第247話・解決策? 可能性だけならなんとでも
ヴァリアス人。
それが、今回スターゲイザーと地球を襲撃した異星人の名前。
どうにか捕縛してスターゲイザーに連行し、彼ら専用の居住区に軟禁状態。
そもそも、呼吸器のシステムがちがうらしく、地球の酸素濃度では窒息するらしい。
だから、居住区に閉じ込めておけば何も手出しできない……筈。
「さて。それじゃあ詳しい話を聞かせてもらおうか?」
モニター越しに彼らと話を始める。
一番重要なのは、仮称・深淵と呼んでいる銀河系中心部の消失ポイント。
そこがどのように発生し、どのように星を飲み込むのか。
それを知ることで、太陽系が飲み込まれる前に危機を脱することができるかもしれないから。
『ピッ……朔夜さんが無傷で敵母船を鹵獲したので、現在は詳細情報を解析中ですが』
「……なるほど。この俺のやる気を、どこにぶつけたら良いのかおしえてくれるか?」
いきなりやる気が消えたけど。
ま、まあ、聞き込み調査は必須だよね?
「ゴホン……改めて聞くが、銀河系中心部に発生した、星を飲み込む渦について。分かる限り説明して欲しい」
『……移民船に眠る、我らが同志の安全を約束するのなら』
『あれは、生き物のように襲い掛かってきた』
『最初はロストゲートの一種かと思った。だが、内部に送り込んだ観測機からの連絡が途絶え、ロストゲートではないことを理解した』
ロストゲートは、地球でいうところのブラックホールか。
そうなるとホワイトホール、出口は存在する筈なんだが。
「観測機がホワイトホールから出たという記録はないのか?」
『ホワイトホール? ああ、バースゲートの事か。残念ながら、通信は途絶えたままだ。バースゲートから出られたならば、すぐに通信が再開するからな』
「へぇ。お前たちの技術では、ブラックホールから出ることも可能なのか……大したものだな」
『船体強度を高め、磁場および歪曲重量に対抗できるだけの力場を発生し、船体に纏わらせることができるのなら可能。その程度のテクノロジーは、あの旗艦にもあるのでは?』
そうなの?
そう考えで艦橋のワルキューレたちを見ると、素直に頷いている。
え、アマノムラクモってブラックホール突破能力付きなのか。それは凄くない?
「まあ、な。確認のために聞いたまでだから気にするな。それよりも、お前たちの星も飲み込まれたのか?」
『ああ。ロストゲートが広がり、その渦に巻き込まれた。残念ながら、星全体を包み込むだけの力場を発する力もなく、我々は移民船で避難を開始した』
『他の艦隊は、周辺星系への遠征から戻ってきたところで合流した。ゆえに、我々の戦力は、君達が破壊した艦隊と移民船が全てだ』
『これ以上、この星系に手を出さないことは誓う。我々を見逃してくれるか?』
そのまま細かい話を聞いて見たが、深淵は果てしなく広がり続け、そのまま全てを飲み込んでいくらしい。
なんていうか、巨大なプールに墨汁を流し込んだかのように、ゆっくりと闇が広がり全てを飲み込む感じだと。
まあ、戦闘民族が生きるためには、他の星を襲って破壊するもしくは蹂躙するのが基本。
それが自然ならば、俺たちとしても放置するに限る。
無闇矢鱈に殺戮を繰り返すのも問題あるし。
だが、次に地球に手を出したら、問答無用でぶっ潰す。
そのまま半日かけての情報収集を続けて、その日は聞き込みは終わり。
「このあとは、お前たちの船から入手した情報と今聞いた情報を照らし合わせる。死にたくないから正直に話したんだろうから、そこに齟齬がなければ放免するよ」
『助かる』
『我々は、可能な限り深淵から逃げなくてはならない』
『あれは、全てを飲み込む。この宇宙が続く限り、我々は逃げ延びなくてはならない』
「まあ、そうしてくれると助かる。太陽系には戻ってくるなよ」
『『『我々は、死にたくはない』』』
その言葉は、スターゲイザーに対してではない。
深淵から逃れるためには、まさに逃げ続けるしか道がないと理解しているから。
これで、彼らとのやりとりは全て終わり。
さて、この中のどこまでの情報を、地球にフィードバックするか。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
スターゲイザーと異星人艦隊との戦闘が終わり。
ダメージを受けた欧州のある国では、国連を脱退して国を窮地に追い込んだ政権を打倒すべく軍事クーデターが発生。
わずか数日で大統領が交代し、国を立て直すために国連に援助を求めている。
また、被害を受けなかった他の国家は、スターゲイザーへの支払いのために連日議会で予算委員会が開催され、今後もこのようなことが起こらないためにどうすればいいのか話し合いが続けられている。
国連宇宙部主導で始まった、外宇宙からの侵略者対策は、『地球連邦軍』というあらたな国連平和維持軍が設立され、そのために各国に協力を求めている最中である。
それでも、今の地球のテクノロジーでは宇宙からの脅威に対抗するための力が足りない。
それを補うために、スターゲイザーに助力を願っているらしく、国連駐在サーバントたちは連日のように嘆願書に目を通す始末である。
そんな中。
世界各地の天文台が、銀河系中心部方面からの異常をキャッチ。
普通では気づくことない、ほんの僅かな電波の乱れ。
それを偶然NASAが気づき、世界中の天文台に連絡が飛んだ。
それは国連宇宙部に詰めているセルゲイにも飛び火し、スターゲイザーにも観測要請が届いたのだが。
「なあ、セルゲイさん。この電波の乱れ、宇宙望遠鏡から確認できた事柄。まとめて推測した結果なんだが……銀河系中間部が消失しているんじゃないか?」
賢人機関のアルバートが、静かにモニターを眺めているセルゲイに問いかける。
伊達にアルバート・アインシュタインの生まれ変わりと呼ばれるだけのことはある。
その中に眠る魂は、まさしく大天才アインシュタインそのもの。
その問いかけには、セルゲイは顔色ひとつ変えることなく答える。
「ええ。銀河系中心部は、謎の深淵に飲み込まれて消滅しました。残念なことに、それはゆっくりと広がっています」
──ザワッ
アルバートとセルゲイの会話に、その場の事務局員たちがざわめく。
そんな情報は、どの天文台からも届けられていない。
もしもそれが事実なら、この太陽系も危険ではないのか?
