第3話 ニンゲンのあの子
あたしはちっともニンゲンが好きじゃない。
ニンゲンがあたしになにをしたのか忘れたことはない。
だけど。
この子は別。
よく聞こえる耳も尻尾も毛皮もなくて、体ばっかり大きいのに中身は小さな子どもみたいなのよ。
あたしの姿が見えないと名前を呼んで探し回るから、夜目の利かないあの子のために暗くなったら入り口が三つならんだ細長い建物の右端の所にいるようにしている。
そうしてないとあの子見えないのに夜にふらふら出かけて行くことがあるから。
あたしがちゃんとついて行って、帰りも先導して帰ってこなくちゃならない。
本当に世話が焼ける。
だいたい毛皮がないなんて無防備すぎるでしょ!
つるつるの皮膚の上にペラペラの布を巻き付けて一体なんになるっていうのよ。
鼻をひくつかせ尻尾を忙しなく動かしてキャンキャン鳴くやつも似たようなのを身に着けてるけど、あいつらちゃんと毛皮あるから!
まあ自分にないものだからあたしの毛並みが羨ましくてうっとりした顔で撫でるんだろうけど。
毎日毛づくろいしてピカピカにきれいにしてるし?
ふわふわ柔らかいけどさ。
あんたはもうちょい危機感持った方がいいわよ?
頼りない二本足で歩かずにちゃんと前足と後ろ足を使った方が絶対安定するし、早く動けるんだから。
悪いこといわないからそうしなさい。
ね?いい子だから。
なのにあの子ときたら「うんうん。そっか楽しかった?」なんてトンチンカンなこと!
だから!ちがーう!!
お説教してもこの子にはあたしの言葉が分からない。
悔しい。
だからってあたしはこの子を放り出したりしないの。
ニンゲンはキライ。
ニンゲンはコワイ。
ニンゲンはニクイ。
爪も牙もない相手にあたしは混乱して暴れてその柔らかい皮膚に傷をつけた。
もちろんあの時は閉じ込められてびっくりしちゃったし、まだあの頃はこの子のことをこれっぽっちも信用してなかったから当然の反撃だったんだけど。
その後はあたしが嫌がることはなにもしてこないし、なんならご飯もくれて優しく撫でてくれるし、通じない会話でも楽しんでいるあたしがいる。
急所であるお腹をさらして自慢の毛並みに触れさせることもやぶさかじゃないし、その時にあの子がほんとに幸せそうに笑うのを見ると。
自分でもどこにあるのか分からない場所が甘く痺れたようになるのよ。
不思議なことに。
だからね。
「わたしたち友だちだもんね?」
なんて聞かれたら答えはひとつしかないんだわ。
あたしは細めた目であの子を見上げて
「当然でしょ!」
って答えるのよ。
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