第246話・洒落にならない、洒落で済ます気もない
アマノムラクモ艦首から放たれた高出力の魔力の奔流。
それが艦首から先の空間に展開した魔法陣に吸い込まれると、さらに増幅される。
一段目の魔法陣は増幅
二段目の魔法陣は神滅付与
三段目は安定化
四段目が拡散術式の付与
そして五段目が、収束からの発動。
──ドッゴォォォォォォン
宇宙空間だから音が出ないなどという戯言は、この瞬間に消滅。
爆音を上げながら、最後の魔法陣から放出した神滅砲は、一つが二つ、四つ、八つとどんどん拡散。
敵異星人艦隊へ到達する頃には、前方のモニターが真っ白に輝く壁になっていた。
『ピッ……拡散神滅砲、敵艦隊全てに直撃。旗艦及び移民船らしきものを除いて、全て消滅しました』
「マイロード。アマノムラクモの出力大幅に低下、生命維持モードを残して全て停止します」
「付近のマーギア・リッター全機に命じる。アマノムラクモを囲むようにフォースプロテクションを展開。朔夜、生きてるか?」
まあ、さっきは連絡がつかなくなっていたけど、今は繋がるだろうなぁと予測。
いや、あいつがピンチに陥るなんて想像がつかないからさ。
『ハッハッハッ。隠密モードの時は、何も聞こえなくなるでござる。拙者の配下が敵移民船のシステムを掌握。拙者は旗艦艦橋部に潜入成功、三人の異星人を捕縛しました』
「どうせそんなことだろうよ。生存環境データを送ってくれるか? こっちに連れてきて話を聞きたいんだけど、そいつらが生きていられる環境を作らないと、最悪は呼吸したら死ぬ」
うん。
異星人全てが人間と同じ体内機関を持っているなんて思ってないさ。
漫画とかだと、放射能の中でしか生きられないっていう種族や、高重力下でなければ爆死するような奴らまでいるからな。
だからほら、昔から雑誌に載っていた宇宙人って、宇宙服を着ているよね?
人間だって真空下や無酸素では生きられないんだから、その辺りはしっかりと……って、朔夜、お前は無事なのか?
『では、データを確認して送信するでござるよ?』
「なぁ、人間と同じ構成ってことはないよな? お前は無事なんだろ?」
『いやいや、流石に宇宙服は着ているでござる。大気成分に若干の酸を確認できていますが、今は中和しているでござるよ』
「そっか。なら、敵の残り戦力の武装解除、移民船と旗艦のシステムを完全掌握してから帰還してくれ」
『了‼︎』
これで朔夜との通信は終わり。
「マイロード。国連宇宙部及び国連本部のサーバントたちから入電。高電磁波が発生して大気圏外の観測が不可能とのことです。詳細報告を行いますか?」
「その辺りは任せる。まあ、異星人の艦隊は全て排除した、残存するものはすべて鹵獲したって報告してくれ。それ以上は何も言わなくていいわ」
「了解です……」
これから忙しくなるのが、目に見えている。
やることがなくなる日って、くるのかなぁ。
「まあ、神楽もおつかれさま……って、どうした!!」
後ろを振り返ると、口から泡を吹いてぶっ倒れている神楽の姿がある。
『ピッ……神滅法発射時の高電磁波に、彼女を構成するナノマシンが制御不能になってあちこちが機能停止しているようで。確認した限りでは、自己修復モードに移行しています』
「そっか。誰か、彼女を部屋に運んでやってくれるか」
そうサーバントに指示をしてから、俺もようやくキャラシートから飛び降りて、体をグイッと伸ばす。
緊張しっぱなしで、身体がこわばっているのが理解できるよ。
「作戦終了。後始末その他はオクタ・ワンに一任する。各自、オクタ・ワンからの指示で動くように」
「「「「「「え〜」」」」」」」」
うん、そういう反応は嫌いじゃない。
でも、俺の命令だから素直に聞くんだよね、みんなはさ。
『ピッ……文句があるなら、かかってきなさい!!』
「それなら、後で勝負ですね」