すぐさま事務局員たちは各地の天文台や大使に連絡を始める。
各国からの協力無くしては、この事態の詳細を知ることができないと判断したから。
「やはり……か。詳細データはもらえるのか?」
「ミサキさまから、地球人が自らでこの窮地に気づいた時には公開しろと言われてますから。しかし、やはり最初に気がついたのは賢人機関でしたか」
そうやや皮肉を交えつつ、セルゲイが一冊のファイルをアルバートに手渡す。
それをパラパラと捲りつつ、アルバートは表情を変えずに一言だけ。
「100年以内に、太陽系も飲み込まれるな」
「ミサキさまの予測は1200年だったのですが、それよりも早いと?」
「直線距離にして等間隔に消失するのなら、それぐらいの時間だろうな。だが、それは星が消えるまで。その前に、異常重力波が太陽系に到達する……その時の被害で、太陽が崩壊、角度によっては太陽よりも先に地球が重力の波にぶつかって砕けるだろう」
淡々と説明するアルバート。
それをセルゲイはダイレクトにオクタ・ワンに送信する。
「先見の明がある……というか、やはり専門家ですね」
「まぁ、な。先の異星人の襲撃も、新たな避難先を探す途中に、資源を奪いにきたってところだろうさ……それでスターゲイザーはどうするつもりだ?」
「さすがにお手上げです。相手が宇宙の深淵なら、我々はひたすらに逃げるしか手がありませんから」
「……あれなら、逃げられるかもなぁ」
そう呟くアルバート。
だが、その話を聞いている事務局員は気が気ではない。
何せ、100年以内に地球が崩壊するのである。
今から対策を考えるにせよ、避難先を探すにせよ、時間というものが足りない。
「あの、アルバートさん。アマノムラクモで宇宙を逃げ延びるということですか?」
ひとりの事務局員が、アルバートに問いかける。
だが、アルバートは肩をすくめて一言だけ。
「あのスターゲイザー自体が、巨大な宇宙船だよ。セルゲイさん、そうだよな?」
まさか、その言葉がアルバートから聞けるとはセルゲイも思っていなかった。
だから、オクタ・ワンからの返答を待って、ゆっくりと話を始める。
「いつから気がついていたのですか?」
「オタルのはずれに研究所を貰ってから、その可能性だけを研究してきた。その結果、我々賢人機関が弾き出した答えは、スターゲイザーが宇宙船だということだけ。あれなら、銀河中心部を飲み込んだ存在から逃げられる……そして、対策を考える時間もある。違うかな?」
「……グレイト。地球人でその答えに辿り着くとは思ってませんでしたが」
そうセルゲイが嬉しそうに返事をすると、事務局員たちが殺到する。
どうすればスターゲイザーに移民できるのか?
誰でも逃げられるのかと。
だが、セルゲイは無慈悲に一言だけ。
「なぜ、地球人を助ける必要が?」
ミサキにとって有益となる存在ならば、助けても構わない。
だが、それ以外の人間を助ける必要がどこにあるのか、セルゲイには理解できていない。
そして、セルゲイの一言を予想していたかのように、アルバートは一言。
「では、賢人機関はスターゲイザーに移民する。幸いなことに、我々にはエクスカリバーがあるからな」
「それは構いません。賢人機関はスターゲイザーの友人です」
「待て、待ってくれ!! 我々に死ねというのか?」
セルゲイとアルバートのやり取りを聞いて、事務局員たちが叫ぶが。
「何故、真っ先に逃げることを考えたのですか? 対策を講じることはしないのですか? 時間がない? まだ時間はありますよ。やることをやってから、それでダメなら縋りつきなさい。何故、何もせずに逃げることを考えた?」
「そ、それは賢人機関も同じでは?」
「まさかだろ。スターゲイザーの方が施設が良いんだよ。賢人機関全機関員が総力を上げて、今回の件についての対策を講じる……エクスカリバーの魔導頭脳にも力を借りないとならない案件だからね」
アルバートは、すでに戦うことを選択した。
困難があるからこそ、人は進化する。
そのためならば、アルバートは可能な限り足掻くつもりである。
「では、賢人機関の引っ越しの準備を行なってください。さすがに施設ごと運び出すのにはエクスカリバーでは小さすぎます。スターゲイザーから大型移民船を寄越してもらいますので」
それでセルゲイとアルバートの話し合いは終わり。
そしてセルゲイは、クルリと椅子を回して事務局員へ一言。
「戦う意志があるのなら、ここに用意したファイルを持っていきなさい。今回の銀河系中心部消失事件のデータが収められています……」
どさっと机の上に用意したデータ。
それは異星人艦隊から入手した、銀河系中心部消失についての情報が網羅されていた。
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