10話 雄大の方程式
10話 雄大の方程式
「気持ち悪いなぁ」
「会長どうしたんすか、湿気っすか」
「仕事もしないでスマホ見ながらニヤニヤしてるお前が気持ち悪いんだよ!!!」
「分かりますぅ?先輩?」
「分からんから黙って仕事しろ」
先輩のカレーヌードル、俺の青いウサギうどんの匂いが混ざり、異様な臭いを解き放つ放課後の生徒会室。月一の代表者会議の資料作りで呼ばれたが、俺は電気ポットを借りに来たに過ぎない。
他にも冷蔵庫、小型テレビ、DVD、布団、枕…生徒会室にはありとあらゆるものが揃っている。その気になれば生活することもできるのではないだろうか。
臭いを逃がすための扇風機は苦しそうな音を響かせながら首を振る。2代上の生徒会長が学校のゴミ捨て場から拾って修理をしたものらしい。
「はぁ、で、仕方ないから聞いてやるよ、雄大くん、なんで君はそんなに嬉しそうなんだい」
「彼女できました」
「ぶううううううううう、げほっ!、げほっ、やべっ、鼻からネギ出てきた」
「ひぃぃ」
会長の鼻から出た小さなネギ一欠片。扇風機の風に乗り俺に向かって転がってくる。椅子から飛び上がりネギ回避。
会長がネギを拾ってゴミ箱に捨てている間に自己紹介。俺の名前は瀧口雄大。2年1組の生徒会副会長。次年度の生徒会長候補になっている。そしてこの恋愛小説の主人公を担う。生徒会に立候補した理由は女子にモテたいから。
そして本日彼女もGET。俺の青春ステータスはカンスト値に到達しようとしていた。俺の波は漸近線を走るタンジェントだ。このテンションならどんな問題でも解ける気がする。二次方程式三次方程式千次方程式どどんとこい。
「で、誰よ」
「2組の月崎玲です」
「おぉ、素直に凄い。この前一緒に考えた『この学校で可愛い子ランキング』5位の子じゃないか」
「俺にとっては1位ですからね。ってか会長まだランキング覚えてるんですか。中々の変態っぷりっすね」
月崎玲は男子の間でも絶大な人気を誇る。何人もの人間が告白をしたが全て断られる。理由は好きな人がいるということだったが、それが誰なのかは知られていない。
そして相手は俺でもない。1度は断られた身である。俺は月崎玲と関わる中で、好きな人は誰なのかと考えていた。月崎玲を観察していると一人の人間が浮上。
(たぶん玲が好きなのは奏斗だ)
このでたらめの憶測をパズルに当てはめていけば事象が上手く重なることが分かった。奏斗と玲の関係式は分からない。奏斗を1番知る俺でも見えてこなかった。
だとしたら玲が奏斗に対し、一方的に好意を抱いていることになる。なんと羨ましいやつだ、と一言述べておく。それに奏斗は気付いていない。
俺の告白に対し、玲がきっぱりと断れなかったのは俺と奏斗が繋がっていたから。色々な複雑な感情を抱き、最終的に「俺と関わることで奏斗に近付こう」という結論に至ったのかもしれない。
そしてそれを決定づけたのが、玲の捨て垢のようなアカウント。フォロワー16人の中に奏斗がいた。
「どうした?」
「いやぁ、玲と付き合えたことはいいんですけどね。もしかしたら玲の好きな人は…」
と、続きを切り出そうというタイミングでドアのノック音。許可もせずに入ってくる1人の女の人。
「失礼しま…ってか臭!まじで臭い、まじで生徒会室で飯食うなっていったよね!?」
「「ご、ごめんなさい」」
生徒会で最も権力を保持するのが目の前の副会長。会長も俺も恐れる人物だが、副会長無くして生徒会は成り立たない。
俺たちはその後30分の正座をさせられた。
・・・・・
そして俺は、物語の主人公が俺では無いことに気づく。
玲と一緒に帰ろうと約束していた日に、奏斗と玲は偶然にも昇降口で会ってしまった。奏斗は、俺と玲が付き合ったことに動揺を隠しきれていなった。
別れる瞬間の2人の目に秘める想いは俺には分からない。二人の間には何らかしらの関係値がある。俺には知らない奏斗の想いが存在する。この物語は奏斗の恋愛物語であると推測した。
(えっ、だとしたら、俺は主人公奏斗の恋愛を邪魔する立場の人間か?)
確かに考えてみればこんなに順調に事が進む恋愛小説などない。俺が主人公だとすれば物語は8000文字ぐらいで完結。しかし聞いた話によればこの小説は5万文字を超えるらしい。
俺は大きな勘違いをしていた。これは奏斗が主人公の物語。俺は親友ながら主人公の恋愛を邪魔するサブキャラ。そして奏斗と玲の間には何かしらの関係が成り立っている。
「玲、よかったのか」
「うん」
この物語を描く作者さん。俺は分かってしまいましたよ。あなたの描く小説の式には俺は乗らない。俺は玲と奏斗を付き合わせる。
そして読者の皆さん。物語を複雑にさせてしまったのは俺の責任です。俺は必ず玲と奏斗を付き合わせます。
俺と玲の距離30cm。それ以上は縮まらない。
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