第248話・先人の知恵と、神々の鉄槌

──ピッ

 スターゲイザー、オタル郊外。

 そこにある賢人機関の研究施設では、地球からやってきた賢人たち全員の手による『銀河系中心部』に存在する虚無空間の対策を講じている。

 ここまでに蓄えた叡智を、そしてセルゲイから受け取った消失点の観測データを元に、現時点の地球レベルでの対策を弾きた時ているところであるが。


「……仮説1285695。地球のロストを確認。続いて仮説1285696の検証を開始します」

「そっちは任せる。宇宙深淵への移民パターンは、どこまで検証できている?」

「データ上では、2545パターン目の検証が始まってますが。やはり外宇宙へ向かうための移動手段、生命維持に必要な施設の建造には、あと142年は必要となります」


 全ての地球人を移民させるための、巨大な移民船。

 それを建造するための設備と資源を入手するための方法が、未だに確立できていない。

 図面については、アマノムラクモが鹵獲した敵宇宙人の使用していた移民船のものを使用、それを元に、地球人にとって最適な設備などを考えていたのだが、やはり時間が足りない。


「……移民パターン1256、地球人類のスターゲイザー移民についても、不可能という結論が出た。この星は、陸地が足りない」

「いや、移民パターン1248では、内部に居住施設を構築可能と出ている。エクスカリバーの魔導頭脳も、それならば地球人全てを網羅可能とも」

「それはダメだ。セルゲイが最初に話していた通り、我々地球人が勝手することは許されない」


 日夜、仮説と検証を繰り返し、地球の生きる道を模索する。

 だが、時間が経過するたびに、絶望がゆっくりと幕を下ろし始める。

 全ての人類を救う、そのための手段は本当にあるのだろうかと。


………

……


──アマノムラクモ艦橋


「ないよなぁ……地球を救う手段って」


 賢人機関ができることを、アマノムラクモがやっていないはずはない。

 ということで、オクタ・ワン、トラス・ワン、ヴァン・ティアン、アクシアの四基並列解析を行なっても、銀河中心部の虚無の広がりから【地球を救う】ための手段は見えてこない。


『ピッ……観測船が間も無く浮上を開始します』

「了解。モニターアップして、すぐに観測を始めてくれ」


──ブゥン

 艦橋中央部にモニターが浮かび上がる。

 そして蒼い波飛沫が浮かび上がると、その向こうに銀河系中心部が浮かび上がる。


 直径が数光年の、漆黒の空間。

 光すら吸収し、反射することない世界。

 それが音もなく、そこに存在している。


『ピッ……僅かずつ、虚無が広がりを見せています』

「観測船をギリギリまで近寄らせてくれるか? 高重力で引き込まれそうにならない距離までで構わない」

『ピッ……了解』


 すぐに観測船が虚無に近寄る。

 近寄れば近寄るほど、目の前に漆黒の闇が広がる。

 そして遂には、黒い壁のようなもので画面が覆い尽くされてしまう。


「観測データは、虚無の外壁部まで12575km。ここまでは重力による引き込み現象はないか」

『ピッ……むしろ、そのようなものは感じられていません。まだ近寄ります』


 もう、壁に向かって進んでいるとしか思えない。

 ライトで前方を照らしても、闇が目の前に広がっているだけ。


──ビビビッ

 そして限界ギリギリまで近寄ると、観測船は虚無の中に突入した。


『ピッ……高重力による引き込み、確認できず。ただ、虚無の中に突入した模様……アラート!! 船体に歪みが発生』


 モニターが真っ赤に点滅する。

 横のサブモニターには、船体にかかる圧力が表示されており、観測船の外壁が圧壊を開始したことが記された。


「マジか」

『ピッ……観測船の圧壊を確認。惑星規模でこれが発生すると高重力の力場が発生。それが虚無を超えて周辺の星系まで到達するかと予測されます』

「虚無を越える……でも、結果的には、内部から外に出ることは不可能だよな?」

『ピッ……高出力のジェネレーターを保持している存在なら、それは可能かと。ただし、脱出前に圧壊する可能性が98.356%』


 突入からの脱出は可能だが、ほとんど不可能に近いと。

 宇宙船で誤って突入した場合、生きて帰るのは不可能に近いか。


「なあ、アマノムラクモなら、どれぐらい持つ?」

『ピッ……特に問題はないかと。神装甲とでも形容できるほどの強度、加えて魔導ジェネレーターから発生する魔力をコーティングしますので、ブラックホールに突入しても無事かと』

『……加えるなら、観測データからの推測値ではありますが、あの中は【次元潮流】のようなものであると推測されます』

「イスカンダル、アクシアはそう判断してんだな?」

『……御意にございます』


 次元潮流か。

 つまり、次元潜航能力を持つアマノムラクモやタケミカヅチ艦隊、スターゲイザーは無傷で存在していられる。

 けど、そんなところに突入したら、地球は間違いなく崩壊する。


「……最悪、地球人をスターゲイザーに避難させることも考えられるが……あの中で、人間がどれぐらい生きていられるか計算できるか?」

『ピッ……スターゲイザーでの生活が可能ならば、普通に寿命を迎えることぐらいは』

「あ、ごめん、俺の質問が悪かった。虚無内部に生命体が存在した場合、生命の危機が起きるのかってことなんだが」

『ピッ……予測不能』

『……生命体の存在は不可能』

『ビビビッ……次元潮流では、生身の生命体は存在不可能。だが、スターゲイザーのシールドで生命体を守ることは可能』


 そりゃそうだ。

 そもそも、スターゲイザーは次元潮流の吹き溜まりに存在していたからな。

 こうなるともう、お手上げって事でいいんじゃないかと思ったんだけど。


『ピッ……可能性を一つ』

「へぇ、オクタ・ワン、何かあるのか?」

『ピッ……大型調査船にDアンカーを搭載。それを虚無空間にて射出し、虚無の広がりを阻止できるか試してみたいと思います』


 Dアンカーは、そもそも船体を空間に固定するための術式。

 それを使って船体を固定するんじゃなく、虚無の広がりを止めるってことか。

 空間を固定できるっていう概念なら、不可能じゃないよな?


「準備にどれぐらい必要だ?」

『ピッ……タケミカヅチを一隻、それ用に改造します。五十八日間の時間を所望します』

「流石に時間がかかるか。でも構わない、やってくれ」

『ピッ……了解です』


 すぐにゴーサインを出す。

 もしもこれが成功した場合。

 タケミカヅチ艦隊全てでどこまでの虚無を固定できるか、それを知ることができる。

 最良の場合、虚無の広がりを止めることができるが、それで全てが解決したわけじゃないからな。


 まだまだ、策を練る必要があるってことだわ。

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