28話 僕と石森の六日目(3)

28話 僕と石森の六日目(3)


綺麗だ。


月光に照らされた向日葵の草原。夜の向日葵は銀色に輝き風に揺れる。空には無数の星たちが光を咲かせている。都会から見る空と、ここから見る空は同じはずなのに、こんなにも違うものなのか。


「奏斗、綺麗だよ、綺麗だよ!!」


「うん、綺麗だ」


ひと夏の想い出。友だちと毎日遊ぶという計画は崩れたが、今年の夏も悪くはない。怪我をしたことで大切な想い出を手に入れた。これぞ怪我の功名だ。


「奏斗、連れてきてくれてありがとう!!」


「う、うん」


そして、そのとき初めて一人の女の子を好きになった。


・・・・・・・


「蝶いないね。蛾しかいないじゃん」


「まぁ蛾は夜行性、蝶は昼行性だからね。幻の蝶は月明かりで活動する夜行性の蝶らしい」


「その人、蛾と蝶見間違えたんじゃ」


「奏斗は夢がないなぁ」


僕たちは幻の蝶を探した。願いが叶うなんて信じることはできないけど、玲の願いだ。玲のためにひたすら探した。めっちゃ大きいカブトムシには惹かれたけど、今回は無視をした。


でも幻は幻だった。ダイヤモンドに光る蝶は見つかることなく、予定の時間を迎えた。


「ごめん、蝶見つからなかった」


「なんで奏斗が謝るの?向日葵公園に来れただけでもすごい満足だよ」


明日には退院して東京に帰る。そしたら玲に会うことはもうできない。玲と出会ったことは忘れたくないけど、日常の流れは残酷だ。いくら記憶に残したくても時が進むにつれて想い出には靄が掛かる。次第に想い出は他の想い出に上書きされ、消えてしまう。


「仕方ないか。最後の秘密道具出してもいい?」


「出さなくてもいいよ」


「いや、これは本当に最終手段だったんだ。もし見つからなかったらと思って」


でも想い出を残すことは出来る。想いとか、伝えたい言葉とか、直接形にできなくても、物体に込めることはできる。脳内から消えたとしてもいつか想い出すことができる。


「はい、開けてみて」


「うん」


玲はその箱を開けて目を輝かせた。その瞳は空に輝く一番星よりも綺麗で美しかった。箱の中にはガラスでできた美しい蝶がいた。


「なんで!なんで!?」


「山の麓にある道の駅で買ってきた。見つけられなかったら出そうと思って。これも願えば夢が叶うらしいよ」


ガラスの蝶は月光に照らされると色を変化させる。角度を変えていく度に月光を反射してキラキラと輝きを放つ。


「ありがとう、もらっていいの?」


「うん」


僕は願いを込めた。


玲に生きて欲しいと。


・・・・・・


その帰り道。


「あ!」


「どうしたの!?」


「願い事間違えた!」


「はぁ?じゃ何を願ったの?」


玲は顔を赤くする。まぁ詳しくは聞かないでおく。


「まぁ大丈夫だよ、僕が玲の病気治りますようにって願っといたから」


「夏休み延長は?」


「そんな非現実的なこと願わないよ」


玲の病気が治ることは非現実的なのかもしれない。でも、僕は治ると信じてる。治ることを願う。そして、人生のどこかで再会出来たら嬉しい。


「奏斗」


「何?」


「たった7日間だったけど出会ってくれてありがとう。友だちになってくれてありがとう」


そして未来、どこかで出会えたら伝える。


好きという言葉を。

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