16話 想い思い重い

16話 想い思い重い


目の前には月崎玲がいた。私の連立方程式が、奏斗の連立方程式に交わる。


「ハンカチ、洗って返す」


「別に大丈夫だよ」


「ううん、申し訳ないから」


「分かった」


しばらく2人黙ってブランコを揺らす。月崎玲は奏斗が想いを寄せる女の子。奏斗は玲に想いを伝えるために私と付き合っている。そして話すのは初めてだった。


「なんで泣いてたの?」


「多分言ったら笑われる」


「そうかぁ、あっ、そういえば、萌衣さんに一つだけ聞きたいことがあったんだよね」


「聞きたいこと?」


何を聞きたいというのだろうか。玲が奏斗に想いを寄せているとは言い難い。それに、玲は雄大と付き合っている。玲の方程式に、私は存在していない。


「私から聞きたいことは一つ。奏斗くんのこと好き?」


はっきりとは言えないけど、私は奏斗のことが好きなのかもしれない。


仮彼女として付き合っているが、気が付くと奏斗のことも好きになっている自分がいた。でも欲張りだったんだと思う。私は徹を求めながら奏斗を求めた。徹がダメになったから急に奏斗を好きだと言うのも違う。


人と関わるということは、ある程度の想いを抱くことになる。それは奏斗も同じだと思っている。私と関わってしまったことで、奏斗の心境にも変化が起こっている。


(私は)


元々私と奏斗が付き合った理由は、私が徹と、奏斗が玲と付き合えるようにという想いで始まったものだ。今、私が答えることはなんだろう。


「私は奏斗のことが好き。でも奏斗は」


正直な気持ちを打ち明けた。奏斗と付き合っているうちに奏斗に対する気持ちは大きくなっていた。それは徹に対する気持ちと対等、今となってはそれ以上なのかもしれない。


悔しかった。私はブランコからジャンプして目の前の水たまりに飛び込む。そして玲を正面から見る。悔し涙を浮かべて。


私が玲に話すことは決まっていた。奏斗との約束だ。私が正しい道に導く。


「奏斗はあなたのことが好きだから」


玲はこちらを見て目を丸くする。間髪いれずに聞きたいことを聞く。


「私も聞きたい。玲と奏斗はどういう関係なの?」


・・・・・・・


1ヶ月前ぐらいだろうか。奏斗がスマホでTwigramを開きながらこんなことを言っていた。


『不思議なことがあるんだよね』


『何が?』


『実は高校生になる前から玲にフォローされてるんだよね。中学校も違ったし、玲のフォロワー少ないし、なんでフォローされてるのかな』


奏斗が玲と相互フォローしていることは知っていた。てっきり奏斗の方から玲をフォローしたのかと思っていた。


『実は玲は高校入る前から奏斗のこと知ってたんじゃない?』


『それはない。…と思う』


考える奏斗。はっきりと言えない所もあるのだろうか。ならどこでその変曲点が存在したというのだろうか。


・・・・・・・


「奏斗はね、私の初恋の相手。奏斗は知らないだろうけど、小学生のときに私と奏斗は会っている」


私は玲と奏斗の出会いの話を聞いた。そして、この物語が単純な数字の代入によって解けるものだと知った。


方程式を複雑化させたのは、想いの相違が原因だった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る