22話 僕と石森の二日目

22話 僕と石森の二日目


 二日目、エレベーターに乗って8階のボタンを押す。上昇するエレベーターは途中、6階に止まってドアが開く。


「「あっ」」


 開いたドアの先には石森玲が立っていた。背中には赤いランドセルを背負っている。恥ずかしそうにランドセルを隠してエレベーターに乗る。僕はしめたと思い、玲を馬鹿にした。


「病院なのにランドセルなんておかしいね」


「うるさいなぁ。それこそ恐竜の手提げ袋とか幼稚だね」


「はぁ?」


病院のエレベーターはいつでも人を運べるように通常よりも広く設計されている。僕と玲は端と端に立つ。僕と玲はドアが開くと我先にと院内学級へと向かった。他の子どもたちもランドセルなどは持っておらず、各々好きな鞄に荷物を入れている。玲一人だけが院内学級にランドセルで登校していた。


 玲は院内学級小学部では一番上で、みんなからはお姉ちゃんと呼ばれている。玲が勉強道具を取り出すのを見て、僕も急いで勉強道具を取り出す。玲に指摘されないように得意な理科のプリントを持ってきた。


 お互いに負けじと勉強を続けるが、小さな女の子が玲を呼びに来る。


「玲お姉ちゃん、おままごとしよう!」


「いいよ!」


「じゃ玲お姉ちゃんは赤ちゃんね」


 玲はランドセルにプリントをしまって席を立つ。僕は玲の方を見てニヤッとした。


「玲ちゃん、ごはんでちゅよー」


「先生!この人、どうにかしてください」


 玲は院内学級の先生に訴えるが、先生は笑った。先生は元々学校の先生だったらしく、退職をして6年前から院内学級の先生になったという。おばちゃん先生は玲に言った。


「そんなこと言って玲も同じ歳の子が来てくれて嬉しいんでしょ」


「全然嬉しくないから!」


 玲は僕を睨みながらおままごとへと連れていかれた。僕は再度勉強をやろうとした。そこに男の子が服を引っ張った。


「奏斗お兄ちゃん。一緒に遊ぼう」


「奏斗くん、良かったらみんなと遊んでくれる?みんな奏斗くんが来てくれて嬉しいんだよ」


「先生、その言葉即訂正。私以外ね」


「いいよ」


「やった。じゃポケヤンごっこやろう!お互いに選んだポケヤンで戦わせるの」


 僕は男の子に連れられてポケヤンごっこに参加した。


・・・・


 院内学級は近くの小学校と連携しており、小学校から直接給食が届けられる。給食当番があるのも同じだった。僕と玲は高学年児童として配膳する。


「よし、デザートが余ったからほしい人じゃんけんをします」


 アセロラゼリーが一つだけ余る。先生の言葉に僕と玲が手を挙げた。火花が再び飛び散る。


「じゃ、奏斗くんと玲さんでじゃんけんですね」


 僕は両手を握って、隙間から玲の顔を見る。僕の謎の行動に玲はいぶかしげな表情で見た。


「何やってるの」


「透視だよ。こうすると玲が出す手が分かるんだ」


「はぁ?じゃやってみなよ。私はグーを出す」


 もちろん僕には透視能力があるわけではない。昔、こうすると透視ができると本で読んでやっていたことがあるが、勝つ確率は結局3分の1。玲を恐れさせるための策であったが、玲も勝つ自信を持っていた。


 グーを出す。玲の言葉は信じられるわけない。その宣言を真に受け止めるのであれば僕はパーを出せば勝てる。しかし玲はそれを読んでチョキを出す。ならばグーを出せば僕の勝ち。


 しかし、グーを出さないならば玲はチョキかパーを出すということ。負けることは決して許されないので、あいこか勝ちの可能性であるチョキを出すことが最優先である。


 そしてチョキであいこになった場合、同じ手が二連続で来ることは考えにくい。チョキの後はグーかパー。つまり僕がパーを出せば勝てる。僕が出すべき手はチョキ、パー、グーのサイクルだった。


 このじゃんけんは二人にとってアセロラゼリーなどはどうでもよかった。もっと大きなもの、相手に勝つという結果。それだけだ。僕は拳を強く握る。波動が拳を包む。


「「最初はグー…」」


「「じゃんけん、」」


「「ポン。」」


 僕はチョキを出す。恐る恐る目を開けた目線の先にはニヤリと笑う玲の顔。その手は強く握られていた。


「私は言ったとおりに出したんだけど。考えすぎだよ。少しは人を信じることも大切だよ」


 玲はアセロラゼリー掲げながら自分の席に持っていく。僕はじゃんけんに負け、膝を着く。悔しかった二日目だった。

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