第8話:毛皮
皇紀2217年・王歴219年・秋・皇居
「先ほども手紙を届けに来た者がいました。
一日に二度もハリーから使者が来るのはおかしいのではありませんか」
先に届けられた手紙が偽物であった場合、遅効性の毒が浸み込められているのではないかと疑ったソフィアが、家人の女官に厳しく問いただした。
「私もその点を疑問に思って問い質したのですが、ミア王女殿下に少しでも早く手紙を届けるために、皇都でも安全な場所にまで来てから分かれたそうです。
それに両名とも以前使者に来た者なので、大丈夫だと思われます」
家人の女官から説明を聞いて、ソフィアは安堵のため息をついた。
「いらぬ心配をしてしまいましたね。
そなた達が気をつけてくれているのですから、何の心配もいらなかったのですね」
「いえ、最初に御説明しておくべきでした。
以後気をつけますので、ご勘如願います」
「いえ、詫びてもらうような事ではありません。
これからも宮の護りをお願いしますね」
ソフィアは一瞬忘れてしまっていたのだが、崩れた城壁すら修理できない皇居の近くに住む悪戯っ子が、皇居内に入り込んで悪戯をしていたのだ。
屋根の修理もできずに雨漏りが激しくなっていた後宮にまで入り込み、屋根に石を投げるなどの悪戯を子供達がする所為で、更に雨漏りが激しくなってしまっていた。
その事を聞いたハリーが、武芸に自信がある侍女を無償で送ってくれていたのだ。
皇国の費用も実家の支援もなく、自分やミアを世話してくれる侍女も満足に雇えなかったソフィアに取って、慈雨と言える支援であった。
「おお、なんという見事な毛皮なのだ。
まさか、これは魔獣の毛皮なのか、ハリーは魔獣の毛皮を献上してくれたのか」
まだ先帝の喪が明けていないので即位式はしていないが、今までの皇家では考えられな豊かな品々に溢れたソフィアの後宮には、常に皇帝がいるのだ。
皇帝陛下に直接口を利く事など恐れ多い事なので、ハリーから派遣されている女官達は黙っていた。
だが真実を知りたい皇帝は、普段では考えられない事を口にした。
「ここは後宮で今日は特別である。
直言を許すので、知っている事を話すのだ」
「恐れながら直言をお許しいただいたので話をさせていただきます。
運んで生きた者の話では、ハリー様の領内にある魔界で狩った魔獣の毛皮だとの事でございます。
わたくしもこの毛皮を見たことがありますので、間違いありません」
「ほう、其方、この毛皮の元となった魔獣を知っているのか」
「はい、一族に狩人がいますので、狩った魔獣を回収するのを手伝ったことがありますが、とても魔力のない者には狩れない強い魔獣だと聞いております」
「ほう、それほど強い魔獣の毛皮を、朕のために狩って献上してくれたのか」
「そのように運んで来た者は申しておりました。
狩った魔獣の中でも、暖かさを蓄える能力に秀でた毛並みを持つ、美しい魔獣を選んで献上したと聞いております」
「ふむ、これは、特別な礼をしなければいけないな」
「主上、母上様、わたくしも同じ魔獣の毛皮を贈っていただいたのですよ」
「なに」
「なんですって」
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