第45話 紗々姫の歩く道
紗々姫は、三華の塔の窓から、城下の街並みを見下ろしていた。どうにも、こうにも、退屈で仕方がない。瑠璃光との対戦では、三華の塔の半分は、焼失したが、何分、諦められない性格の上、妖物達の主という力を使って、三月三晩で、塔を建て直していた。
「退屈で、たまらん」
紗々姫は、窓から両腕を下に力無く垂らしていた。妖物集めも、飽きたし、政権にも、興味はない。自分が、ちょっと、睨みを効かせれば、朝廷は、想いのままに動いてくれた。
「旅にでも、出ようか?」
そう思いながら、先日、旅に出てみたが、何の刺激もなく、すぐ帰ってきた。こうして、茶を飲みながら、窓の外を眺めている時間が長かった。
「そういえば・・・・」
思い出すのは、瑠璃光の事であった。自分の権力を傘に、見目麗しい少年を呼び寄せてみたが、その少年も、見た目は、美しいが何も、惹きつける者はなく、紗々姫は、褒美を取らせると、すぐ帰らせていた。あの対戦の日々が懐かしい。
「どうして。。。妾を、置いて行ったのじゃ」
一緒について行くつもりだったが、断じて、受け入れてもらえそうになかった。間に入れない疎外感に、仕方なく、山華の塔に戻り、妖物達を相手に隙を潰してした。
「ああ。。。そうだった」
紗々姫は、手を叩くと、大声を上げた。
「瑠璃丸!!」
紗々姫は、笑いを堪えた。名前を呼ばれて現れたのは、まだ、幼い子庄だった。
「はい。何でございますか?」
「瑠璃丸」
呼び寄せておきながら、紗々姫は、瑠璃丸の姿を何度も、ぐるぐると回って見下ろした。
「何と言っていいのか・・・」
紗々姫は、腕を組んだ、瑠璃丸は、瑠璃光を忘れられない紗々姫が、あちこち、国中を探して連れてきた似た面差しを持つ、子供であった。幼いうちから育てれば、瑠璃光の様になるのでは?と考え、あらゆる妖術を駆使して、育て上げて半妖であったが、やはり、どうしても、瑠璃光の様には、ならなかった。だが、こうして、呼び出しては、退屈しのぎに、訓練と称して、瑠璃丸を虐めていた。
「さっぱり、上達しておらん」
見た目も、妖術も、今一な、瑠璃丸に、紗々姫は八つ当たりをする。
「何も、できないのか」
妖術もできない出来損ないに、自分の能力のなさを感じた。
「今頃、大陸で、何をしておられるのか。。。」
紗々姫は、窓から遠く空を見上げていた。遠くを見ていると瑠璃光が突然、現れてくるような気がするからだ。瑠璃光に似せて作った瑠璃丸も、似ていると思ったのは、最初だけで、出来損ないの半妖だった。瑠璃丸が、三華の塔内を歩き回り、棚の間から、妖物の入った壺を、取り出したりするので、気が気でなかった。
「これ!瑠璃丸!」
壺を倒しそうになったその瞬間、空の端で、何かが光った。
「もしや?」
光は、白く点滅しながらこちらへと向かってきてる。
「おや?」
瑠璃丸の事なんて、そっちのけで、紗々姫は、やがては、大きくなる光の粒を見ていた。
「あれは・・」
紗々姫には、見覚えがあった。光の粒は、次第に大きくなり、それは、一羽の鳥の形になっていた。
「これは」
大きな湖に、その手を差し伸べるように手を差し出すと、掌に吸い込まれていった。
「助けを求める」
消える瞬間、紙の鳥は、言葉を発していた。瑠璃光からの、救援信号だった。
「助けを・・・求める?」
沈んでいた紗々姫の顔が、次第に笑みを浮かべていった。瑠璃光に何かあったという心配より、自分を忘れず、助けを呼んでくれた事が嬉しかった。
「すぐ・・・まいりますぞ」
紗々姫は、壺の棚に入り込んでいる瑠璃丸の首根っこを捕まえると、大きな声を上げた。
「瑠璃丸。お前の出番だ」
瑠璃丸は、棚の中から、壺を一つ選び出すと、床に叩きつけた。破片は、そこらに飛び散り、中から、小さな舟が現れた。
「本物に、会わせてやる」
紗々姫は、そう言うと、小さな舟に、息を吹きかけるのだた。
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