第244話・交渉成立? 全力でいかせてもらうからな

 ニューヨーク・国連本部。


 安全保障理事会は、重い空気に包まれている。

 異星人襲来、しかも敵対意志を持つ彼らは地球向けて全力で攻撃を仕掛けてくる。

 何が目的なのか、何故地球を襲ってきたのかわからぬまま、ただ地球は絶望へと向かっている。


 頼みの綱のスターゲイザーの援軍も、地球の何を代価として差し出すのかという質問で終わっている。

 このままでは、スターゲイザーは高みの見物のまま何もしてくれない。


「だから、異星人との交流は危険だと我々は反対したのだ!!」

「このような事態を招いたのは、先進国である貴方たちの判断が甘かったからではないのか!!」


 そう叫んでいる欧州の国。

 彼は、このタイミングで先進国にミスを押し付け、自分達が正当性を持つというスタイルをアピールしている。

 だが、それは他国からの冷笑を招くだけの結果に終わる。


 今はそんな話をするときではない。

 このまま異星人が放ったミサイルが着弾したら、地球全域が崩壊する。

 それが分かってないのかと、他国の代表たちは彼らを冷たく眺めるしかない。


「NASAに通信を繋げて……いや、スターゲイザーの星王ミサキ殿、聞こえていますか?」


 パワード大統領が天井を見上げて叫ぶ。

 おそらく通信はつながっているだろうと考えて、大きな声で叫んでみた。


『……こちら旗艦アマノムラクモ。ミサキさまに繋ぎます』

『よっ!! 決断した?』


 通信の向こうのミサキは、勤めて明るい声で話しかけてきた。

 それなら、話し合いは難しくないだろう。


『ああ。アメリカ全土を守ってほしい。その代価として、アメリカはスターゲイザーに6000億USドルを支払う」


──ザワッ!!!!

 議会全体がざわつく。

 アメリカの提示した金額は、アメリカのGDPの1%。

 つまり、国防予算のほとんどをスターゲイザーに支払うと宣言したも当然である。

 このパワードの言葉により、常任理事国代表は頭を抱える。

 このパワードの言葉の裏が読めたからである。

 そして、それに気がつかない常任理事国以外の国家代表は、これで地球は救われる、さすがはアメリカだと胸を撫で下ろしたのだが。


『……了解だ。それで契約は成立、すぐにアメリカの領土はスターゲイザーの防衛システムによって保護するからね』


 なんだって?

 今、ミサキはなんと言った?

 地球を守るのではなく、アメリカの領土を守ると言ったのか?


──スッ

 ミサキの言葉に議会がさらにざわついたが、ロシアのフーディンも小さく手を挙げて一言。


「ロシアもGDPの1%をスターゲイザーに支払う。それで我が祖国も守って貰えるか?」

「私もだ。我が中華人民共和国も支払うと約束する」


 アメリカに続いてロシアが、そして中国が宣言する。


『ロシアと中国もだね。あ、イギリスはエクスカリバーがもうすぐ到着するから、それに守って貰えば問題ないよね?』

 

 常任理事国六カ国のうち、四カ国がスターゲイザーによって保護される。

 これには他国の代表も顔色が悪くなる。

 

 自国の防衛予算を全て使うことで、その国はスターゲイザーによって守られる。

 これはどの国でも交渉可能な条件である。

 アメリカやロシアが抜け駆けしたのではなく、純粋な交渉。それも、国連に参加さえしていればどの国でも可能な、交渉である。

 

『あと三時間。それが、スターゲイザーが地球を守るための最終防衛ラインだからな……』

「星王ミサキ。もしも、地球の全てを守って欲しいと願うなら、どれだけの予算を支払えば可能だ?」


 フーディンが静かに問いかける。

 それならばと、ミサキは一言だけ。


『国連加盟国すべてが、防衛費1%を支払うなら……』


 国連加盟国は全部で193カ国。

 その全てが同じ条件で支払うなら。

 全てにおいて平等とはいかないが、それだけで国が、地球が守られる。


「一時間、時間をください」

『了解だよ。それじゃあ、良い返事を期待する』


 これで通信は切れた。

 ここからの一時間、反スターゲイザー派の多い欧州連合が、この条件を飲むかどうかによって、地球の命運は決定する。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



