31話 立冬方程式
31話 立冬方程式
「ぶへっくしゅん!」
「独特なくしゃみだね」
「うるさいなぁ」
萌衣はムズムズする鼻を擦る。
僕と萌衣は旅行で北海道に来ていた。冬は北海道だと思っていたが、確実に不正解だ。美味い海鮮物?雪景色のTwi映え?なんじゃそりゃ。寒っ。
先月、怪しいサイトで北海道ペア旅行券を引き当てた。翌日自宅に届き、雄大や隼也を誘ったが用事で来れず。萌衣が美穂と行きたいとの事だったので、旅行券を渡したが直前になって美穂が体調不良。で、僕と萌衣が旅行に来ている訳だ。
「よし、とりあえず宿に行こう。道案内は僕に任せて」
「心配だなぁ」
「大丈夫。萌衣ほど方向音痴じゃないよ」
「私も方向音痴じゃないけどね!?」
この後、完全に僕らは迷子になった。せっかくなので、宿を探している間に、2章体育祭後について話しておこうと思う。
体育祭編最後の玲の言葉。「僕と玲は以前会っている」、脳のデータを探ってみるも記憶の発見に至らず。
でも一つ、玲の言葉で気付かされたのは、昔好きだった【石森玲】の存在だった。小学校時代に怪我で入院することになり、そこで参加した院内学級で出会った。
僕は石森玲が好きだった。そして高校で同じ名前を持つ月崎玲に出会った。僕は石森玲を月崎玲に重ねた。名前だけでは無い。どことなく二人は似ていた。
僕は石森玲との出会いを、引きずっていることに気がついた。石森玲には会えない。病院には、お小遣いで行ける距離ではあるが、行きたくない理由がある。
石森は心臓の病気を持っていた。そして1年と言われていた寿命は既に5年ほど過ぎている。会いに行っても会えない。僕の脳内は元気な石森玲で保存しておきたい。
石森の将来を想像することはあった。でも現実を知ってしまったら未来は想像できなくなる。そして石森玲の未来に月崎玲を重ねた。僕が求めた未来に月崎玲を代入した。
僕が好きなのは清水萌衣ではない。月崎玲でもない。石森玲だ。
・・・・・・・・
「予定の時刻よりも遅かったですね」
「「すみません」」
僕と萌衣は苦笑する。予定の時刻よりも2時間遅れての到着。部屋に入ると畳の良い香りが鼻を撫でる。窓の外ではふわりとした雪がゆっくりと下に落ちていく。東京で降る雪と北海道で降る雪は秒速が異なることに気がついた。
「やっと着いたぁ」
「ほんと奏斗のせいで遅くなったんだけど」
「いや、スマホで地図見てたのは萌衣だからね」
僕と萌衣の関係性についても話しておかなければならない。簡潔に話すと、僕と萌衣の関係は変わっていない。周囲の人間は僕たちをカップルだと思っているが、僕たちは仲の良い友だち程度の関係値を維持している。
「とりあえず風呂入りたいな。ご飯は6時からだから1時間ぐらいあるか」
「だね。まじで風邪ひきそう」
「一応部屋にも小さな風呂あるけど一緒に入る?」
「馬鹿!一緒に入るわけないじゃん。そもそも恋人同士だとしてもやだね。キモすぎ変態」
「冗談だよ」
いつまでもこの関係式を続けてはいけないことは分かっている。いつかは解を見つけなくてはならない。石森玲に会いに行かなければならない。想いを伝えなければならない。
僕は解けるだろうか。
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