21話 僕と石森の一日目
21話 僕と石森の一日目
小学生の頃の話。
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夏と言えば、海、スイカ割り。セミにかき氷、花火大会にラジオ体操。とにかく行事も遊びもたくさんある季節。僕は季節の中で夏が一番好きだ。
でもその夏、僕はクーラーの聞いた病室で、楽しくもないゲームを黙々としていた。運動中にケガをしてしまい、手術をするために病院に来た。手術は無事に終わったけど、経過観察のために7日間入院をすることとなった。
田舎とも都会とも言えない中途半端なこの街。山に建てられたそこそこ大きい病院の一室に僕はいた。
「院内学級?」
「うん。ここの病院には院内学級があって子どもたちが勉強しているんだって。奏斗、行ってみない?」
初めて聞く院内学級というワード。病院には院内学級というものがあり、学校に行けない子どもたちが勉強をする場所があるらしい。
「まぁ暇だし行こうかな」
「そう。じゃ先生に伝えておくね」
興味などはないが暇つぶしのために参加してみることにした。
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一日目。僕は5階からエレベーターに乗って院内学級のある8階のボタンを押す。エレベーターの扉を抜けて奥へ進むと、病院では見ないような賑やかな場所にたどり着いた。壁には折り紙で作られた様々な動物が掲示されている。中に入ると20人程度の子どもたちが勉強や遊びをしていた。僕に気づいた先生がにこりと笑う。
「あっ、奏斗君が来た。みんな一度自分の席に戻って」
教室には小学生の子どもがいた。学校と違うのは、1年生から6年生までの子どもが同じ教室にいた。
「今日から1週間だけだけど、みんなと一緒に勉強する男の子です。自己紹介お願いします」
「今日から一週間、みんなと勉強をする奏斗君といいます」
「「よろしくお願いします。」」
挨拶の後、用意されていた席に座る。院内学級は時間割はあるけど、ほとんどは自由時間で、遊ぶのも勉強するのも自由だった。僕は学校から渡された夏期課題に取り組む。
「ここ間違ってるよ」
「あっ」
前に座っていた女の子―石森玲が理科の誤答を指摘する。そして玲は笑った。
「こんな簡単な問題もできないの?」
「ぐぬぬ」
玲は馬鹿にしたように笑う。僕は玲の算数のプリントを取り上げて端っこから確認していく。
「たまたまだよ。たまたま。あれ、玲もここ間違ってるじゃん。こんな簡単な問題なのに~」
「えっ、あっ」
そして僕はやり返すように大きな声を出して笑った。玲は悔しそうに唇を噛む。僕と玲の目線には目に見えない火花が飛び散った。勉強の内容は同じだったので玲も同じ学年であることが分かった。そこに小さな女の子がやってくる。
「玲お姉ちゃん、遊ぼう」
「いいよ!奏斗くんなんて嫌い!」
玲は低学年の子どもたちの所に行く。途中振り向いて下まぶたを引き下げ、舌を出す。侮辱の意に僕は変顔で返す。
それが僕と石森玲が出会った一日目だった。
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