　その時、急に背後で声がした。

「フリマでもすんの？」

　振り返ると、どこから現れたのか、意地悪そうな笑みを浮かべた男が立っていた。

　あたしは表情を曇らせた。

　そして、無言のまま、歪めた顔の位置を元に戻した。

　男は、続ける。

「･･･それとも、捨てんの？」

　突然の闖入者（ちんにゅうしゃ）に、イライラした。

「海、汚しちゃダメじゃん」

　その無礼な男は、さっきより少し大きな声でやはり背後からあたしにそう言った。

　あたしは無視し続けた。

　計画を中断され、本当にイライラした。

　けれど。

「埋めちゃえば？したら、海も汚れないし、誰にもみつからないだろうし」

　そう言われた瞬間、あたしは思わず気を緩めてしまった。

　振り返ったあたしは、「･･･ホントだね」と言いながら迂闊にも微笑んでしまっていた。

「だろ？俺が穴掘るわ」

　ニヤニヤしながらそう言うと、男は素手で砂に穴を掘り始めた。

（てか、この人、何者？！）

　あたしは、その様子をしばらく黙ったままみつめていた。

　だけど。

　あたしの為に一生懸命に砂をかく姿に、少しだけ頼もしさを感じてしまった。

「はぁ･･･疲れた～･･･ま、こんくらいでいいだろ！それ、ここに投げ捨てろよ」

「･･･うん･･･何かよくわかんないけど･･･ありがと」

　それが、杏士と初めて交わした会話だった。

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