第24話 香の女帝 風蘭、舞を披露する。

氷雪の崩落が瑠璃光と聚周を襲う少し前、皇宮の中央、高台に風蘭と呼ばれる男装の女帝が眼下を見下ろしていた。側近の宦官、成徳以外、彼が女性である事は、誰も知らなかった。いつも、同じ時間に、成徳を連れ、この高台から、眼下を見下ろす。高台に高貴な人が立つ事は、危険な為、止める官僚が多かったが、風蘭は、辞めなかった。高台から、見下ろす故郷の山々に思いを馳せる事が、この皇宮に閉じ込められた風蘭の唯一の慰めになっていた。

「そろそろ身体が冷えますので」

他の者の目を恐れ、成徳は、戻るように促すが、なかなか戻ろうとしない。

「あの件は、どうなったのか?」

低い声で、尋ねた。皇宮には、星暦寮があり、皇宮の最高位の術師が治めていたが、何年か前に、術の暴走により、最高の師が亡くなっていた。その数日前に、亡くなったその妻、薫衣が他殺体で見つかったのが、原因とされており、薫衣を慕っていた風蘭は、その調査を成徳に命じていたが、なかなか、真相が明らかになっていなかった。それだけではなく、朝廷が管理していた香、つまりこの場合は、漢薬、薬の処方までもが、紛失していた。噂によると星暦寮の寵児、瑠璃光が持ち去ったとの噂もあるが、朝廷の追手が、近づくと、瑠璃光は、陽の元の国に渡ったと聞いている。無くなったのは、それだけではなく、3本の件が行方不明になったままだ。持ち主を守る件と破壊者の件。青龍と白虎の剣。そして、朱雀の剣。朝廷の盤石を揺るがす一件ではあるが、公に探す事に成徳は、反対し、人知れず、人を雇っては、瑠璃光の行方を追っていた。特に兄弟弟子の聚周は、瑠璃光には、特別な執着があるらしく、執拗に探していた。遠く見下ろす街並みも、山の端も、すっかり、夕焼けに染まりつつあった。

「さて。。中に入るか」

風蘭は、じっと眼下を見下ろす事を辞めた。いったい、幾つの夕陽を見送っただろう。あの日から、とてつもない時間が経ってしまった気がする。風蘭は、初めて、瑠璃光を見た日の事を思い出していた。朝日の中で、皇宮の中庭で、舞を披露する瑠璃光は、幼かった風蘭の目にも、艶やかで美しかった。あの瑠璃光が、優しかった叔母を殺して逃げるだろうか。

「あ。。」

成徳は、黙って見ている事にした。夕方の冷たい風に吹かれ、舞を披露する風蘭の姿が、あまりにも、物悲しく見えたからだ。指先までもが、美しく彼女が、皇帝であることが、不幸でしかないと思われた。

「だからこそ。。」

香薬を探し出さねば。。。成徳は、瑠璃光の行き先を、早く探さねばと強く思い込むのであった。

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