第18話:四面楚歌
皇紀2218年・王歴220年・春・皇居・10歳
「ならんぞ、ならん、絶対にならんぞ、王女が皇居を出る事は絶対に許さんぞ」
わたくしが、お姉様や母上と一緒にハリー殿の領地に下向する事を、主上は許してくれませんでした。
お姉様を、このような傷だらけのお姿にしておいて、よく言えます。
ハリー殿が支援してくれていなければ、わたくしも同じ所に送られていたのです。
父親だとは教えられていますが、それ以上に皇帝陛下として敬うべき御方と教えられてきました、が、しかし、とても敬えません。
「では、ライナお姉様をこのようなお姿のままにしておけという事なのですね。
主上の命令で無理矢理入れられた修道院でこのようなお姿にされたお姉様に、何の責任も感じておられないと言う事ですわね。
そのような主上に即位式をする資格などあるのでしょうか。
ハリー殿に主上の言動を申し上げて、支援を止めていただいた方がいいのではありませんか、アメリア殿」
「一介の女官に過ぎないわたくしは、ミア王女殿下を制止する立場ではございませんし、何かをお願いできる立場でもありません。
しかしながら、あのような姿にされた娘の母を哀れに思っていただけるのなら、元凶に尊き立場を与えないように、お願いしていただきたいです」
アメリア殿は皇帝を許す気など全くないようで、一向に衰えない殺意のまま、皇帝を睨みつけているのですから、わたくしまで怖くなります。
「そうですわね、アメリア殿の宮には、まだお若いとはいえ、皇統を引き継げる王子がおられるのですから、少々早くはありますが、即位式があげられない訳ではありませんわよね。
ハリー殿なら、立太子式と即位削期の費用も、直ぐに用意してくださるでしょう」
母上様も主上には、いえ、皇帝陛下には思う所があるようで、陛下ではなくベンジャミン兄様に皇位を継いでもらっても構わないようです。
わたくしもその方がいいと思ってしまいますが、ハリー殿はどう思うでしょうか。
シャーロットなら知っているかもしれませんね。
「シャーロット、ハリー殿はどう思うかしら」
「ハリー様は一介の王国男爵に過ぎませんし、皇統に口出しするような無礼な事は考えもしておられません」
周囲から責め立てられ、皇帝位まで奪われそうになった主上が、心から安心した表情をされましたが、ちょっと腹が立ってしまいました。
「しかしながら、王国を牛耳っているカンリフ騎士家は別の考えを持っています。
ベンジャミン殿下が、ステュアート王家を廃してカンリフ家を王家とすると約束するのなら、万余の兵を率いて殿下を支援する事でしょう。
ミア殿下が御望みになられるのでしたら、ハリー様はカンリフ家が十年戦い続けられるだけの、軍資金と兵糧を用意する事でしょう」
「分かった、分かったから、頼むから止めてくれ、全て朕が悪かった。
だが、朕にはその方らを護るだけの兵は容易できぬぞ。
四人を行幸させるだけの馬車も用意できぬ。
どうしても行幸したいと言うのなら、ハリーに用意してもらえ」
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