11話 僕たちの一次方程式 (1章終)
「そもそもさ」
「ん?」
「隼也に彼女いるじゃん」
「はぁ?」
今年の暑さは異常をきたしていた。熱中症警戒アラートは連続30日を達成。蝉たちも暑さにやられたのか、例年に比べて地面に転がる匹数が多い気がする。
今日は僕の物語路線からは少しだけ外れ、モブキャラ隼也について話す。一応モブキャラと言っても僕から見た世界ではしっかりと名前はあるので、モブキャラではなく隼也という名前を使わせていただく。
「ほら、後ろ見なよ」
「やめろ、刺激するな。目を合わせたらこの世の終わりだ」
教室の後方。隼也へ一直線に視線を向ける女の子。女子の名前は文香(ふみか)。友だちからはプッチョという愛称で呼ばれている。学校内で最も太っている生徒であり、マスコットキャラクターのポジションとして扱われている。
あの巨体で、中学生の頃は陸上部短距離選手だったらしい。走る姿は肉弾と呼ばれている。ちなみに好きな男子はモブキャラ隼也である。休み時間になると毎度のこと隼也に視線を向けている。
「付き合っちゃえばいいんじゃね?」
「あのな、俺の立場になってみろ。毎日あの巨体に追いかけられてみろ。逃げてるのに距離は離れず、寧ろ距離を縮められる。常に感じる視線。気のせいかと思って振り向くと本当にそこに視線がある」
「確かになぁ」
時折追いかけられているのを見ているが、なぜかプッチョの方が速い。さすがは肉弾と呼ばれていることだけはある。
「中学生の頃は痩せてて可愛いかったとは聞いているよ」
「らしいな。中学校で一体何があったんだか」
というのがモブキャラ隼也の設定である。隼也は隼也でしっかりと自分の方程式を持っている。この隼也と文香の関係性が、またいい味を出すんだよね。
「あともう少しで夏休みだからな。それまでは耐えるぜ」
「だな、もう楽しみすぎてテンションぶち上がりだわ」
今日は定期テスト返却日の7月14日。僕たちの夏休み(小説第2章)は近い。
・・・・・・・
2章は体育祭編となる。この学校のおかしい所が9月初頭に体育祭があるという所だった。熱中症対策として10月に振り替える学校が多い中、伝統がどうとかで僕らの学校は予定通りの開催だ。
夏休みというものはあるが、練習のために学校には行かなければならない。夏休みの意味を学校は理解していない。夏は海、肝試し、登山、昆虫ゼリー…とにかくやることが多い。
そして体育祭は他クラスとの交流を図るために、クラスは4グループへバラバラに別れることになる。組み分けが発表されていく中、僕と雄大の切れない糸の関係が継続。僕たちの友情はどうなっているのだろうか。
「おっしゃー!奏斗と同じ組だぁ」
僕と雄大、隼也は揃って図書室に向かう。今日の古文の授業は図書室で意味調べの時間だった。
「なんで俺は緑組なんだよ。野菜組嫌だよ」
「隼也、お前は今日から俺たちの敵だ。近寄るなよ」
「酷いよォ~」
隼也が泣くふりをしながら追いかけてくる。僕たちはやめて〜とふざけ半分に逃げる。
「隼也く〜ん」
そこにドスドスと何かが走ってきた。音とともに床が振動する。手を振ってこちらに走ってくるその女の子は…。
「隼也くん、やったね、一緒の緑組だよ。うふっ」
「知ってるよ!分かったから追いかけてこないでくれ。なんでよりによって一緒なんだよォー!」
隼也は文香から逃げた。僕たちは二人の背中を見て笑う。
「お似合いだな、あの二人」
「そうだね。羨ましい限りだよ」
「全くだ」
文香みたいに、想いに素直になれればいいけど、僕たちは一つの直線の中では生きていけなかった。
想いが伝えられないだけで物語はどんどん複雑になっていく。一次方程式を解くことも出来ないのに連立方程式の問題に挑んでいるように。
「あ、そうだ。萌衣はどうだった?」
「違う組だった。玲は?」
「違う組だ」
僕らはお互いにしばらく黙り合い、そしてお互いに笑い合う。何かお互いに互いを探っている感じが馬鹿らしかった。
「奏斗」
「何?」
「頑張ろうな、体育祭」
「うん」
整理すると、
僕と雄大は白組、
萌衣と徹は赤組、
美穂と玲は青組、
隼也と文香は緑組
になった。
雄大は玲と付き合い、
僕は萌衣と付き合い、
徹は美穂と付き合い、
隼也は文香に追いかけられ、
僕らの恋立方程式は体育祭編でより複雑化する。
1章 終
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