「53」公園

「あそこの公園で、ちょっと休んでいい?」

 怪しいスーツ姿の男性から逃げるようにしばらく走った後、男の子が目に入った公園を指差した。

「うん、そうだね……」

──ここまで来れば大丈夫だろう。

 男の子がゼェハァ息を吐いて体力の限界を迎えていたので、俺は頷いてみせた。


 公園の敷地に入ると、男の子はベンチにヨロヨロと近付いて行って腰を下ろした。

「こんなに走ったのは、久し振りだよ」

「あぁ、そうなんだ……」

 相槌を打つ。

 一緒に過ごしてきた訳でもないので、それが冗談なのか何なのかも分からなかった。


──適当に返事をし過ぎたのだろうか。

 それっきり男の子は黙ってしまい、沈黙が流れた。


「……気まずいなぁ……」

 俺はチラリと男の子の顔を見た。

 鳩が首を動かしながら地面を歩いている様を興味津々に見詰めているので、別に詰まらないというわけでもなさそうだ。


 俺としては、何とか男の子に場を仕切ってもらいたいところであった。

 男の子が誰なのかも分からないし、何処かへ行くと誘い出したのも男の子なのである。野暮なことは言えないので、出来れば後手に回っておきたい。

 それなのに──。

 ただ、会話の糸口が見付からず沈黙が流れていた。


──しかし、『用事がある』と出掛けて来た割には、男の子は急いでいなさそうだ。目の前の鳩を呆然と見詰めている時間もあるようである。


 俺はハァと深く溜め息を吐いた。

 俺からすれば場の成り行きを見守るしかない。男の子が鳩に飽きるのを、ただ待つことしか出来なかった。

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