「将棋では惨敗でしたけど、今度はリバーシで勝負を決めますわ」
「私はチェスで!!」
『ピッ……よかろうこの愚民共が。この闇のゲーム、負けたらどうなるかわかっているだろうな!! 絶叫、喝采!! 大喝采!!』
うわぁ、海馬が闇のゲームしきっているわ。
それよりもその音声、どこで仕入れてきたか教えてほしいところだよ。
「まあ、やりすぎないように……俺は、仮眠するわ。何かあったら教えてくれ」
もうね、緊張が解けたら睡魔がきたよ。
神滅砲って、艦内の魔力を集めるから、俺の魔力もごっそりと持っていかれたんだよね。
回復に時間もかかるし、おやすみ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──ニューヨーク・国連本部
安全保障理事会では、アマノムラクモからの報告を静かに待っていた。
戦争が始まって間も無く、敵艦隊のミサイルが多数接近したものの、その殆どがアマノムラクモの機動兵器及び大気圏外のバリアによって弾かれたのである。
そこから先は、各国の静止衛星や天文台からの報告。
旗艦アマノムラクモを中心としたスターゲイザー艦隊と異星人の艦隊の攻防が続く。
スターゲイザー艦隊も何隻か撃沈されたものの、最後はアマノムラクモの主砲により敵艦隊が消滅するという結果で幕を閉じた。
その光景を、各国の代表たちは固唾を飲んで見守っている。
逃げる場所など、この地球のどこにも存在していない。
ただ、スターゲイザーの勝利を願い、そして勝ったという事実に、全員が安堵の表情を見せる。
「……以上で作戦は完了です。敵異星人艦隊は消滅し、残存艦は鹵獲。四十八時間後には契約に基づき、バリアシステムを解除します」
サーバントの言葉に常任理事国は頷く。
ギリギリで国連から脱退した国の代表はここにはいないが、彼らの国は運悪く流れ弾が命中して被害を受けてしまっている。
それらの復興及びミサイルの残骸の回収に忙しいのだろう。
──パチパチパチパチ
一人、また一人と代表が立ち上がって拍手を送る。
それをサーバントは真摯に受け止め、一礼してその場を後にする。
「……もし、次に同じようなことが起きた場合。そのためにも宇宙防衛を再考する必要がありますな」
「貴国のスターウォーズ計画。あれをもっと拡大し、今回のような事態にも対処できるようにしなくては」
「またオーバーテクノロジーの話となるか。フランスは相変わらず反対だろうが、今回の件でスターゲイザーの重要性は知ったと思うが」
「今更、この光景を見て反対を唱える気はありません」
パワードが、フーディンが、そして
宇宙防衛構想を再考する。
結果として、最後まで反対を貫くだろうと予測されていたフランスが折れたため、常任理事国全体の賛成を持って、国連主導の『対宇宙防衛機構』を設立することになる。
………
……
…
──スターゲイザー
現在。
朔夜から送られてきた環境データーに合わせた部屋の準備が行われている。
流石にアマノムラクモの内部に専用の部屋を作ることはできなかったため、急遽スターゲイザー表面にドーム状の施設を建設することになった。
次々と地下工場区画から運び込まれる資材を組み立てつつ、間も無く到着するであろう異星人用の居住区画の設計も開始。
地球人型ではないため、この星の上で共存することは不可能であるが、せめて話し合いの場だけは用意しようということになったのである。
そうこうしているうちに、アマノムラクモがまず帰還。
続いて大破したタケミカヅチの残骸を回収した艦隊も帰還すると、すぐさまサーバントたちのメンテナンスも始まる。
「それで、あと何日で完成するんだ?」
「三日後です。どうにも理解不能な大気成分に、頭を悩ませてます」
アマノムラクモ艦橋部で、俺は報告書を受け取る。
