第9話:忠義
皇紀2217年・王歴219年・秋・皇居
「これほど見事な魔獣の毛皮を、二枚も贈ってくれたと言うのか」
「はい、主上。
ハリー殿に皇居は寒さが厳しくて、寒いのが嫌だと手紙を送ったのです。
そうしたら、主上の分と母上様の分だけでなく、わたくしの分も贈ってくれたそうです。
途中で無頼の者に奪われたり盗まれたりしないように、何を贈ったかハリー殿が手紙に書いてくれています。
他にも欲しい物があれば、遠慮せずに手紙に書いて欲しいとあります」
「ミア、その手紙を主上にお見せするのです」
皇帝が手紙を読みたそうにしたのを見て、ソフィアが素早く娘のミアに命じた。
その内心は、皇帝の中で高まったハリーへの感謝と関心を、このまま高めた方がいいと思っていたのだ。
「はい、母上様、でも、返していただけるのですよね」
一方ミアは、母や伯父、祖父までもが自分の夫にしたいと言うハリーに対して、とても幼い恋心を抱いていた。
その恋心が、実の父親とは言え、皇帝に対して手紙を返して欲しいと言う言葉を口にさせていた。
「ああ、大丈夫だ、内容さえ読めば、必ず返してあげる。
だから朕に手紙を渡すのだ」
「はい、主上」
「これほどの物を、葬儀費用と即位費用を出した後で贈ってくれるのか。
それに対して望むのが、飢えに苦しむ貧民というのはどういうことだ。
これまでもソフィアに人を集めさせていたのか」
手紙を読んだ皇帝はソフィアに疑問を質した。
「はい、ハリー殿が求めるのは、人だけでございます。
仕官を望む傭兵や貧民、その日の食にも困る貧民だけでございます」
「周囲を全て敵に囲まれているハリーが、兵力になる者を求めるのは分かる。
だが奴隷としても集められないような貧民など、何時死ぬか分からない者達で、何の役にも立たないではないか。
そのような者を領地に集めてもハリーの負担になるだけではないのか。
その理由をソフィアは聞いているのか」
「わたくしが直接聞いたわけではありませんが、父が兄がハリー殿の領地を訪れて聞いた話によると、それも先帝陛下と主上のためなのだそうでございます。
天下泰平を心から願われていた先帝陛下の御心に叶うように、貧民が皇都で餓死する事のないように、自らの領地に集めているのだそうでございます。
兵力になる傭兵や貧民を皇都から集める事で、有力者が皇都で兵力を集められないようにして、皇都での争いが少しでも減るようにしているのだそうです」
「……ハリーの皇室と皇国への忠誠と功労は、山よりも高く海よりも深いな。
朕が勅命を出して傭兵と貧民を集めたいが、それでは目立ち過ぎる。
ソフィア、ヴィンセント子爵家だけで傭兵と貧民を集めるのが難しいようなら、選帝侯家に命じるから直ぐに相談するように」
「はい、何かございましたら遠慮せずに御相談させていただきます」
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