第25話 アラウンドワン帰り


 アラウンドワンで遊びまくり、気づいたら日も暮れて夕飯時となっていた。


 夕飯も一緒に食べようということで、近くのファミリーレストランに入った。

 それぞれ適当に商品を頼み、夕飯を食べていく。


「優香ちゃん、結構食べるんだねぇ」


 汐見さんが優香の頼んだ料理を見ながらそう言った。

 大盛りパスタとハンバーグを頼んだ優香は、口の中のものを飲み込んでから喋る。


「んっ……えへへ、そうですね。今日は特に動いちゃったので、いつもより多く頼んじゃいました。それに私の分は、お兄ちゃんの奢りなので!」

「あはは、お兄ちゃんっ子だねぇ」

「今日は優香の受験のお祝いも兼ねて来てるからいいが、普段は自分で払うんだぞ」

「もちろんだよ。だけど私は親からのお小遣いしかないけど、お兄ちゃんは自分で稼いでるんだから、ちょっとくらいいいじゃん」

「えっ、誠也くん、バイトしてるの?」

「んー、バイトって感じではないけど、家で軽く出来る仕事かな」

「在宅で? どういうの?」

「簡単に言うと、プログラミング系の仕事かな?」

「えっ、誠也、パソコンが出来るのか?」

「パソコンが出来るって言い方であってるのかわからないが、まあ人並み程度に」

「プログラミングで仕事をしている人を、人並み程度とは言わないと思うけどねぇ」


 高校一年生になってお金を稼ぎたいと思った時に、バイトもいいかもしれないけど、家でやれるものがいいなぁ、と思って最初のプログラミングを学んだ。


 最初は学ぶのに時間がかかったが、慣れてしまえば家で好きな時に仕事を受けて、パソコン一つで出来る。


「誠也くん、本当にいろいろと出来てすごいねぇ」

「このくらい、香澄ちゃんとの将来のためならどうってことない!」

「おー、すごーい」


 汐見さんの言葉がなぜか棒読みだけど、まあ褒められて悪い気はしない。


「香澄、釣り合うように頑張るっての、無理なんじゃない? 特にスペック面では」

「うっ……いや、確かにそうかもだけど、少しでも近づけるように……」

「お兄ちゃん、すでに親の扶養が外れるくらいは余裕で稼げるらしいですよ。両親の迷惑になるから抑えているっぽいですけど」

「そ、そうなの?」

「はい、あとほとんどは将来の結婚のために貯金してるとか」

「……嬉しいんだけど、ちょっと重すぎないかしら?」

「それくらい愛されてるってことだねぇ」


 三人がコソコソ話で喋っているが、対面に座っている俺と健吾には聞こえてこない。


「誠也、プログラミングって俺でも出来そうか?」

「健吾が? まあ普通に勉強すれば出来ると思うけど。教えようか?」

「んー……いや、まあいいや。俺は部活もやってるし」

「そうか。バスケ部、県大会に出場が決まったんだよな?」

「ああ、一応な。そこで上までいけば全国大会だ」

「応援してるよ、健吾」

「ありがとよ」

「今日の汐見さんとやった時みたいな動きはしないようにな」

「あ、あれは! その……男子相手なんだから、するわけねえだろ」


 大声を出そうとした健吾だが、ファミレスということに気づいて静かになった。

 あまり健吾相手に揶揄う、みたいなことをしたことはなかったけど、健吾は意外と反応がいいな。


 いつも汐見さんに揶揄われて鍛えられてるのかな?



 その後、食事を終えてファミレスを出る。

 ファミレスでも駄弁っていたので、もう夜の九時を回っていた。


「はぁ、すごく楽しかったです! 今日はみなさん、本当にありがとうございました!」


 優香が満面の笑みで、みんなを見渡してから頭を下げてお礼を言う。

 今日の遊びは優香が遊びに行きたいと言ったので、みんなでついてきたという感じだったからだろう。


「お礼を言うのはこっちだよ、優香ちゃん。私もとっても楽しかったよー」

「奈央先輩……! また奈央先輩と一緒に遊びたいです!」

「もちろん」

「それに奈央先輩の恋バナも聞きたいですし!」

「あははー、私相手に聞き出せるかなぁ?」

「頑張ります!」


 よくわからないが、優香と汐見さんは意外と相性がいいらしい。


「俺も久しぶりに部活ない日に遊べて楽しかったから」

「小林先輩、バスケ頑張ってください! いつか応援に行きますね!」


 そんな挨拶をしてから、健吾と汐見さんとは別れた。

 健吾と汐見さんは一緒の帰り道らしく、一緒に二人で帰っていった。


「優香ちゃん、奈央との恋バナ、私も参加してもいいかな?」

「もちろん! やっぱり今日のを見てると、奈央先輩に問い詰めたくなりますよね!」


 なんだか二人は汐見さんの恋バナを聞きたいらしいけど、なんでだろう?

