StarDust
「というわけで今月は、初めての夜間観測をしようと思うんだけど……どうかな?!」
部長、高山 航の提案。
魂胆は詩島、シャルロット、あわよくばヴィクトリアとの仲を深める為だろう。
下心しか見えないが、男子高校生としては健全そのものと言える。
「賛成」
「せっかくだし、部活っぽいことやってみてーよなぁ?」
男子連中はワイワイ色めき立つ。
天文の”て”の字も無かったのにいきなり夜間観測とは笑える。
「ちょうど月末が満月で、今の所、晴れの予定なんだけど」
「詩島とロッテはどう?」
話を振られた詩島とシャルロットは、ちらりと俺に視線を寄越す。なぜ俺を見る。
「藍川さんは、参加するんですか?」
「やるなら参加するわ。夜の学校とか面白そうだし」
「藍川が参加するなら……私も」
ヴィクトリアも参加するらしい。俺が基準なのが相変わらずヴィクトリアって感じ。いい加減、こんな腐れ溜りで腐ってないで友達と外の世界を巡って欲しいものだ。
「じゃあ私も参加するー」
明日美も続いて参加表明。
男子部員はヴィクトリアや明日美とは殆ど絡んでいないが、それでも普通に生きてたら傍にいることも叶わない超絶美少女が来ると知って、喜色満面の表情を浮かべる。
「なら……私も参加します」
「じゃー、私もー!」
詩島とシャルロットも参加を決め、男子達はテンション爆上げだった。
「明日同意書をコピーして来るから、それを親に渡してサインと連絡先を書いてもらってくれ」
信じられない行動力。
好きな人と夜の学校というシチュエーションは確かに心躍るものだろうから、気持ちは分からないでもないが。
「明日美、親の同意なんて得られんの?」
声を潜めて、隣の明日美に問う。
「
芹恵とは、明日美と一緒に住んでいる侍女である。二十八歳の見た目麗しい女性。
「万が一があったら芹恵さんの首飛ぶじゃねーか」
「万が一はない。芹恵とルーミが命を掛けて護ってくれる」
「芹恵さんと並べたら俺は雀の涙じゃん」
明日美やレジーナについているメイドは異常なほど強い。見た目華奢で、筋肉もそこまでついているように見えないのだが、まるで漫画に出てくるキャラクターのような身体能力を持っている。人体改造や遺伝子改良を受けていると言われても信じるほど。
「夜間観測、楽しみだね」
そう言って輪に入って来たのは、鈴木 優斗。
「明日美ちゃん、寒がりなんだからちゃんと厚着してこないとダメだよ」
「分かってるって」
明日美は投げやりに返した。
「どうせならレジーナと世駆兎も一緒に見れたら良いんだけど」
「呼べば来るんじゃね」
「え、でも部外者だけど……いいのかな」
「レジーナに何か言えないだろ、この学校」
相当な額を寄付していると言っていた。心なしか、教師もへりくだっている印象があるし、夜間観測に混じるくらい認めてくれるだろう。本人が参加したがるかどうかは別として。
「レジーナはそう言う権力を振りかざすようなことは嫌ってそうだけど」
「至る所で権力を振りかざしているように見えるが」
「……そうかな」
まず学校に侍女の詰所がある時点で存分に金と権力を行使してる。
だが、優斗は不服らしく、微妙そうな表情をしていた。
顔の中心に拳を叩き込んでアスタリスクにしたい。
ダメだ、こいつと会話すると頭の血管切れる。
脳内出血で死にたくないから、会話を打ち切った。鞄から取り出した小説を開く。
聖女と天使が、先輩方と共に楽しそうにボードゲームに勤しんでいる様子を尻目に、小説を読み進めた。
最初の頃の先輩方は、詩島達に近づくのも畏れ多いと言った感じだった。
今の先輩方からは当初の謙虚な態度は消え失せ、馴れ馴れしく、距離が近い。
高山 航。
菊池 勝。
円谷 幸大。
本泉 啓介。
伊藤 康平。
斎藤 俊哉。
特に部活動への参加率が高い男子部員達は、徐々にその瞳に隠し切れない獣欲を光らせ始めている。
到底手の届かない存在かと思われていた、詩島 小麦子と、シャルロット・グランデがワンチャンあるかもしれない存在になったせいだろう。当人がどう思っているかはともかく。
あれだけ仲良く遊び続けていたら、勘違いするのも無理はない。誰だってそうなる。
罪があるとしたら、身の程を弁えない男達の方ではなく、誰にでも愛想を振りまく美しい少女達の方だろう。
もはや自然災害だ。
あの男達は、踏み込む度胸がないと俺は思っている。
だがもし踏み込んでしまえばどうなるだろう。
もう一度視線を上げて、賑やかな一同を眺める。
彼らの辿る結末が、どうなるのか楽しみだった。
俺が迎える結末よりも、滑稽でありますように。
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