第8話 青龍の剣、役に立たず。

 青龍の剣は、持ち手の紫鳳を構わず、引き回していた。漆黒の闇の中をしなやかな弧を描き、半端者の紫鳳を上や下へと、振り回していた。腕が引きちぎれる感覚が、あるが紫鳳自身、能力が定まっていないので、しなやかな剣が、紫鳳の体に纏わりつきながら、闇を切り裂きながら飛び回っていた。

「ん。そうだった!」

瑠璃光は、大事な事を思い出した。

「でも、まぁ。。いいか」

東の国に、古くから伝わる2本の剣がある。戦う者の剣。白虎と守る剣。青龍。瑠璃光が、うっかり渡したのは、守るものの剣、青龍の剣であった。

「まぁ、これも宿命」

間違えて渡してしまった剣ではあったが、瑠璃光は、ふと、思い直した。

「何事も、バランスが大事」

瑠璃香は、慌てるわけでもなく、目的の三華の塔へと、飛んでいった。

 三華の塔は、その名の通り、この時代に於いては、贅を尽くした美しい建物である。華美な飾り付けの為には、何人もの職人が命を落としたとも聞く。誰もが、見上げるその美しい建物の階には、姿とは、見合わない禍々しい気を放つ階があった。勿論、その中心にいるのは、紗々姫、魔の人である。

「噂には、聞いていたが、あれが、鬼神の姫か。。」

足元を遠く見下ろすと、気配の中に紗々姫の姿があった。塔の中からは、いくつも閉じ込められた妖の怨念が渦巻き、一つの流れとなって天へと噴き上げていた。その流れに、絡まり合うように、天に高く細くつながる香の流れがあった。絡み合いながら、天高く薄い紫の煙が、何かを導くように棚引いている。

「嫌な予感しかしない」

瑠璃香が、この地に来たのには、目的があった。大陸より紛失した黄熟香を取り戻す事と、神獣鏡を取り戻す為であった。神々を喜ばせ、神と人間を繋ぐ、黄熟香。その香は、神獣を呼ぶ。

「そいつに、用があるのだが」

瑠璃光は、嫌な予感がした。この紗々姫。侮れない。妖とも思える人間離れした美しさの中には、恐ろしい顔が隠れ見える。ただの、人ではない。黄熟香が何を呼ぶのか、熟知しているようだった。甘く漂う香に、瑠璃光は、目眩を覚えた。

。。しまった。。。

瑠璃香は、公開した。十二神将は、訳あってまだ、修復されず、眠りについたままだった。この香は、

「くる。。」

紗々姫は、気配を感じていた。塔の上に、この地の物でない術師がいるのを

「陰陽師か?魔導師か?」

笑う口元は、耳まで、裂けていた。瑠璃光は、空を見上げた。このまま、この場所にいてはいけない。ふっと、塔の上に、舞い上がり、その場所を避けようとした時に、空が裂けた。まるで、真昼のように裂けた空から、香の道筋を辿るように姿を表したのは、いくつもの長い首と竜の顔を持つ神獣だった。

「呼んだのか」

少し、遅かった。瑠璃光は、神獣が降り立とうとしている塔から、飛びすさった。その時、一つの神獣の口が開き、青い光が、あたりを染めていた。

「!」

しつこく、神獣は、瑠璃光を追いかけ回し青い光を放った。

「急々如律令」

紫鳳を召喚する事を躊躇った。まだ、香の毒に紫鳳は、慣れていない。青龍の剣が、彼を遠く引き離しているのも、訳があった。持ち主を守る剣。戦う為の剣ではなく、持ち主を守るのみの剣は、香が呼ぶ神獣を察知し、まだ、未熟な式神遠く離していた。

「仕方ない。。」

瑠璃光が、召喚したのは、白虎の剣。香と術を使い、白虎の剣からは、文字通り白い光が、虎の形となって現れていた。

「まさか、私が直接、戦う事になるとはな」

瑠璃光は、剣を構え、神獣めがけて飛んでいった。

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