第9話 2年のクラス



 二年生、最初の登校日が終わった。

 私は部活も何もやってないので、いつも通りに帰る準備を始める。


「香澄ー、一緒に帰ろー」

「奈央、ええ、いいわよ」


 二年生も同じクラスになった親友の奈央が、楽しそうに話しかけてくる。


「奈央は今日、部活はないの?」

「ないよー。そこまで本気の部活じゃないし、始業式の日くらいはね」

「そっか」


 そんなことを話していると、誠也が話しかけてくる。


「香澄ちゃん! 一緒に帰ろ!」

「私はいいけど、奈央はいい?」

「もちろん、旦那さんなら大歓迎だよー」

「ありがとう、汐見さん! あと旦那さんじゃないよ、まだ!」

「あははー、そっかー。いつかなれるように頑張ってね」

「ありがとう! じゃあ今、旦那さんになる! 香澄ちゃん、結婚しよう!」

「むり」

「ぐふぅ!」

「ざんねーん、なれなかったねー」

「奈央、楽しんでるでしょ?」

「うん、楽しいよ」


 奈央はいつものようにニコニコして話す。


 意外と奈央は誠也と相性がいいというか、癖が強い誠也をイジれるくらいにコミュニケーション能力が高い。


 人当たりが良くて誰に対してもほとんど態度を変えない。

 容姿も可愛らしいので、私達の学年で一番か二番を争うくらいに男子にモテる。


 だけど誰かと付き合っているというのは聞いたことがない。


 一年の時から同学年だけじゃなく先輩からも告白されているのを聞いたことがあるが、一度も付き合ってはいないはずだ。


「誠也くん、これからも頑張ってねー」

「うん、頑張るよ」

「ふふっ、一途だねー。誠也くんはそういうところがカッコいいよね、香澄」

「えっ、あ、うん……そうね」

「はっ!? 香澄ちゃんが俺のことをカッコいいって言ってくれた!」

「えー、私も言ってあげたんだけどなー」

「ん? ああ、ありがとう、汐見さん」

「うふふー、どういたしましてー」


 ……なんか怪しい。

 もしかして、奈央は誠也のことが……?


 そうだったら、ちょっと、すごい怖い。


 だって奈央は可愛いし、性格もいいし、スタイルも私より全然いい。

 胸が大きいのにお腹はキュッと締まっていて、足も長くて細い。


 ……奈央が誠也のこと好きだったらどうしよう。


「あっ、誠也ー、今日一緒に帰ろうぜー」

「ん? ああ、健悟」


 誠也に話しかけてきた人は、たしか小林健悟くん。

 一年生の時は誠也と同じクラスで、二年生になって一緒のクラスになった人だ。


 誠也と同じくらい身長が高く、髪が黒くて短く揃えられていて、なんとなくスポーツが上手い男子、という感じがする。

 顔立ちも整っていて、誠也よりも男らしい顔立ちの整い方だ。


 髪型も相まって、少し怖い印象を受けるかもしれない。


「今日は香澄ちゃんと帰ろうとしたんだけど……」

「あっ、そうなの? だけど奈央もいるじゃん」


 小林くんはそう言いながら私達に近づいてきた……というか、奈央?


「あ、今市さん、初めまして、ではないけど、小林健吾です。よろしく」

「うん、小林くん、よろしく。よく誠也から話は聞いてる」

「そうなの? 誠也、俺のことなんて話してるの?」

「彼女欲しいーっていうのが鳴き声の人って伝えてるぞ」

「やめてくれる!? いや、よく言ってるのは否定しないけどさ!?」

「香澄ちゃんは絶対に渡さないぞ! 香澄ちゃんは俺の嫁だ!」

「いや狙ってないから。あとお前の嫁じゃないだろ」

「ぐふっ、確かにそうだった……」


 今のやりとりで誠也と仲がいいというのはわかった。

 ……別に「香澄ちゃんは俺の嫁だ」という言葉にときめいてはないから、本当に。


「今市さん、俺も一緒に帰ってもいい? 今日は部活ないからさ」

「えっ、ああ、もちろんいいわよ」

「よっしゃ、ありがとう。誠也からいつも今市さんの話聞いてたから、いつか話してみたいと思ってたんだよなぁ」


 ニッと笑う小林くんは意外と笑顔が幼く、怖い感じがあるけど根は良い人なんだろうなと思えた。


「おーい、私を忘れないでほしいなー」


 私達がそう話していると、隣で奈央がいつものように笑みを浮かべながら……ん? あれ、ちょっと怒ってる感じの笑顔だ。


「ああ、奈央か。俺も一緒に帰るけど、いいよな?」

「もちろんいいけど、私の了承なしでも一緒に帰るつもりだったでしょ?」

「俺は誠也と今市さんと帰りたいだけで、お前と帰りたいわけじゃないからな」

「うふふー、そっかー。私も健吾なんかと一緒に帰りたくないんだけど、香澄ちゃんと誠也くんがいるからしょうがなくだなぁ」


 ……なんかいきなり口喧嘩っぽいのが始まった。

 いや、だけど口喧嘩というよりは、仲良い人同士のじゃれあいに近いかな?


「えっと、奈央と小林くんは、知り合いなの?」

「香澄に言ってなかったね。中学から一緒なんだー」

「ああ、不幸にもな」

「中学の時からモテモテの私と一緒なんだから幸運でしょ?」

「ははっ、そう思ってろ」

「……うっざ、非モテのくせに」

「お前、本性出てるぞ」


 い、いろいろと情報が出てきて整理がつかないから、待って。

 とりあえず、奈央と小林くんは中学から一緒だった。


 それでどこからどう見ても、仲が良さそう。

 というか、奈央があんな低い声で他人を貶してるのと初めて見たんだけど。


 笑みも浮かべずに嫌そうな顔をしてるのも、とても珍しい。


「……汐見さんと健吾は、仲が良いんだな!」


 さすが誠也、空気を読まずに私も思ったことを口にしてくれた。


「はぁ? 誠也、お前の目は節穴だな。誰がこんな猫被り女と仲良いんだよ」

「本当だよー、誠也くん。こんな性格も頭も悪い健吾と仲良いなんて、反吐が出るよ」

「こっちの台詞だわ。バスケで俺に負けて泣いてたのはどこの誰だよ」

「中学の時のことを持ち出すなんて本当に心狭いよねー。それに女の子を泣かして自慢げにしてるとか本当に男として最低だよね」

「女の子? そんなのどこにいるんだろうな?」

「……健吾の股間蹴り飛ばしていい?」

「やめろ、女の子はそんなことしねえよ」


 ……うん、どう見ても仲良いよね、奈央。


 あと奈央が男の子を呼び捨てで呼んでるのも、初めて見たし。





――――――――


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