27話 僕と石森の六日目(2)
27話 僕と石森の六日目(2)
六日目の夜。エレベーターは不気味な音を立てながらゆっくりと上昇していく。幽霊が出るのではないかとハラハラするが、冷や汗を垂らす前に無事6階に到着。607号室までの足は自然と早くなる。
「お邪魔しまーす」
「はい、…って奏斗!?夜に何?」
「何って一緒に向日葵公園に行くんだよ」
「はぁ!?夜に外に出るなんて無理に決まってるでしょ」
「大丈夫。院内学級の先生と玲の担当医師には許可取ってるから」
「正気!?」
僕は院内学級の先生と、玲の担当医師にお願いをして、19時から22時までの外出許可を得た。向日葵公園までは多く見積っても40分程度で着くので十分な時間だった。
「玲ちゃん、行ってらっしゃい」
「安西さん!?」
「ずっと向日葵公園行きたかったんでしょ。大丈夫。奏斗くんと一緒なら行ける。奏斗くん、玲ちゃんを頼むわよ」
「はい!鞄の中に5大秘密道具入れてあるので大丈夫です」
「めっっっちゃ心配なんだけど」
そして、僕と玲は病院の外に出た。
・・・・・・
「まず1つ目の秘密道具!かいちゅーでんとー!!」
「要らないよ、向日葵公園まではしっかりと街灯あるから」
「そうなの?」
「そうだよ」
房総山の頂上にある向日葵公園は有名な観光地として知られている。山の途中に僕たちがいる病院が建っている。向日葵公園からは街を一望することもでき、夜には満点の星が空に散りばめられるらしい。
公園には数千本の向日葵が咲き誇る。そして蝶の話も事実として存在する。数十年前に病院にいた女の子が向日葵公園でダイヤモンドに光輝く蝶を目撃して、難病が治るように願いをしたところ数日後には完治したという。それは新聞にも掲載されて、蝶で有名な街にもなった。
しかし蝶の目撃情報はそれ以降無く、幻として語られる今日に至る。病院にも千羽鶴ならぬ千羽蝶が飾られているほどだ。ちなみに蝶の数え方は1頭、2頭らしい。
「向日葵公園に行くのは久しぶりなの?」
「うん。小学4年生から行ってないから2年ぶりぐらいかな。その時から運動制限が掛けられたから」
「心臓の病気治らないの?」
「うん。生まれつきの難病なんだって」
玲は平気そうな顔で登っていく。僕は何としてでも幻の蝶を見つけなければならない。
・・・・・・
「少し休憩をしよう。秘密道具2つ目、りんごジュース~」
「ただの飲み物でしょ!」
向日葵公園へ登る丸太階段の手前。少しの休憩を取る。ここからは急な角度の階段を上っていく必要があった。
玲は辛そうにしているが、ツッコム気力があるので大丈夫そうだ。事前に無理そうであれば引き返すように言われている。
「大丈夫?」
「なんとかね。頑張る」
空き缶をごみ箱捨てると玲は階段を登り始めた。無理をする性格だと分かっているので、僕が判断をしなければならない。
「幻の蝶に会えたら奏斗は何を願うの」
「何も考えてないや。夏休み延長されますように、とか?」
「平和だなぁ」
まだまだ向日葵公園は見えてこない。僕らは丸太階段を登り続けた。
・・・・・・・・・
「奏斗、ちょっと休憩しよう」
「まだ全然登ってないけど、大丈夫?」
「うん」
玲は丸太階段に座ってお茶を取り出す。僕は鞄の中から秘密道具を取り出す。
「3つ目の秘密道具、酸素ボンベ~、そして4つ目の秘密道具、ヘリウムガス~」
「絶対ヘリウムガスいらないでしょ、なんで酸素ボンベなんて持ってるの?」
携帯酸素ボンベは、病院の先生から受け取った。玲は酸素ボンベを吸ってだいぶ楽になったらしい。僕もヘリウムガスを吸う。
「プファイキカエルゥゥゥ( ´థ౪థ)σ」
「何その声wおかしいwwせっかく吸った酸素全部無くなる、ははは」
「サンソゼンブナクナルノハマッタクコウカナイカラ!」
「はははは、おもしろw」
1番ふざけたアイテムだと思ったが、1番効果があったらしい。玲は立ち上がって背伸びをした。
「よし、元気出たし残り頑張ろう」
僕は玲の後を追った。満月の月明かりは僕らの道しるべを照らした。
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