4話 私と君はすれ違い方程式

4話 私と君はすれ違い方程式


 私、萌衣。後悔先に立たず。父の言うことを聞いておけばよかったと思うがもう遅い。美穂とも別れ、雨が止む希望を抱き空を見つめる。鼠色の絨毯が空一面に敷かれている。


 初々しさの残るカップルが一つの傘に入りながら目の前を通る。そんな二人を見て、青春を羨ましく思う。


 しかし青春を満喫するためにも、まずは背の高さをどうにかしなければならない。小さくて可愛いと言われることはあったが、私も高校生だ。大人として見られたい。


 走って帰ろうとした時、昇降口から声が聞こえた。


「じゃぁな徹。夜9時にマルチ部屋集合で」


「うん、じゃまた後で」


(え?待って徹?)


 名前の設定もないモブキャラ男子だったら平然を装うことぐらい容易い。しかし物語の主要人物。やばい、ふぅ、よし、平然平然。平然だ、私!


「あれ、萌衣さん、どうしたの?」


(うひゃぁぁぁぁぁぁo(゚д゚o≡o゚д゚)o)


 どうするどうするどうする?うん、単純に話しかけられただけ。そうだ。慌てるな私。落ち着け私。


「傘を忘れて。あ、でも親迎えに来るから」


「そうなんだ。最近の天気予報士的中率低いからね。俺も傘忘れて親待ち」


「そうなんだ」


 会話を広げられない自分が悔しい。他人ばかり優先してしまい、自分の意見を言うのが苦手。美穂にも「自分の考えを強く持て(๑•̀ㅁ•́๑)✧」と日頃から言われている。


「あのさ、萌衣さん」


「な、なに?」


「言いづらいんだけど、実は俺さ…」


(えっ、何これ、もしかして、もしかして!)


 話の急展開、少しの期待。しかし、期待を寄せるだけの希望すら無かったことを痛感する。考えてみれば、この物語は純粋な恋愛小説では無い。作者はそんな甘いゴールは用意していない。


「美穂のことが好きなんだ」


(う、へ、え?)


 頭の上にはクエッションマークが3秒くらい浮かんだ。その後、止まっていた血が流れ始める。徹が発した名前を理解することに時間がかかる。


「美穂、、、そうなんだ」


「うん。あのさ、萌衣さんって美穂の友だちだよね。告白を手伝って欲しいんだけど」


(あぁ、そういう事か…)


 好きという言葉、当分言えないと思っていた。そして、当分という言葉は永遠に変わった。想いは音を立てて崩れた。


 込み上げてくる想いはなんだろう。悔しさ?それとも悲しさ?それとも情けなさ?


「分かった。手伝うよ」


「本当に?じゃまた連絡するね。じゃ俺迎え来たから」


 想いというものは伝えようとしなければ伝わることは無い。なぜなら想いそのもの自体は物体がないから。物体のないものを相手に読みとって貰うことを期待するのは愚鈍だ。


 私は昇降口の隅に座り込んだ。


・・・・・・・

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