5話 最も簡単な恋立方程式
5話 最も簡単な恋立方程式
空を見つめていたが答えは見つからず。作者さん、僕に解き方を教えてください。どうすれば物語は進むのでしょうか。どうすれば解は得られるのでしょうか。
何も考えなくとも足は自宅の自室の自分のベッドへと進んでいた。しかし、第2昇降口に女の子が泣いていたため早くも足が止まった。
名前は清水萌衣。背が小さく、可愛いと評判がある。その人気は玲とも競るほどで、好みによって分かれる。密かに男子の間で作られている人気ランキング上位にいる(全くもって女子に失礼な話である)。
「なんで泣いてるの?」
「な、泣いてるんじゃなくて、これは雨で濡れたんだよ」
「傘は」
「忘れた」
「じゃこの傘貸してあげるよ」
「いらない。親迎えに来るから」
「僕も迎えが来るから。ここで待っていい?」
「まぁいいけど」
SNSアプリTwigramを開いて、玲のアイコンをタッチする。経緯は不明だが、高校入学前から玲とは相互フォローをしている。たぶん「春から○○高校です!同高よろすく!」みたいなノリでフォローしたのだろう。
(もう玲への想いは忘れよう)
忘れられるわけもないのに今までの想いを遠ざける。雄大に対して憎いという想いは無い。僕が想いを伝えられないのが悪い。そうだ、僕は雄大を応援する。玲のアカウントには雄大が追加されていた。震える指をフォロー解除ボタンに持っていく。
でもその指を萌衣の言葉が止めた。
「あ、あのさ、正直に言うと、私、さっき泣いてた」
「…正直に言うと、僕も泣きたい気分」
それが僕と萌衣との出会いになる。
・・・・・・
僕らはお互いのことを話した。
僕が玲を好きなこと。玲が親友の雄大と付き合い始めたこと。
萌衣が徹のことを好きなこと、徹は萌衣の親友の美穂が好きなこと。
共有は一時の感情を抑えるのには十分だ。僕らは互いを笑いあった。
「はい、傘貸してあげるよ。親来ないんでしょ」
「うぐっ…まぁ」
萌衣に傘を渡して歩き始める。雨が目に入って目から頬を伝い水滴が下る。その涙は少しだけ塩分を含んでいた。
「ま、待って、奏斗」
作者は数学が好きな人だと忘れていた。僕は物語の題名を忘れていた。追いかけてきた萌衣。背伸びして傘に僕を入れる。
「傘が小さくても2人で入れるよ」
この物語のタイトルは『最も簡単な恋立方程式』。こうして僕と萌衣は交わった。
・・・・・・
んなわけあるかーい
僕はそんなものには流されない。作者の小説の傾向は掴んでいる。僕には僕のシナリオがある。
先にネタバレでもしておこうか。今、ここで萌衣と関わると、僕は萌衣に恋愛感情を抱くことになる。作者の小説のいつもの流れだ。
「なんで?」
「なんでって⋯悔しいから?寂しいから?分からない」
悔しさであろうとも悲しさであろうとも僕に解決出来る術は無い。もし解決できるのであれば、自分の感情を解決している。玲のことなど忘れて、今頃ヘラヘラした感情で異世界転生アニメでも見ていることだろう。
僕と萌衣は別々の恋愛(恋哀?)小説を生きている主人公同士だ。別次元の方程式を生きている。僕らは「互いに素」の関係だ。
でも、
もし、方程式を繋ぐ言葉が存在するのなら。⋯そんな言葉、少なくとも小説作者は持ち合わせていないだろう。
でも、萌衣は言葉を持っていた。
その言葉は、雨の音を無視して直接耳に届く。僕は足を止めて振り返ってしまった。
「奏斗、付き合って」
「・・・はい?」
恋立方程式。僕らの解を求める物語が始まった。
・・・・・
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