第2話 どきっ!乙女大試練開始!

「テ、テイエス様っ!?」


 ナギサは目の前の幼女が発した言葉に驚いて声を上げる。その声は少し裏返っていて、それだけでどれだけ驚いたのかが分かるほどだ。


「もちのろ〜ん♪ それでキミは試練を受けに来たんだね? わかってるわかってる。女神はなんでも知っている。なぜならさっきシャルから聞いたからっ!」


 そこで再び胸を張るテイエス。悲しいほどに胸が無い。その姿を見てナギサはようやく違和感に気付いた。


「あ、あの……テイエス様? 俺が知ってる女神テイエスは、もっと大人の姿で銅像や肖像画が残っているんですけど、えっと……そのお姿は?」


 そう。国を起こし、世界に革命を与えるほどの偉業を成し遂げた者がこんな幼い姿な訳はないのだ。


「この姿? そっか……。そうだよね。気になるよね。これにはちゃんと理由があるのさ……」


 先程までの陽気な雰囲気は消え、表情も曇るテイエス。ぴょんぴょん跳ねていたツインテールも今はしょんぼりしていた。


「理由……ですか。いったい何が──」

「趣味っ!」

「へ?」

「ほら! やっぱり女の子といえば幼女だよねっ! ってことでわざとこの姿になってるの〜! どう? 可愛いでしょ? なんだか禁断の香りがするでしょ? いけないとは知りつつも募る欲情。しかし実年齢は合法。それを知った男は溢れる想いを全身でぶつけてきて……たまらんっ!」

「…………」


 ナギサはドン引きである。

 この国に住む人全ての憧れの女神が色欲魔だったのだから仕方もないことだが……。


「あ、ちなみに元の姿にもなれるんだよ? ほら」

「っ!」


 テイエスが指を軽く振るとボフンっと言った音と煙と共にその姿は変わる。

 煙の中から現れたのは、この世のものとは思えないほどの美女。艶かしい肢体に妖艶な瞳。足元まである長い黒髪は光を放つ程。

 そして、そんな美女のまるで血のように赤い唇が動いた。


「ふぅ……久しぶりね。この姿に戻るのも。どう? この姿ならわかるでしょう? まぁ、銅像や肖像画よりも綺麗な自信はあるけどね」


 キャラまで変わっていた。


「ほ、ほんとにテイエス様だ……」

「納得してくれたのならそれでいいわ。じゃあ──」


 美女テイエスが指を振ると再び幼女の姿に戻る。


「女神の大試練! はっじっめっるよぉ〜!!」


 その声と共に両手を前に出すテイエス。すると地面に四つの魔法陣が現れ、その中央から女の子が出てきた。

 一人目はポニーテールの子。なんだか恥ずかしそうな顔でモジモジしている。

 二人目はショートカットの活発そうな子。

 三人目はパーマのかかった長い髪で自信満々に立っている。

 そして四人目は幼女テイエスと同じくらいの歳に見える女の子。

 全員が可愛らしく着飾り、愛らしい容姿をしていた。


「さぁっ! この中で【男の子】は誰でしょ〜かっ!」

「ええっ!? この中に男がいるんですか!?」


 ナギサは再度この四人を順番にじっくりと見るが、どう見ても女の子にしか見えない。むしろこの中の誰かが男の子だとしても、知らないままで近づかれたら全員にドキドキしてしまいそうだった。


「解答権はたったの一回! この試練を超えた時、キミはになれるのサっ!」

「一回だけ……。これは絶対に間違えれないな。テイエスさま。もっと近くで見てもいいですか? 質問はしても?」

「近くで見るのは全然おっけー! 質問はいいけど、返事は頷くか横に振るかだけだねっ!」

「わかりました。では──」



 ナギサの運命の試練が今、始まった。


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