15話 私の臨界点
15話 私の臨界点
「俺、萌衣のことがす」
「その言葉今聞きたくない!!」
私は耳を塞いで徹から離れる。雨がポツポツと身体に当たる。なんでこういうときって雨が降るんだろう。多分この雨を降らしたのは作者だ。
徹が傘に入れてくれた時は、雨が創る感情も悪くは無いと感じた。でも雨は結局雨だった。
突然叫んだ私に、徹も驚いた表情で放心する。
「私は徹のこと好きじゃないから」
美穂に振られたから私と付き合うとか絶対納得がいかない。そんなこと徹は思ってないのかもしれないが、この先の徹に対する想いが変わってしまう。
でももう遅い。その言葉は今でもないし、未来でもなくなった。過去になった。
私は涙を抑えて強気に発言した。しかし、涙は止められそうになかった。唯一助かったのは雨で涙がごまかせたことだった。
その涙が徹にバレる前に、私は徹から、そして自分から逃げた。
・・・・・
そういうことが終わるとドラマみたいに雨が晴れる。小説だから天気を操るのは自由なんだろう。
気が付くと知らない公園にいた。タオルを敷いてブランコに座る。ブランコは今にも壊れそうな音を奏でる。私の気持ちは既に壊れている。
徹は私と付き合おうとしたのだろう。しかし、その理由は、美穂と別れたからという理由に過ぎない。そんな理由で付き合いたくはなかった。私が以前、奏斗に徹を重ねて見ていたように、いずれ徹は私を美穂に重ねて見るに違いない。そんなのは嫌だ。
私が欲しい解はこれじゃない。想いや言葉には責任が付き纏う。作者の意地悪な解を私の我儘な感情で相殺。
(誰か)
私は誰かを求めた。
私のこれからを決めてくれる人。方程式を示してくれる人。
でも誰も来なかった。
スマホを取り出して奏斗に連絡しようとするが寸前で手を止める。
奏斗に連絡したら、きっと来てくれる。でもそしたら、私は奏斗の心を変えてしまう。迷わせてしまう。
美穂に電話しようとした。でも、この状況は私を想ってくれたことによるものだと何となく気付いている。だからこそ美穂には今会えない。親友でなくなってしまう。
私の方程式を知る相手は、奏斗と美穂以外に思いつかなかった。私は徹をまだ好きでいられるのだろうか。私は私自身の心を信じることが出来るだろうか。今の私には無理だ。
誰でもよかったのに、誰にも相談することはできなかった。
その時、
隣のブランコに人が座った。その人は私に何も言わずにブランコを軽く揺らす。私は涙を拭い、その人を見た。
(なんで)
すらっとした足。
(なんで)
ヒラヒラと揺れるスカート。
(なんで?)
私と交わるはずが無い女の子。
「なんであなたが…」
「なんとなくここを通りかかったら泣いてたから。どうしたの?大丈夫?」
その人、月崎玲は私にハンカチを差し出した。
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