第8話 クラス替え


 春休みが終わった。

 俺と香澄ちゃんは高校二年生に、妹の優香は高校一年生として同じ高校に通う。


「お兄ちゃん、どう? 似合ってる?」

「ああ、似合ってるよ」


 優香が高校の制服を着て、俺の前でくるくると回っている。

 家の中だからいいけど、外でそれをやったらスカートが舞い上がってパンツが見えるな。


「というか昨日も言っただろ? 入学式の時に」


 一年生の入学式は、在校生の始業式の前日だ。

 だから優香は昨日も高校の制服を着て入学式に行ったから、その時にも「似合ってる」と言ったはずだ。


「ふふふ……お兄ちゃん、気づかないのかな?」

「何が?」

「昨日は入学式だったからやらなかったけど、今はスカートを折って短くしてるんだよ!」

「あっ、ほんとだ、昨日よりも裾が少し短いな。あとお腹を見せるのはやめなさい、はしたない」


 お腹のところで何度もスカートを折って、スカートを短くしているようだ。

 まあそっちの方がおしゃれなのかな? よくわからないが。


「そんな鈍感じゃ、香澄お義姉ちゃんの変化に気づけないよ?」

「むっ、そうか? それは気をつけないとな」


 そんなことを言いながら俺達は一緒に家を出た。

 しばらく歩くと、香澄ちゃんがいつもの待ち合わせ場所にいるのが見えた。


「あっ、お兄ちゃん、今日はあの作戦やろうよ!」

「ん? どの作戦だ?」

「だから、あれ――」

「誠也、優香ちゃん、おはよう」

「おはよう、香澄ちゃん! 久しぶりに香澄ちゃんの制服姿見たけど、やっぱり可愛いね! 結婚しよう!」

「むり」

「がはっ!?」

「……作戦決行する暇もないね。おはようございます、香澄お義姉ちゃん」


 今日もフラれた。

 何か優香が作戦と言っていたが、最後まで聞けなかったのは申し訳ない。


「優香ちゃん、制服似合ってるね。可愛いよ」

「ありがとうございます! 香澄お義姉ちゃんもすごい可愛いですよ!」

「ありがと」

「優香、当たり前のことを言うなよ。香澄ちゃんが可愛いのなんていつものことなんだから」

「あっ、それもそっか」

「あんた達ね……」


 額に手を置いて頭が痛そうな仕草をする香澄ちゃん、だけど少し頬が赤くなっているのが可愛い。


「あ、香澄ちゃん、髪切った?」

「えっ、本当ですか?」

「毛先を少し梳いただけ、まあ切ったといえば切ったわね」

「やっぱり」

「お兄ちゃん、すご……というかなんでわかったの?」

「香澄ちゃんのことだし」

「私がスカートを短くしたのには気づかず、香澄お義姉ちゃんが毛先を梳いただけでも気づくって、どう考えてもおかしいでしょ」

「香澄ちゃんのことだし」

「……まあお兄ちゃんだからしょうがないか」

「二人とも、早く行かないと新学期早々に遅刻するわよ」


 香澄ちゃんにそう言われて、俺達は少し早歩きで学校へと向かった。



 学校へと近づくにつれ、俺は動悸が激しくなる。


「神様お願いします香澄ちゃんと絶対に同じクラスで本当にマジでお願いします」

「お兄ちゃん息継ぎして、怖いから」


 ああ、息をしてなかったから動悸が激しくなっていたのか。

 いや、深呼吸をしてもドキドキしたままだから、あまり関係はなさそうだ。


「二年生も香澄ちゃんと同じクラスじゃなかったら、俺は死んでしまう、ショックで不登校になってしまうぞ……いや香澄ちゃんと会えなくなるから不登校はありえないけど」

「誠也、落ち着いて。そんなに緊張してもどうせ何も出来ないんだから」

「そ、そうだね」


 小学校から中学にかけてずっと同じクラスだったから、高校を入学した時は高一でも同じだろうと思っていた。

 しかし結果はご覧のとおり、俺と香澄ちゃんは一年も違うクラスだった。


 今回こそは、絶対に同じクラスがいい。


 そう思いながら学校に着き、昇降口に入ってすぐの廊下のところにクラス分けの紙が大きく貼り出されていた。

 その前には多くの生徒が集まり、談笑していた。


 まず俺の名前はどこだ……あった、二年二組!

 香澄ちゃんの名前は――っ!


「うおおおおおおしゃらあああああああ!!」

「うるさっ!?」

「香澄ちゃんと同じだぁぁぁぁ!」

「お兄ちゃん、うるさすぎ。周りの人全員がこっち向いてるし」


 そんなの気にしてられないほど、俺は歓喜に満ちていた。

 見間違いじゃないよな、そうだよな。


 今市香澄、出席番号が早いので二年二組の人達のほぼ最初の方に、その名が書いてあるのを確認し、俺は我慢出来ずに涙を零した。


「うぅ、よかった……!」

「今度は泣いた!? お兄ちゃん、情緒不安定すぎるでしょ」

「香澄ちゃん! 同じクラスだね!」


 俺は香澄ちゃんの方を向いてそう言うと、香澄ちゃんは軽く微笑んだ。


「ええ、そうね。よかったわね、誠也」

「本当によかった! 二年生になってすぐに二年生で一番嬉しいことが決まったよ」

「それは早すぎじゃない?」

「はっ、そうかも。今年中に香澄ちゃんと結婚すれば、二年生で一番嬉しいことは絶対に更新されるか! じゃあ香澄ちゃん、結婚しよう!」

「むり」

「ぐふぅ!?」


 フラれた、悲しい。


 俺がその場に崩れ落ちると、さすがにいろんな人に視線を向けられた。

 おそらく今年入ってきた一年生は俺と香澄ちゃんのやりとりを初めて見たので、めちゃくちゃ驚いて引いてるようだ。


 ごめんね、慣れてね。


「――本当に、よかったぁ……」

「ん? 香澄ちゃん、何か言った?」

「別に、早くクラスに行こうって言っただけよ」

「そっか、そうだね」


 香澄ちゃんもどこか機嫌が良さそうで、二年生は楽しくなりそうだ。



――――――――


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