23話 僕と石森の三日目
23話 僕と石森の三日目
三日目。僕はエレベーターに乗り、8階のボタンを押す。玲が乗ってくることを期待したが、エレベーターは6階を通過して8階へと着いた。エレベーターを降りると同時に近くの非常階段の扉が開き、息を切らした玲が出てきた。玲はランドセルを隠す。
「またランドセルで来たの?」
「いいじゃん。これが好きだから」
そこに先生が来る。先生は玲に指導をした。
「玲さん、必ずエレベーターで来なさいって言いましたよね」
「だってランドセルで来ると奏斗に馬鹿にされるんだもん」
「奏斗くん。あなたは学校にランドセルで行くでしょ」
「はい」
「玲さんにとって、ここは学校なんだからランドセルで来るのは普通なことなの」
「先生、もっと強く言ってください」
「奏斗くんは玲さんのことは知らないから仕方のないことでしょ」
僕は何気ない感情で院内学級に参加したが、どのような子供たちが参加しているのか深く考えていなかった。学校に行けない子どもたちが通う場所ということは知っている。だから子どもたちは学校にいけない理由がある。それは玲も同様だ。
普通というものを経験してきたからこそ、普通でないことに気づけない。院内学級に通う人は僕と同様の子どもたちだと思っていたが、それは違う。玲は僕を睨む。どういう理由であれ、触れてはいけないことに触れた気がした。
「ごめんなさい」
「ん、ま、いいけどね」
玲は軽く返事をするとドスドスと足を踏み出ながら、院内学級へと向かった。先生が僕の頭に優しく手を置く。
「玲さんは奏斗くんが来る前日からすごい楽しみにしていたよ。あぁ見えても1番嬉しいと思ってるのは玲さんだね。奏斗くんも少しの期間だけど仲良くしてほしい」
「はい」
僕は先生と一緒に院内学級へと向かった。
・・・・・・・
四時間目の授業は体育だ。基本的に授業は体育と自由時間とプリントの時間しかない。病院内ではあまり身体を動かせないので、大切な科目となる。
「まずストレッチをします。奏斗くんは玲さんと組んでください」
「なんで玲と!」「なんで奏斗と!」
二人同時に声を上げる。先生はニコリと笑った。
「先生とやるよりも同じぐらいの背の高さの2人でやったほうがいいからです」
僕と玲はしぶしぶ組むことにする。互いに足の裏をくっつけて足を延ばし、手を引っ張り合う。小さい頃は平気で女の子と手を繋いでいたが、6年生にもなると恥ずかしさがある。それは玲も同様で、嫌そうな表情で僕の手を掴む。
「痛てててて」
「奏斗、身体硬すぎ。おりゃぁぁぁぁぁ!」
「痛い、痛い、痛い、痛い」
玲は笑いながら僕の手を強く引く。僕は身体を持っていかれる。身体の柔らかさは圧倒的に敗北だ。
「次はバランスゲームをします。バランスボールに長時間乗っていた人が優勝です」
大きいバランスボールに乗る。以前、母がダイエットのためにバランスボールを買ったことがある。1週間で飽きて譲り受けたバランスボールは、僕の方が上手く乗りこなせるほどになっていた。器用にボールを動かして玲のボールを蹴る。
「ちょっとやめてよ」
「これできる?」
僕はバランスボールの上に正座をして両手を上げる。玲は悔しそうに挑戦するが見事にバランスを崩して上半身を地面にたたきつける。玲は悔しそうに僕を睨んだ。僕の勝ち。
「学校の体育も同じようなことやっているの?」
「うん。他にもサッカーとかドッジボールとか色々やってるよ」
「そうなんだ。いいなぁ」
「玲は小学校に行ったことないの?」
「うん、小学一年生から院内学級に通ってるからね」
院内学級に参加して三日目。
僕は玲をもっと理解しなければならないと思った。
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