そこなら記されてある大気成分を見て、ひさしぶりに頭を傾けてしまったよ。
「アンノウンが結構あるな。未知の元素かよ」
『ピッ……地球型元素数に当てはまらないものが多いです。あと、ごく少量の魔素も含まれています』
「はぁ。兎にも角にも、青酸ガスに近いような大気の中で生きられる生物がいるのが不思議だわ」
『ピッ……自然界の中には、人間が食したら死んでしまうような毒性のキノコを平気に食べるものも存在します』
「そうだよなぁ。そこを考えると、そういうものも存在するのかって理解するしかないんだよなあ」
兎にも角にも、俺が彼らの部屋に入ることもできないし、彼らに地球の大気に出てこいとも言えない。
妥協点は、彼らの生活する部屋と通信でやりとりすること。
それがどういう結果になるのか、この時の俺はまだ何も理解していなかった。
………
……
…
──スターゲイザー地表面、サッポロ
その郊外に作られたドーム状住居。
そこに生命維持カプセルに閉じ込められた異星人三人が運び込まれる。
エアハッチの中にカプセルを設置し、地球の大気を抜いて彼らの宇宙船の中の空気を注入。
濃度を確認してからカプセルを遠隔操作して開くと、ようやく彼らも体を伸ばしている。
「……ふむ。妾の星の大気組成を作り出すとは、なかなかやるではないか」
「どうやら、我々の想像よりも彼らの文明は高度なのだろう」
「この室内の設備を見ても、それは理解できる。彼らを敵に回したのが問題であったか」
室内を歩き回り、設備を手に取って確認する彼ら。
あちこち調べてようやく落ち着きはじめた時、壁のモニターが点滅しミサキが映し出された。
『言語自動翻訳はうまくいっているかな? はじめまして異星人の皆さん』
「はじめまして。惑星タータラナの生物と同じ外見のようだが、ツノと複眼がないな。君は何人だ?」
『はっは。私の外見は地球人型っていう区分かな。さて、単刀直入なら聞くけどさ、君たちの目的を教えてほしいんだが』
そんなことは分かりきっている。
けど、あえて確認したい。
「虚無空間に飲み込まれた母星の代わりとなる星を探している。可能ならば、食料となる生命体の存在する星を」
「以前鹵獲した、未知のナノマシン群体。そのものたちが所有しているデータを解析し、この座標までやってきた」
うん、翻訳はしっかりと作動している。
あっちの言葉が自動翻訳されているから、元の言語でなんて言っていたかなんて知らない。
知る必要もないだろう。
『それで、君たちは負けたんだけど。どうするつもりだ? 移民船も鹵獲して静止軌道上に浮かべてあるけど、こっちの命令一つで破壊することも可能だよ』
「我ら戦闘種族は、敗北イコール死。だが、彼らは眠っているだけで罪はない。殺すなら我々三人だけにしろ」
「この座標は諦める。次の座標にたどり着いて、種を残さなくてはならない」
「頼む。彼らは助けてくれ」
『……殊勝なことで。君たちのような種族が、この宇宙を旅しているのかと思うとゾッとするんだけどさ……』
他の星の資源、生命体全てを奪い、食らい、必要がなくなったら廃棄する。
そんなことを繰り返している、まるでスズメバチのような種族。
そんなものを許していいのかっていう気もするんだけど、俺に取っては『どうでもいい存在』なんだよ。
虚無のデータが得られたらいい、それだけ。
『そうさなぁ……幸いにも被害は軽微だし。速やかに我々の星系から出て行ってくれるなら構わないと思っている。それで手を打つのなら、情報を回収してから解放しよう』
「「「おお、ありがたい」」」
おっと、まだ安心しなくていい。
まずは情報を教えてもらいたいんだよ。
君たちを解放するのは、それからだからね。
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