第26話 長い物と女難の相

龍伝河の水元に向かう一行は、近くの宿場町で、何頭かの馬を手に入れていた。当然、術を使用して一度に水元に移動する事ができたが、河の主に気付かれる事を、懸念し、自分達の足で、移動する事にしたのだ。阿と吽も、いつもの通り、下働きの童子に身を変え、皆に付き添った。

「浮かない顔ね。紫鳳」

瑠璃光の後ろを走る紫鳳に、吽は、声をかけた。何か、考え深い表情の紫鳳が気になる。

「何となくだけど。。嫌な予感がする」

気になる事があると、紫鳳は、仕切りに鼻の頭をかく癖がある。

「嫌な予感?紗々姫は、いないわよ」

紫鳳にとって、瑠璃光が、紗々姫ではなく、紫鳳を置いて行った事は、トラウマになっていた。

「瑠璃光は、紗々姫を今回は、置いてきたでしょ」

阿が、後ろから声を掛けてきた。

「紗々姫が、瑠璃光を諦めるとは、思わないなぁ。それに、瑠璃光は紗々姫を、どう思ってると思う?」

吽が、ピョンピョン跳ねながら、話している。

「武器庫くらいに、思っているみたいだよ」

「武器庫?まぁ。。。確かに」

陽の元の国の妖の姫は、妖器を集めている。三華の塔は、爆破されたが、まだまだ、隠し持っているに違いなかった。

「だから」

紫鳳は、眉間に皺を寄せた。

「試してみたら?」

阿は、瑠璃光と入れ替わり、確認しろと言うが、主導権は、瑠璃光だけが持つ。

「龍伝河だが」

紫鳳は、ますます、眉間の皺が酷くなった。

「女難のお匂いがする」

「まぁ。。瑠璃光の側にいると、色の難が多い」

阿と吽は、楽しそうに、ピョンピョン跳ねながら、紫鳳と瑠璃光の馬の脇を、行ったり来たりしながら、口さずんでいた。

「静かに」

瑠璃光が、何かに気づいて、馬の足を止めるように合図をした。

「あれぇ」

後ろの方で、青嵐が、突拍子もない声をあげていた。こんな時は、ろくな事になりやしないと紫鳳と瑠璃香は、ひたすら前を向いていた。

「兄貴ぃ」

青嵐は、いつの間にか、紫鳳を兄貴と呼び慕っていた。何度も、しつこく呼ぶ物だから、仕方なく、紫鳳は、振り返る事にした。

「何だって、何度も呼び止める?」

紗々姫でも、現れたら縁起でもないと思っていたが、目にしたのは、道沿いを流れる龍伝河の水面に揺れる一面の着物だった。色様々な着物が、何枚も、多量に流れていく。それぞれに、袖を広げ、まるで花筏のようだった。

「これは。。。」

瑠璃光の眉間の皺が、少し、深くなった。その様子は、まるで、紫鳳の姿とも似ていた。

「何に、見える?」

瑠璃光は、紫鳳に振り返った。

「青嵐。何に、見える?」

2人に聞かれて青嵐は、少し、焦った。

「えっと。。。」

自分の目が、よく見えないのか、何度も目を擦った。

「たくさんの、着物に見えます」

「着物か。。」

紫鳳は、ふっと笑い瑠璃光の顔を覗き込んだ。

「それなら、いいのだが」

瑠璃光は、懐から、香を取り出し、宙に巻くと、いつもの様に、口の中で、小さく術を唱えた。

「着物に見えるか?」

紫鳳は、改めて青嵐を見下ろすと、青嵐は、顔色悪く、口を抑えていた。

「ウェ。。」

着物と見えたのは、たくさんの動物の死骸であった。上流で、何かが、起きている。死骸であるのに、美しく飾り立て、人に見せている。瑠璃光は、道を急ぐ事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る