第2話 ラプラス


 俺は走りながら血を吐いていた。吐血していた。服を血まみれにしながら駆けだしていた。鼻血も垂れ、血涙も流れている。顔面血まみれだ。

 それもこれも全てを識ったせいだ。脳に莫大な負担がかかり、あらゆる血管がはちきれた。オーバーロードだ。過剰負荷だ。

 それでも死ねないのだ魔人だ。

 それを分かっていて、なお走り出す。自分は自由だと主張する。

 銃弾、砲弾、砲撃、爆撃、人間は魔人に対してありとあらゆる攻撃を繰り出してくる。それは羽虫を叩き潰すため。環境の事を考えなければ、もっと早くに戦略兵器を使っているに違いない。


 ――極大戦略魔術〈リユニオン〉――


 そうだ、識っている。人間はそれを隠し持っている。

 頭が痛い。脳内の文脈がめちゃくちゃになる。

 いちいち。一つ一つの単語に意味を見出し歴史を紐解き、それをつまびらかに解説される。ただでさえ脳に負荷がかかっているとうのに。さらに追い打ちをかけるように責め苦が来る。

 泥と血にまみれて平坦になった戦場をひた走る。

 馬鹿みたいに走る。

 撃たれても撃たれても。

 目指すのは敵指令塔。

 人間の戦略基地。

 つまりラプラスの狙いは――


「止まれ! この魔人風情が!」


 グレネードを構えた兵士が威嚇する。さすがに直撃すれば再生に時間がかかる。その間にされたら厄介だ。というか詰みだ。


 なので。


 止まらず走った。


「馬鹿! ただの的だぞ!」


 敵から哀れみの激昂を喰らう。ただの死にたがりに見られたらしい。しかし、そこで。


「おい! こっちに撃つな!」


 此処は敵の本拠地。


 ラプラスに人間に対する情は無い。なぜなら、彼らが魔人に何をして来たか、その真っ黒な歴史を識ってしまったから。


 虐待暴虐強姦蹂躙拷問実験八つ裂きそれはもうプラナリア以下の扱いをされてきた。

 いや、これからもされていく。

 そのレールを切り替える。

 そのために走り出す。

 ラプラスはサバイバルナイフを一本取り出した。

 逆手に構えて目の前の兵士の首を掻っ切る。

 全員の位置は識っている。

 レールが少し切り替わる。


「神様、更新」


 ――はいはい、意外とめんどくさいな。この作業――


 語り部の神によって情報が更新される。未来が変わり、基地は臨戦態勢に入る。しかし、それだけだ。


「スニーキングミッションといこうか」


 目標は敵戦略魔術師。

 目的はその捕獲。


 ラプラスは息を潜め影へ溶けた。

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