第3話:説得
皇紀2216年・王歴219年・秋・皇居
「皇太子殿下、ハリー殿がまたこれほどの支援をしてくれています。
殿下が日々食べておられる食事も、毎夜飲んでおられる御酒も、全てハリー殿の支援でございます。
もういい加減ハリー殿の忠誠をお認めくださいませ」
「ソフィアは忠誠というが、少領の王国貴族が皇室に近づくなど、欲得尽く以外になにがあると申すのだ。
ソフィアはエレンバラ王国男爵家の当主はハリーだと申すが、実際に家を仕切っているのは、国王の側近である祖父ではないか。
何の力もない余ではあるが、皇国貴族から情報だけは入って来るのだ。
余りにハリーに近づく事は、アーサー王を皇都から追放したカンリフ騎士家と敵対する事になるのだぞ。
そのような事になれば、カンリフ騎士家の万余の軍勢が、皇帝陛下や余の首を取ろうと皇居に押し入ってくるかもしれぬのだぞ」
「皇太子殿下、そのような心配は不要でございます。
まずハリー殿は立派なエレンバラ王国男爵家の当主でございます。
祖父のノア殿は確かに国王の側近で、色々と謀略に加担しているようですが、エレンバラ王国男爵家の家政には全く加わっておりません。
その事に関しては、父や兄から聞いてくだされば確かでございます。
それと、カンリフ騎士家に関しても何の心配もありません。
妹がカンリフ騎士家のライリー殿に嫁いでおります。
男子も誕生しておりますから、姻戚とはいえ皇室と縁ができております。
決して皇居に攻め入るような事はありません」
「ソフィア、余にそのような誤魔化しが通用すると本気で考えているのか。
エレンバラ王国男爵家の支援を受けている、其方の父や兄の言葉を鵜呑みにする事など絶対にできない。
それに、其方の妹がライリーに嫁いでいると言うが、正室ではなく側室であろう。
しかもライリーはカンリフ騎士家の当主ではない。
当主の三弟に過ぎないではないか。
しかも嫁ぐ時に約束していた、其方や実家への支援を全く行っておらぬ。
そのような不義理をおこなう、皇室や皇国に対する忠誠の欠片もない、野蛮な騎士家を信じる事など絶対にできぬ」
「……では殿下、どうしてもミアを修道院に送ると申されるのですか。
そのような事になれば、ハリー殿はわたくし達への支援をやめるかもしれません。
殿下が日々食べておられる料理も、ハリー殿の支援がなければ、もうお出しできなくなります。
毎夜晩酌なされている御酒も、もう送られてこなくなるかもしれません。
底冷えする寒い冬を越すための薪も、もう手に入らなくなるかもしれません。
殿下はそれでもミアを修道院に送ると申されるのですか。
ミアを奪われたわたくしに、飢えと寒さの中で死ねと申されるのですか」
「……もう一年だ、もう一年だけ様子をみる。
このまま約束を破って修道院にミアを送らなければ、修道院の聖堂騎士団が皇居に攻め込んで来るかもしれぬのだ。
あ奴らは、王国貴族よりも欲深く礼儀を弁えておらぬのだ」
「分かりました、殿下。
その件に関しましては、ハリー殿に相談させていただきます。
ですが殿下、そのような者共が支配する修道院へミアを送ると言われて、母親であるわたくしがどのような思いをしているか、分かっておられるのですよね」
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