荷物の電子サインを受け取って安堵のため息を吐いた。
「いやぁ……ナカツ大空洞の一件からどうなるかと思ったけど、おかげでなんとかなったッス……」
サムライ・イクイップメント社は、ナカツ大空洞と呼ばれる空間に生息する『ガンキラーウルフ』を効率良く狩れる刀剣類を主力商品にする予定だった。
しかしそれは……ローズウィル率いる『上』の軍隊によって蹂躙され、彼ら企業は金の成る卵を粉みじんに粉砕されるという最悪の結果をもたらされたのである。
幸いローズウィル自身は、ミツバ社員に直接弾劾され、被害額やら将来得られるはずだった金額やら何やらのすべてを言い値で支払ったから終始としては――マイナスで終わらずに済んだ。むしろ収入としては大きく好転したと言ってもいい。
だがマイナスで終わらなかったからといって安心はできない。
サムライ・イクイップメント社にとって安定して利益を上げられる商売自体はご破算にされたままだ。
黒字を産めない企業は健全とは言えない。それでも何とかご破算にされたナカツ大空洞での狩りに代わる商売を探そうとしたものの、簡単に見つかるわけもなく。
むしろ膨大な資金で補填された今こそ……暖簾を畳むと決断したのも当然の成り行きだった。
なので在庫すべてを処分すると決定し、社員全員に会社を解体する旨を告げようとしたその直後に――ユイト=トールマンからこれまでの不運を吹き飛ばす
ウーヌスをはじめとする現地人は、弾丸を生産する施設を持たないため今も刀剣類を武器として使っている。
本土では一部の物好き、愛好家しか使わない刃物類がこの島では立派な現役世代なのだ。
まさしく持つべきものは
ユイト達にとってもサムライ・イクイップメント社からの武器の大量買い付けの意味は大きい。
現地人たちにとって切れ味のいい刃物は喉から手が出るほど欲しく、そのきっかけを与えた『マスターズ』に対して借りができた形だ。
加えてサムライ・イクイップメント社から武器を購入するための資金はすべて企業や都市国家からの金銭で賄われている。他人の財布なので『こんなにたくさん買ってもらえて有難いッス! 割引するッス!』と申し出るミツバ社員に対して『いいよいいよ、全部正規の値段でいいよ!』とお断りしておいた。
一番割を喰っているのは企業の連中だろうが、奴らに嫌な思いをさせられるなら金を払ってもいい、という気持ちのユイトとしては連中の財布でじゃんじゃん金を使いたいところである。
「それにどうせ……企業の連中が俺達をこのままにしているとも思えねぇしなぁ」
作者:ガチすみません。orz
お見捨てになって当然だと思ってます。
リアル用件でひと段落したので更新遅めになりますがちょっとずつ再開します。まずはどこまで書いたか読み返すところから。
いやほんとにすみません……。
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