第3話 贋作が本物と同じ?

 過激な目覚めを体験した明仁は依頼で手に入れた槍の手入れをして特別補完庫に入れた。




「レティス、今後はするなよ」


「…それは明仁あきひと様次第です」


「それで、これは?」


「鑑定依頼の品です」


「それは見れば何と無く分かるけど」


 そこに並べれている焼き物は一見して同じ人が作った物にしか見えない。


「鑑定っと」


「…レティス、これはどういう事だ?」


「はい、不思議な事に本物と鑑定された品々が実は偽物で今まで偽物と言われていた品が本物だったそうで」


「…混乱してきた、つまりいつの時代か分からないが偽物と本物が入れ替わってしまったと」


「おそらく」


「で、ここにあるのは2つ以外偽物と出ているが」


「どれでしょうか?」


「こっちとあっちのだ」


「お疲れ様でした、これで普段うるさい古物協会も静かになりますね」


「あそこからの依頼だったか」


「ええ、困っているなら英雄堂に頼んだらどうか、と親切に教えたかたがいたそうです」


「へぇ、それで他にも鑑定しないといけないとか?」


「はい、あと300個程、来るそうですから」


「……了解」


 数時間おきに送られて来る焼き物を鑑定しつつ、真の偽物が混じらない様に本物は再度丁寧に梱包して送り返す。


 こんな事になったのか疑問に思うが、迫ってくる物量に考えてる暇がない。


「これで最後だ。レティス、俺は水無月みなづきさんが来るまで寝てる」


「お疲れ様でした。後はお任せください」



 そして、水無月舞の出勤時間になる少し前に明仁も起きていた。


「店長、こんばんは」


「今日もよろしく」


「レティスさん!こんばんは」


「舞さん、今日もよろしくお願いします」


 未だに明仁への態度があれだが、レティスとは仲良くしているようで少し明仁は安心した。


 まだ、返却前の壺がそれなりに置いてある光景を舞は見ていた。


「レティスさん、この壺の数々はなんですか?」


「真贋鑑定を依頼された物ですよ」


「う〜ん、これ本物なんですか?」


「明仁様が鑑定しましたから、こっちにあるのは偽物です」


「……レティスさん、さっぱりわかりません」


 う〜ん、と唸りながら壺を見比べているが舞には全く違いが分からないらしい。


「まぁ、水無月さんじゃなくても分からないと思うよ、本物と偽物を作った人物は技量がほぼ同じ、しかも違いはほぼない…これは底部分ツルツルして分かりやすいけどね」


「へぇ〜、あれ本物の方がザラザラですね?」


「そうだね、偽物の方が下までツルツルしてるから綺麗に見えるけど実は当時こんな風に焼く技術は無かったはずなのに壺自体どちらも同じ年代に見えるだから後に作られたんだろうね」


「それって?」


「おそらく、同門の技量が全く同じくらいの人物が作った物だね、それも何となく比べたら本物に見える様に」


「そんな事可能なんですか?」


「恐ろしく才能がある人物なら出来るだろうね」


 舞の中で謎は深まるばかりであったが、明仁には原因となった真実を鑑定と合わせてほぼ分かっていた。


 同門として切磋琢磨したが何らかの理由で決別した人間の為に自分の作品が偽物になるように、そして代わりにその人物の作品を本物の様に加工した。


 何故そうなったのか、細かい事情は流石に分からないでもそれは…友人、親友、戦友、そういう相手だったんだろうと明仁は予測した。


「誰かの為に自分の作品を…」


「店長?どうかしました?」


「いや、何でもないよ…レティスと一緒に梱包を手伝って」


「わかりました!」


「では、明仁様」


 二人が梱包作業するのを見ながら、少し複雑な気持ちで眺める明仁は、この作品を作った二人が来世でまた会える様にと心の中で静かに祈るのであった。

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