第3話 女の子に、なりました

 少女達に近づく許可を得たナギサは、照れくさそうにしている彼女達の目の前に立ち、足先から頭の先までじっくりと見る。

 普段はそのように女の子を見ることなんて失礼だからしない彼なのだが、この試練に自身の未来がかかっているからそんな事を気にしている場合ではなかった。


(やっぱり全員どう見ても女の子なんだよな。ただ、一番と四番は胸が無い。でもそれで判断するのは早すぎるな。中には小さい子もいるわけだし)


「じゃあまずは最初の質問。君たちは女の子?」


 その質問に対して、さも当然というように頷く四人。


「まぁ、そりゃそうか。試練なんだからここで首を横に振るわけないよな。なら次の質問。男性から告白されたことはあるか?」


 これも全員が頷く。


(みんなこれだけ可愛いなら当然か。なら──)


「じゃあ次だ。自分で自分のことを可愛いと思うか?」


 これは答えが別れた。二番は首を横に振って否定し、一番三番四番は頷く。


(ん? これは……どっちだ? 告白された事があるなら多少は自分の事を可愛いと思ってるはず。だけど俺が知ってる女はそれでも『自分なんて可愛くない〜』って言う女ばっかりなんだよな。だからてっきり全員否定すると思ったんだが……)


「う〜ん…………おわっ!」


 すると、予想が外れて頭を抱えるナギサの前に横からクルクル回りながら現れ、ビシッとポーズを決めるテイエス。


「はいっ! 次が最後の質問だよぉ〜! なぜならテイちゃんが見てるだけなのに飽きたからっ! へヘイッ! ハリーハリー!」


 彼女は決めポーズのままそれだけ言うと、再びクルクル回りながらナギサの視界から消えていった。


「な、なんだ今のは……って次で最後!? どうする? まだ何もわかってないのに」


 ナギサは必死に頭をその事だけに集中して考える。

 考えて考えて考え抜いた結果、一つだけ思いついた事があった。


(試すか? いやでも、これには俺も相当な覚悟が必要だぞ。だけど……いや、躊躇してる場合じゃない。もう俺にはこの試験に縋るしかないんだ!)


 これから行うのは諸刃の剣。上手く行けば誰が男なのかがわかる。しかし確実に自分にその代償が返ってくる。ナギサはそのことを深く深く理解し、覚悟を決めた。


 そして、少女達の前に立つと大きく息を吸う。そして右手を大きく振り上げ──


「はうっ!!!」


 自らの股間を殴りつけた。


「「「!?」」」


 それを見てそれぞれ違う驚愕の表情を浮かべる四人の少女達。そして、ナギサは下腹部を支配する痛みに襲われながらもその変わる表情を見逃さなかった。


「ぐ、ふぐぅ……わ、わかったぞ! この中で唯一の男は──一番の子だ!」


 ナギサが股間を押さえながらそう答えると、どこからかは不明だが一番の子にスポットライトが当たる。

 そして、何故かマイクを持ったテイエスがその影からぴょこんと出てくる。


「はぁ〜い! どうやら答えは決まったようですね〜! 解答権は一回だけなのにいいのですか〜? ダメって言ってももう答えちゃったから訂正は出来ないけどねっ! ではでは! 正解を教える前にこの子を選んだ根拠を教えて貰っても良いかニャ? ってその前に……大丈夫? 顔青いけど」


 ハイテンションで好きなだけ喋ったあと、いきなり素になって心配してくるテイエスに、ナギサは苦笑いで答えた。


「だ……大丈夫……ではないですけど、なんとか無事です……。ふぅーっ、ふぅーっ…………そ、それで理由ですけど、最初は三番だと思ったんです。わざと女の子として自信満々に見せてるのかと。だけど一番の子は、可愛いと思ってるかの質問で頷いてたんです。常に恥ずかしそうにしていて頷きそうな感じではなかったのに」

「ほうほう? それでそれで?」


 テイエスは更に続きを促す。


「それでもう全然わからなくて、最後の手段にでました」

「えっと……ブフッ! それが……さっきの? ブフッ」

「笑うの我慢出来てないじゃないですか。もういいですよ。むしろ笑って下さいよ……」

「きゃはははははははっ!!」


(それはちょっと笑いすぎだろうが……)


 ナギサは内心悪態をつきながら説明を続けた。


「で、こうすれば同じ男ならその痛みがわかってるハズだし、きっと表情を崩すと思ったんです。そしてそれは成功しました。彼女……いや、だけは他の三人の驚愕の表情ではなく、悲痛な表情だったんです」

「ほっほぉ〜ん? なぁるほど? でもソレが正解かはまだわっかりませ〜ん! と、言うわけで結果はっぴょぉぉぉぉぉぉ!!!」


 その声と共にどこからか聞こえるドラムロールの音と、空間を駆け巡る無数の光の柱。

 そしてその光の柱が一箇所に集まり──


「正解はぁぁぁぁ…………ドンッ! 一番のオトコの娘でしたぁ!」


 一番の子を照らした。


「いよっっっっしゃぁぁぁ!!」


 それを見たナギサは痛みも忘れて歓喜の声を上げる。目にはうっすらと涙も浮かんでいたが、喜びの涙なのか痛みの涙なのかは本人でもわからない。


 そして、その姿を見たテイエスはうんうんと満足そうな顔で頷くと、片手をナギサに向けた。


「試練突破おっめでとぉ〜! いやぁ〜キミなら大丈夫だと思ってたよん♪ なによりも自身の性の象徴を躊躇なく殴るその姿! まさに素質あり! だねっ♪ と、いう訳で──新しいナギサちゃんにて〜んせいっ(転性)!」

「……へ? うわっ!!」


 すると、先程テイエスが大人の姿になった時のような煙がナギサを包み込み、しばらくするとその煙は消えた。


「な、なんだったんだ今の煙は……ん? あれ? 俺と同じ事喋ってんの誰──ってあれ? え? この声……俺っ!? はぁ!? どういうことだ? ってちょっと待った待った! 服がずり落ちそうなん……だけ……ど…………え?」


 ナギサはで、ずり落ちそうな服を反射的に手で抑えようとした瞬間に気付く。

 


「…………は? はぁぁぁぁぁぁぁっ!?」




 果ての無い空間。そこで自身の胸を鷲掴みにしながら叫んだのは、長い琥珀色の髪と同性からの嫉妬を買いそうなスタイル。更に、街を歩けば誰もが振り返ってしまいそうな可憐さをもった女の子へと変貌を遂げたナギサだった。


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