24話 僕と石森の四日目

24話 僕と石森の四日目


 四日目、エレベーターは6階で止まった。期待を寄せたが、小さな女の子が乗ってきた。よく玲とおままごとをして遊んでいる子だ。


「あのさ、玲ってどんな人?」


「玲お姉ちゃんはすごく優しいの。いろいろ勉強も教えてくれるし。私が赤ちゃんの頃から仲いいの!」


 僕は玲を普通の女の子として捉えていることが間違いだと気づいた。つまり玲は何年も前からここにいることになる。


 その日、院内学級に玲の姿はなかった。一週間に一度の診断という理由だった。僕はプリントを出して国語の勉強を始める。そこに先生がやってきた。


「奏斗君、ちょっといいかな。玲さんがいないから少しだけ玲さんの話をしておこうと思うんだけど」


「僕が知っていいんですか?」


「玲さんにはもちろん内緒だけど知っておいてほしい。そしてその上で私から1つお願いしたいことがあるの」


 先生の話によると、玲は生まれてから心臓が悪いらしく、心臓寿命が短いという。小学校には行けておらず、できたばかりの院内学級1期生として入学。


「本当は学校に行きたいと思ってると思うんだよね。玲さんがランドセルを背負って来るのも、みんなと同じように学校に行きたいという夢を見てのことだと思う。連絡帳の日記を見てほしい」


 先生が持ってきた玲の連絡帳には、僕のこと嫌いだという文章と、僕と同じようにいつか学校に行きたいと書かれていた。


「玲さんの寿命は残り約1年ぐらい。学校に行くのは難しいだろうね。玲も強がって院内学級に残るだろうし。奏斗君は今日を含めて残り4日いるとおもうけど、院内学級は土日が休みだから実際は明日で玲さんとはお別れになる。これが玲さんの部屋番号。無理にとは言わないけど行ってくれると玲さんも喜ぶんじゃないかな」


 朝目覚めて、学校に行って、勉強をして、遊んで、疲れて、家に帰って、家族と団欒し、明日への楽しみを感じ寝る。ありふれた日常を幸せに感じ生きなければならないと感じた。


「分かりました」


「よろしくね」


 玲がいないことで、その日はとても長く感じた。1つ言えば、ポケやんごっこで小さな男の子にボコボコにされた四日目だった。

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