第26話 奈央と健吾
香澄ちゃんを家に送って、家に帰って優香にプロポーズしてしまったことを話す。
「なんで!? 絶対にしないでって言ったよね!?」
優香としないと言って送り届けに行ったのに、約束を破ってしまった。
「本当にごめん」
「むぅ……なんかあったの?」
「いや、ただ俺が我慢出来なかっただけだ」
「嘘。バカでアホなお兄ちゃんだけど、あそこまで私としっかり約束したのに破ったのは、なんか理由があるでしょ?」
優香は俺のことをしっかり見抜いているようで、言い訳は出来ないようだ。
別に言えないような訳じゃないからいいんだが。
「なんとなく、香澄ちゃんが悲しそうな雰囲気をしたから。それで我慢出来ずに言ってしまた」
「悲しそう……まあ一日されなかっただけであんな相談をしてきたんだから、そりゃそうなるかぁ」
「ん? 相談?」
「いやこっちの話。じゃあお兄ちゃんはお義姉ちゃんの悲しい顔を見て、プロポーズしたわけね」
「ああ、そうだ」
「結果は?」
「ダメだった」
「でしょうね。はぁ、お義姉ちゃんも罪な女だねぇ。少し悲しい顔をするだけで、お兄ちゃんを誘惑するなんて」
「香澄ちゃんに誘惑されるなら本望だな!」
「……まあお兄ちゃんがそれでいいなら、それでいいけど」
◇ ◇ ◇
香澄と優香ちゃん、それに誠也くん達と別れてから、私は健吾と二人きりで夜の道を歩いていた。
「はぁ、今日は楽しかったなぁ。久しぶりにあんなに遊んだよ」
「男子も女子も俺らの高校のバスケ部は結構厳しいから、あんまり休みないんだよな」
「そうなんだよねぇ。進学校なのにこんなバスケ部が厳しいなんて、聞いてないよー」
「じゃあなんでバスケ部入ったんだよ。奈央の性格からして、高校もバスケ部に入るなんて思わなかったぜ。厳しいってわかって入っただろ?」
「まあね……」
バスケは好きだけど、厳しく練習するとかはそこまで好きじゃない。
うちの高校のバスケ部は厳しいって入る前から知ってたけど、それでも私は入った。
理由は……チラッと隣で歩いている健吾を見る。
「ん? なんだよ」
「べっつにー、なんでもないよー」
中学のバスケ部で出会った、小林健吾。
私は中学生の時、成長が早かったらしく背が高い方だった。
女子の中では高身長の私は、二年生ながらレギュラーで活躍していた。
おそらく才能がある方で、練習も別に真面目にしなくても他の人より上手かった。
その頃、男子バスケの方でも二年生でレギュラーになった人がいると聞いた。
それが健吾で、健吾は逆に成長が遅い方でとても小さかった。
中二の時に私は160センチを超えていて、健吾は150センチなかった。
私が一人レギュラーになって調子に乗ってる頃に、そんな小さい健吾と出会い少し小馬鹿にしたのだ。
『あはは、小さくて可愛い。その身長じゃジャンプシュート打っても、私だったら手を伸ばしただけで止められるね』
『あっ? 舐めんなよ、図体がデケェだけの女に負けるわけねえだろ』
売り言葉に買い言葉で、健吾と私は喧嘩をして、そのままバスケで一対一の勝負をすることになった。
そして私は、ボコボコにやられた。
健吾はとてもドリブルが速く、私は全くついていけずにシュートを打たれる。
逆に私がドリブルを仕掛けても、すぐにボールをカットされて奪われる。
情けないことに私はボコボコにされて泣いてしまい、私を泣かしてしまったと思った健吾はとても居心地が悪そうに謝る。
私から勝負をふっかけたくせに負けたら泣くという最低なことをしたので、あれは申し訳なかった。
その後、私は健吾に負けないように練習を真面目にするようになり、私にとってはいいキッカケとなった事件だった。
ただ……その事件のせいで。
(私がこんなやつに惚れて、厳しいバスケ部に入るハメになったけど……)
男子バスケ部のマネージャーという手もあったけど、マネージャー志望の子が多かったのと、なんか私には合わないと思ってやめた。
健吾がバスケ部に入らなかったら、私も女子バスケ部に入らないでよかったのに。
ぶっちゃけ好きな男のために同じバスケ部に入るなんて、女々しすぎて私らしくない。
「だけどそれが特別嫌じゃないっていうのが、もう重症な気もするけど」
「ん? 何が嫌じゃないって?」
「なんでもなーい」
健吾は中学二年生の頃から、すごく身長が伸びた。
今では私の方が全然低く、見下ろされている。
「こうして二人で並んで歩いていると、健吾は大きくなったよねぇ」
「いきなりなんだよ? まあ確かに中二くらいまでは小さかったが」
「あの頃が一番可愛かったのにねぇ」
「別に可愛いって言われても嬉しくねえよ」
「私とバスケ勝負をした時は本当に小さかったのにね」
「俺は成長期が遅かったからね。今では奈央を見下ろせるようになってよかったぜ」
そう言ってニヤリと笑う健吾。
私は小さくて可愛い健吾も悪くないと思ってたけど。
まあ結婚するとしたら私よりも身長が高い人としたいし、大きくなってよかったけど……って、いや、別に健吾と結婚なんて考えてないけどね?
だけど香澄や誠也くんと一緒にいると、嫌でもそういうことを考えるようになる。
私は別に健吾と結婚したいとは思ってないけど、今は。
普通に付き合って、普通に恋人らしいことをして、普通の恋愛をしていきたい。
そんなことを考えながら、見下ろしてくる健吾をじっと見つめ返す。
「な、なんだよ」
「んー、別に。まあカッコよくはなったと思うよ」
「は、はぁ!?」
「小さくて可愛かった頃よりかは、ね」
「あ、ああ、そういうことかよ。まあそりゃ成長したんだから、多少はカッコよくなるだろ」
健吾は照れたように赤くなった頬を人差し指でかいて、目線を逸らす。
うん、ちゃんと脈はあるようだ。
ぶっちゃけ私は健吾のことが好きだし、健吾も私のことが好きなんだろう。
両想いなのはわかってるけど、私は告白なんかしない。
これも香澄や誠也くんのせいかもしれないけど――。
――私もあんな情熱的な告白、されてみたいもの。
このくらいのワガママなら、可愛いもんでしょ?
「待ってるからね、健吾」
「な、何を?」
「んー、なんだろうねぇ。自分で考えてよ、じゃないと誠也くん二号って呼ぶから」
「俺はあんなアホじゃねえからな!? いや、だけど誠也は頭も良いし運動神経もいいから、褒め言葉なのか?」
「やっぱりアホじゃん」
「だからちげえよ! あとやっぱり貶した言葉なのかよ!?」
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