第2章
第17話:行幸
皇紀2218年・王歴220年・春・皇居・10歳
わたくしは、百六代皇帝となられるアレックス陛下の三女ミアと申します。
年が明けて十歳となりましたが、まだ皇女に遇されていません。
先年亡くなられたアレグサンダー陛下の喪が明けるまでは、アレックス陛下の即位式もできないのですから、仕方のない事です。
そもそもわたくしの皇女就任式どころか、アレグサンダー陛下の葬儀もアレックス陛下の即位式も、従兄のハリー殿が支援してくれなければできませんでした。
それどころか、ライナお姉様は虐殺され、皇家の醜聞が国中に広められ、皇家と皇国の存続まで危ぶまれる事になっていたでしょう。
そう母上が申しておられましたが、わたくしにはよく分かりません。
実際に見聞きしたのは、ハリー殿のわたくしに対する支援が尋常一様ではなく、一日中暖炉の火が絶えることなく、とても暖かに過ごせる事に、アメリア殿がとても驚いておられた事です。
暖炉だけでなく、身を清めるお湯がふんだんに使えて、毎日入浴までできる事をとても羨ましがられました。
それだけでなく、毎日食べる食事の豊かさと美味しさにもとても羨ましがられましたが、わたくしにはよく分かりませんでした。
幼い頃の事はあまり覚えていませんが、覚えているのは何時も美味しい食事をお腹一杯食べられていた事です。
そのお陰なのでしょうか、ガリガリに痩せておられたライナお姉様も、この冬の間に随分と肉付きがよくなられました。
ただ、酷い傷跡は残ったままで、とても可哀想な事だと思っています。
わたくしが話しかけても全く返事を下さらず、ただ虚ろな目を空に向けられるだけで、とても哀しくなってしまいます。
それは実母のアメリア殿も同じで、何も反応してくださらないライナお姉様に話しかけては、涙を流しておられます。
「シャーロット、死の淵を彷徨っていたライナを助けてくれたのが貴女達なのは分かっていますが、とても信じられないのです。
本当に、ハリー殿ならライナを治せるというのですか」
「恐れながら答えさせていただきます、アメリア様。
心の傷に関しては、ハリー様が癒された所を見た事がございませんので、治せるとも治せないともお答えする事はできません。
しかしならが、身体に残っておられる傷跡程度なら、時間をかければ治せると断言させていただきます。
私は実際に目の前でハリー様が片手片足を失った兵士を治したのを見ました。
それも傷跡を固めて治すのではなく、無くなっていた片手片足を元通りに治してしまわれたのです。
そんなハリー様が、ライナ王女殿下の傷跡なら時間をかければ治せると断言されたのですから、必ず治せると思います」
「では、シャーロットからハリー殿に頼んでもらえませんか。
ハリー殿の爵位に関しては、ソフィア殿とも相談して、私達の実家が根回しした上で、皇帝陛下の御裁可をいただき、御葬儀と即位式の支援をしてくださった功を称えて、皇国名誉伯爵位と皇国子爵位を授与する手はずになっています。
だからライナを治してくれるように頼んでもらえませんか」
「恐れながらアメリア様に答えさせていただきます。
我らが主、ハリー様は爵位が欲しい訳ではありません。
お可哀想な目にあわされておられたライナ殿下をお助けしたかっただけです。
ですから、何時でも治してくださるとは思うのですが、一つ問題があります。
周囲を敵に囲まれたハリー様は、領地を離れることができないのです。
ライナ殿下の治療をするとなると、殿下を領地まで御連れするしかありません。
しかしながら、既に修道院が殿下は崩御されたと広めてしまっています。
このような状態の殿下を、今更生きていると表に出すわけにはいかないのではありませんか」
主上はライナお姉様をこのような御身体にしておいて、未だに皇帝としても面目や、皇家の威信の方を優先されます。
わたくしも、ハリー殿が支援してくれなければ、ライナお姉様のようになっていたのだと、母上様もシャーロット達も言います。
ハリー殿は、わたくしの頼みなら大抵の事は聞いてくれるとシャーロット達が言っていましたから、ここはわたくしが頑張らなければいけません。
「だったらわたくし達全員でハリー殿の領地に行幸すればいいのではなくて」
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