──アマノムラクモ内・艦橋

「フォースプロテクションシステムの転送準備を進めてくれ! オクタ・ワン、消失未来での地球圏レベルで展開したフォースプロテクションシステム、あれはまだ使えるか?」


 国連本部との連絡を終えて。

 すぐさま地球全域を包み込むフォースプロテクションシステムの設置準備を始める。

 この後の予測では、国連緊急議会での決議からの地球圏を囲む結界の設置まで話は進むだろう。

 まさかここで反対して、異星人に助けられるなら滅んだほうがいいなど言い出す国はないだろうからな。


「エクスカリバーが浮上します」

「予想よりも早いか。浮上後にすぐイギリスに向かうように指示。賢人機関とクィーンと相談して、今後の防衛システムについて話し合うように!!」 

『ピッ……マーギア・リッター搭載型フォースプロテクションシステムは不可能ですが、小型艇にシステムを搭載したタイプなら可能です』

「すぐに準備。どうせ迎撃して終わるけど、バリアは張っておいて問題ない。NASAに詰めているサーバントとも連絡をとって、緊急時に展開できるように調整よろしく!!」


 さぁ、忙しくなってきた。

 ここからはアマノムラクモの本領発揮。

 無敵艦隊と自負しているだけに、この一戦はしくじるわけにはいかないからな。


………

……


──一時間後

「ミサキさま、国連本部のマーティン・ヘンダーソン事務総長から入電です」

「繋いでくれ……私だ。地球としての方針は決定したかね?」

『はい。緊急動議での全会一致により、国連加盟国190カ国がGDP1%を支払うことで合意しました』


 ふむ。

 3カ国足りないな。


「193カ国ではなく?」

『……3カ国は国連を脱退しました』

「そこの国のリストをください。代価も支払わずに結界で守られると思わせたくない。その部分だけ結界を外します。まあ、その他の元々国連に加盟していない国は仕方がないので守るとしますけど……ギリギリで逃げるような国なんぞ、滅んでしまえ」

『……リストはこちらに詰めているスターゲイザー外交官の方にお渡ししています。では、よろしくお願いします』

「了解」


 さあ、話し合いはおしまい。

 ここからはアマノムラクモのターン!!


「地球防衛作戦を開始する。地球全域にフォースプロテクションを展開、指定座標国以外はしっかりと包み込め!!」


──ブゥゥゥゥウン

 正六角形のフォースプロテクションが綺麗に並び、地球全域を包み込む。

 宇宙から観測したら、虹色のヘックスによって地球が包み込まれているように見えるが、三箇所だけは無色透明。

 そこが、ギリギリになって国連を脱退した欧州3カ国。

 衛星軌道上から観測したら、しっかりとそこだけバリアによって守られていないように見えるからね。


「マーギア・リッター隊、全機出撃!! 敵異星人のミサイルを迎撃しろ。朔夜、今どこにいる?」


 目の前のモニターには、アマノムラクモを取り囲むマーギア・リッターが魔導スラスターを全開にして移動を開始する光景が映し出されている。

 けど、そこには朔夜の【朧月】も、彼の部下たちのマーギア・リッターの姿も見えない。


『……拙者、第六カタパルトでござるが?』

「まだそこかぁ。作戦開始だから、暴れて構わない。俺の指示は理解しているよな?」

『心の中の本音までしっかりと。では、作戦を開始するでござるよ』


 よし、これで後は高みの見物。

 うちの総戦力にぶつかる気なら、天使の機動兵器でもない限りは勝率は0%だからな。

 アマノムラクモに喧嘩を売って、地球を狙った代価はしっかりと支払ってもらうからそのつもりでいろよ!!


………

……


「さて。ミサキさまから全力でやって良いという指示が出たでござる。各艦に潜入している忍者部隊に連絡。可能な限り無傷で捕獲するでござる!!」

『『『『『了!!』』』』』


 仲間達の返信を確認すると、朔夜は『敵異星人の空母級機動戦艦・第六カタパルト』に実態を表す。

 それが全て無人艦であり、敵旗艦からの命令により動いていることを確認すると、まずは空母の電脳頭脳を破壊するべく隔壁を破壊しつつ中央コントロールセンターへと向かっていった。

 

「……そういえば、拙者が敵艦の第六カタパルトにいるって説明したはずでござるよな?」


 いえ、そこは説明していませんと部下のツッコミもあるものの、朔夜は鼻歌交じりで隔壁を剥がし始めた。

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