ホームレス
12月に入る頃、私は関東の小都市に来ていた。車中泊を続けるためには、様々な日用品が必要だ。私は不足した物を買うために郊外の大型スーパーを訪れた。買い物を済ませ、飲料水や食料などを車に積んでいると、女の子が話し掛けてきた。
「車中泊で旅行されているんですか? いいなぁ、、 羨ましいです、、」
先ほどから私の日産バネットを物珍しそうに見ていた中学生ぐらいの女の子だ。
私が友人から貰ったバネットバンは、アウトドア系車中泊使用に改造されていて、かっこいいシールも貼ってありけっこう目立つ。そんな訳で車に興味をもって話し掛けてくる人がいる。大抵は40代ぐらいから定年まじかのオジサンであって、10代の女の子が話し掛けてくるのは珍しい。
「こういう車に興味があるの?」
「私もこんな車に乗って旅行したいです。」
どう見ても14〜15才ぐらいの子だ。
「これから何処に行かれるんですか?」と聞くので「これからキャンプ場に行ってね、そこでで1泊するんだ。関東はこれから寒いからな、そろそろ南の暖かい地方に移動するよ。」そう答えて私が車に乗り込むと、その子は助手席のドアを開けて勝手に乗り込んで来た。そして、「私も一緒に行きたい」と言うのだ。
・・何なんだ! この子は?・・
「あのね、子供が知らない人の車に乗っちゃあいけないんだよ。」と私が言うと
「分かってます、でも寒くって死にそうなんです。私もキャンプ場に行きたい。」と言う。
「困ったなあ、、あんたみたいな若い女の子を車に乗せてると、オジサンが逮捕されるんだよ!」
「大丈夫です、、私、おじさんの子供だって言うから!」
「そんなのバレるって、、」
「大丈夫ですよ、私の事なんか誰も気にしてないから。」
彼女は膝の上に置いたリュック抱きしめながら体をまるめて降りようとはしない。
この子は家出少女か? きっとそうなんだろうと思い
「家に帰った方がいいよ。」と言うと
「帰るとこが無いんです。ホームレスなんです。家は公園とかスーパーの外トイレなんですよ。昨日からめちゃ寒くって、もう限界なんです。」とその子は言う。
「きみがホームレス? 親はいるんだろ?」と聞くと、「私、性的虐待されてて、、」と言ってうつむいた。
「それなら警察に相談すべきだよ。俺がついて行ってやろうか?」と私が言うと
「母が義理父の味方なんで、、証拠もないし、、家出って事で連れ戻されるだけなんです。」と下を向いたまま呟くように言った。
「お母さんが義理父の味方って、 どうして?!」
「母は、私が父を誘惑したって言うんです。お金は上げるから出ていって! って、母に追い出されたんです。」
「お母さんに追い出されたの? で、お金はどのくらい貰ったの?」
「38万くれたんです。まだ30万は残ってます」
「そんなに? それ、あまり人に言わない方が良いな!」
「大丈夫です、セブンイレブンのキャシングカードで貰ったから、、」
母親が38万円もくれたということは、本気で娘を追い出したという事なのだろうか、、
性的虐待となれば夫が警察に逮捕される。いや、母親が言うようにこの子が義理父を誘ったのかもしれない。もしそうなら、夫を娘に取られるか、あるいは夫を警察に取られるかだ。2つの修羅場を避ける為に娘を追い出したのだろうか。いずれにしても旅の途中で出会った他人の家庭のゴタゴタだ。そんな事に関わりたくはない。
「今、寒波が来てるからね、、2〜3日は寒いと思うよ、お金があるんならビジネスホテルに泊まった方が良いんじゃあないか?」
「行ってみたけどダメだったんです、、子供は親の同意が無いとダメだって言われたんです。スマホも買いたかったけど、親が一緒に来ないとダメだって、、」
なるほど、そう言われれば確かにそうだ、、スーパーのレジぐらいなら子供でも通れるが、署名をしたり本人確認が必要な事は中学生では受けはしないだろう。この子の話は嘘では無さそうだ。
「トイレで寝てるんだって?」
「洋式便器に座って寝るんですよ、トイレは中から鍵か掛けられるから安全なんです。」
「なるほどね、確かにトイレなら安全だ。昼間はどうして過ごしてるの?」
「最近はスーパーをハシゴしています、スーパーは暖かいんだけど、同じ店に長く居ると変に思われるんで、他のスーパーとかコンビニなんかを回るんです。夜になったら外のトイレで寝るんですけど最近 トイレは寒くって、、」
それはそうだろう、今の季節は車中泊だって夜は寒い。
「いつからそんな暮らししてるの?」と聞くと
「5月の連休からだから、半年ぐらいです。」と言う。
「でも俺、旅行中だからなあ、、う〜ん、どうしたもんかなあ、、」と私は彼女を観察しながら言った。
彼女は「お願いします、、」と媚びる様に私の目を覗き込む。
この子の事情には同情するんだが、面倒に巻き込まれるのは嫌だし、そもそも私の手にあまる問題だ。しかしほおっておいても誰か悪い奴に引っかかるかも知れない。
「おじさん優しそうな人だから、ほんとうに勇気を出して話し掛けたんです。こんな事始めてなんです。見捨てられたら死んじゃうから、、 私を抱いてもいいから、、お願い! 連れてって下さい。」と、涙目で必死で懇願するのだ。
抱いても良いからって言われても、私はロリコン趣味は無いし、もし抱いたりしたら それこそ何かの罪で逮捕されてしまう。関わらないのが得策だろうと思った。
しかし無理に引降ろすのも無慈悲な気がするし、どうすれば良いものか。
この寒波は3日ほどらしいから、3日ほど車に泊めてやるか。そうすれば、その間に何か良い解決策が見つかるかも知れない。私はそう考えて、その子に言った。
「分かったよ、、この寒空に見捨てるのは可愛そうだからな、車に泊めてやるよ。」
私がそう言うと、その子は、ほっと息をつき安堵の表情を見せて「ありがとうございます。」言った。
「なんて名前なの?なんて呼べばいい?」
「エマです、エマって呼んでください、私はおじさんを親子みたいにパパって呼んで良いですか? その方が良いですよね。」
「うん、親子って事でたのむよ。 でないと拉致犯にされちまうからな。でエマは何才なの?」
「中学生に見られるんですけど、来年の4月に18才になるんです。」
「高校生かあ、 中学生かと思ったよ。しかし、高校生の家出って、、学校で君を探すんじゃあないのか?」
「いえ、高校は中退してますから、、」
「辞めたの?」
「はい、親も探してないし、私を探している人なんて居ないですよ。」
エマがそう言うのであれば、そう信じるしかあるまい。
「それじゃあさあ、キャンプ場で晩飯作って食べようか。キャンプ場の近くに無料の露天風呂があるらしいんだ。エマちゃん、風呂入ってないんだろう?!」と私が言うと「臭いますか? トイレで体を拭いているんですけど、ずーっと風呂に入ってないんです。自分でも臭くって、、」と言って苦笑いをした。
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