第16話:母性愛
皇紀2217年・王歴219年・秋・皇居
「主上、ライナは私の宮に引き取らせていただきます、いいですね。
ソフィア殿、ライナを助け出してくれた事、心からお礼申し上げます。
さあ、ライナ、もう大丈夫、何も心配する事はありません。
わたくしが必ず護ってあげます、安心しなさい」
アメリアは皇帝に対する恨み辛みを忘れたわけではないが、それ以上に無残な姿になった愛娘ライナを護りたい思いが強かった。
だがその気持ちは、空回りとしか言いようがなかった。
余りに無残な環境で心身を消耗したライナは、衣食住が十二分に整ったソフィアの宮でなければ、とても生きて行けない体調だった。
いや、もはやそういう次元ではないくらい死の瀬戸際にいたのだ。
「母上様、ハリー殿は修道院に入れられそうなわたくしを救ってくださる時に『どれほど酷く心身が傷ついていようと必ず治す』とシャーロットに言われたのですよね。
ハリー殿に任せれば、ライナ姉様を治せるのではないでしょうか」
ミア王女の言葉は、娘可愛さのあまり周りが何も見えなくなり、急いで自分の宮にライナを連れて行こうとしていたアメリアの足を止めさせた。
「まさか、このような酷い状態のライナを治せるわけがないわ」
言葉では否定していても、娘が可愛くて仕方のないアメリアは藁にもすがる思いで、まるで迷子になった幼子のような瞳をソフィアに向けた。
ハリーの事を話したのはミアだったが、まだ数え歳で九歳でしかない子供ではなく、同じ皇帝の愛妾であるソフィアに答えを求めたのだ。
「わたくしではハリー殿の能力を全てお答えする事などできませんわ。
でも、ハリー殿がミアのために派遣してくれた戦闘侍女なら、詳しく知っているかもしれませんわ。
シャーロット、アメリア殿に話してあげて」
「ソフィア様の御許可を頂きましたので、アメリア様にお答えさせていただきます。
ハリー様は攻撃魔術や補助魔術だけでなく、治癒魔術も極めておられます。
心の病に関しては知りませんが、身体の病に関しては、時間をかければ必ず癒すことができると言っておられました。
私達も、ミア殿下の御側に派遣される前に、ハリー様から直々に治癒魔術と医術の手ほどきを受けております。
私の言葉に嘘がない事は、皇家の御用医師頭を務めておられる、キングセール皇国男爵家のヘンリー閣下にお聞きくだされば分かります」
シャーロットは自分が言うべき事を言った後で、ソフィアに目配せをした。
先ほどの言葉の中に、今まで魔術でライナ王女の命をつないでいたのだと、隠していた自分達の功績を初めて明らかにした。
このままライナ王女を宮から出すと必ず死ぬという思いを込めて。
「アメリア殿、母親の娘に対する愛情はわたくしもよく分かります。
ですから黙って見送らせていただく心算だったのですが、どうやらシャーロット達は自分達の功績を隠していたようです。
それほどの傷を負ったライナ殿下は、シャーロット達がいないと命を失ってしまわれるようです。
どうでしょう、この宮の客室をお貸しさせていただきますから、母娘で泊っていかれればいいのではありませんか。
ライナ殿下のお世話はシャーロット達を付けますから」
「……ご厚情、一生忘れはいたしません。
お世話をおかけする事になりますが、よろしくお願いしたします」
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