 汐見さんって好きな人がわかりづらそうだけどなぁ。


 そして俺達も帰り道を適当に喋りながら帰る。


 すると優香が俺に耳打ちをしてきた。


「お兄ちゃん、今日は言ってないよね?」

「ん? 何がだ?」

「香澄お義姉ちゃんにプロポーズを、だよ」

「ああ、そういえば……」


 完全に忘れていた。

 前も告白を忘れたのは、クラスメイト達と遊んだ時だったな。


 その時は香澄ちゃんがいなかったからしょうがなかったけど、今日はずっと一緒に香澄ちゃんがいたのに忘れていたのは……優香が脅してきたからだ。


「このまま今日言わずに帰れば、明日また前回言わなかった時みたいに、香澄お義姉ちゃんからアピールがいっぱいくるかもよ!」

「むっ、それは嬉しいな」

「でしょ! じゃあこのまま言わずに帰るよ!」

「二人とも、何を話してるの?」

「ううん、なんでもないよ、お義姉ちゃん!」

「そう?」


 そのまま適当に喋りながら歩くと、先に俺と優香の家に着いた。


「じゃあね、優香ちゃん、誠也」

「いや、俺は香澄ちゃんを家まで送るよ。もう夜も遅いから」

「別に近いからいいと思うけど」

「その近い距離で香澄ちゃんに何かあったら、俺は死んでも後悔するから。送らせて」

「……わかった、ありがとう」

「じゃあ私は先に家に戻ってるね! あとはお若い二人でごゆっくり!」

「優香の方が若いだろ」


 俺がそう言うと同時に、また優香が俺の耳元にまで寄ってくる。


「いい? お兄ちゃん、二人きりになったからも絶対に言わないでね?」

「わかってるって」


 優香はそれを俺に言って満足したのか、「じゃあまた明日です!」と香澄ちゃんに言って、先に家の中へと入っていった。


「じゃあ行こうか」

「ええ」


 さっきまでは優香や汐見さんが一緒にいたからずっと喋りっぱなしだったけど、今は静かに二人で夜の道を歩く。


「楽しかったね、今日は」

「ええ、とても。久しぶりに……ふふっ、誠也の歌声も聞けたしね」

「別に俺は香澄ちゃんほど上手くはないけど」

「上手くなくても、私は誠也の歌声は結構好きよ?」

「え、ほんと? それは嬉しいな。俺も香澄ちゃんの歌声、めっちゃ好きだよ」

「ありがとう……あっ」

「ん? どうしたの?」

「あ、いや……誠也は今日、その、何かやり残してることとか、ある?」

「やり残してる、こと?」

「うん……」


 香澄ちゃんはそう言って俺の方をチラッと見てくる。

 おそらく香澄ちゃんは、俺がプロポーズしていないことを言っているのだろう。


 前は気づかなかったから言わなかっただけで、今は気づいているから本当は言いたい。


 俺も毎日言わないといけない身体になっているのかもしれない。


 だけど……優香に言われたし、言わない方が香澄ちゃんからアプローチを受ける可能性があるらしいから。


「特に、ないかな。今日はすごく楽しかったしね」

「……そ、そっか」


 俺がそう言った瞬間、香澄ちゃんが目を伏せた。

 声色も落ちて、横顔を見るとどこか悲しんでいるように見えて――。


「――香澄ちゃん、ごめん、めちゃくちゃやり残したことあった」

「えっ?」

「香澄ちゃん、好きだ。結婚しよう」


 俺がそう言うと、香澄ちゃんは目を軽く見開いた。


 しかし次の瞬間、さっきの悲しい顔はどこかにいったかのように、可愛らしい笑みを見せて――。


「ふふっ、むり」

「ぐふっ……!?」


 フラれた。


 だけど香澄ちゃんの落ち込んだような雰囲気はなくなったから、それはよかった。


 もしかしたら前のようにプロポーズをしなかったら香澄ちゃんからアプローチを受けるのかもしれないけど……。


 彼女があんな悲しそうな顔をするなら、俺はどんなことがあってもプロポーズをする。


「いつか絶対に香澄ちゃんを振り向かせて見せる!」

「……誠也以外の方向なんて、向いたことないけど」

「ん? 何か言った?」

「なんでもないわよ」


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