34話 冬の代入

34話 冬の代入


「玲ちゃん。今月後半のシフト記入お願いね」


「はい!」


私、月崎玲は母が経営しているケーキ屋でアルバイトをしている。中学生の頃からお手伝いで店に行っており、高校生になってからはアルバイトとして働くようになった。


去年、隣の足立区に2号店をオープンし、母は新店舗の業務で忙しい。【自由散歩】と呼ばれる番組に出たことで昨年の3倍ほどの売上になっているらしい。


「れ・い・ちゃん!」


「うわっ!」


「ごめん驚かせた?」


従業員の中で1番仲の良い佐倉先輩。大学1年生の先輩で、料理デザイナーの資格を取得するために大学に通っている。


私は真っ白のシフト表に向き合う。普段なら金曜夜と土曜に丸をつけるが、冬休みは多めにシフトを組もうと思っていた。


「佐倉先輩はクリスマス、彼氏と過ごすんですか?」


「クリスマスはこっち優先。ラストまでシフト入れるよ」


「さすがです。私も13時から18時までシフト入れます」


「お、玲ちゃんも仕事するねぇ。無理しないで、と言いたいところだけど、1年で1番忙しい日だからね」


「ですよね」


ケーキの予約は既に200近くもあり、当日は店頭販売は行わず、予約の受け渡しで1日が終わる予定だ。


「で、玲ちゃんはクリスマスの予定は?彼氏?」


「私は…特に予定はないです。彼氏いないですから」


「そんなぁ。玲ちゃん可愛いんだから彼氏作らなくちゃ。好きな人いるんでしょ。誘わなければ」


実は先月、奏斗からクリスマスの誘いの連絡があった。嬉しさのあまりベッドから転がり落ちて頭を打った。信じることが出来ずにスマホの再起動を3度ほど繰り返した。ダイエットと偽り家の周辺をジョギングした。それでも奏斗からのメッセージは残っていた。


集合時間は19時。18時に仕事を切り上げれば十分間に合うことが出来る。


・・・・・


少しだけ私の事に関して読者のみんなに説明しておこうと思う。


私は石森玲として生まれた。生まれつき心臓の病気で、小学生になる直前に千葉県の病院に置いていかれた。当時新聞に載るほど話題になり、私は結果的に病院の院内学級で育てられることとなった。


そして、小学6年生のときに奏斗に出会った。願いが叶うと言われる蝶を探しに行ったが、結果として出会うことは出来ず。しかし奏斗のくれた蝶の置物の効果?で私の病気は周囲も驚くスピードで治った。


中学校に入学する前に完治をしていた私は、養子縁組の話を聞いた。私は奏斗にもう一度会うために都会の養子縁組を選んだ。そして月崎家に入り、苗字が石森から月崎に変わった。


中学校で奏斗と同じ小学校に通っていたという友だちに偶然出会った。事情を説明して奏斗のTwigramの連絡先を教えてもらったのはいいけど、連絡する勇気が持てず。奏斗の第一志望の高校に私も挑戦して、奏斗を追う形で高校に入学をした。


・・・・・・・


(クリスマス、楽しみだな)


私は言葉を代入する。好きだと奏斗に伝える。そして、私が石森玲であることを告げるんだ。

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