第240話・消失未来と、可能性への挑戦

 何もない。

 光もない。

 生き物の鼓動も感じない。

 これは夢。

 でも、久しぶりに見た、私の予知夢。


 この体に生まれ変わって、初めて見た予知夢。

 でも、何もない。

 予知夢じゃないのかも?

 そう考えたけど違う。

 私は、『何もない世界』を予知した。

 それって何?

 戦争で荒廃した世界?

 違う。

 それなら、荒廃した世界を見るはず。

 

 でも、私の夢の中には何もなかった。

 そう、何もなかった、を予知した。

 それって何?

 私にはわからない。

 何もないって何?

 


………

……


 スターゲイザー、オタル。

 街から少し離れた場所、海岸沿いの丘の上にある洋館。

 ここは、賢人機関がミサキに頼み込んで借りた居住地。

 少し離れた場所には研究施設もあり、オタル在住の賢人たちは洋館から通う形で研究施設に出勤し、地球とは異なる環境を研究していた。


 先日の異星人襲撃については、オタル駅前で号外が配られていた。

 それには克明に『異星人の無謀なる襲撃は失敗。次の一手は何か?』という煽り文句の記事が書かれていた。

 それを配っているところから、そして街の人たちは何も驚く事なく生活していることから、賢人たちは『この程度が日常茶飯事かぁ』とやや呆れつつも、何かあったらミサキから連絡が来るだろうと日常に戻りつつあった。


「……おはようございます」

「ああ、おはよう千鶴子」

「今日は隣の牧場で取れた朝取り卵のスクランブルエッグだってさ」

「わぁ!!」


 朝。

 身支度を整えてダイニングにやって来た千鶴子を見て、その場の賢人たちもにこやかに挨拶をしている。

 だが。


「……千鶴子、何かあったのか? 様子が少しおかしいようだけど。体調がすぐれないとか?」


 ノイマンだけは、千鶴子の異変に気がついている。


「ううん。そうじゃない、体調はすごく良いわ。ただ、夢見が悪かったというか、その……」


 そう言葉を濁す千鶴子に、他の賢人たちも会話を止め、千鶴子とノイマンの会話に耳を傾ける。


「夢見が悪かった? まさか予知夢か?」

「……うん」

「何を見たんだ? どんな未来が見えた?」


 千鶴子の予知夢、その的中率は87.5%。

 夢に対して何も干渉しなければ、夢は全て現実になる。

 それがわかっているからこそ、賢人たちは千鶴子の夢には敏感である。


「何も見えなかった」

「戦争で無くなった未来? また戦争が起こるのか?」

「違うの。何もなかった、が見えたの。空も大地も、太陽も月も星も。死んだとか滅んだじゃなくて、何もなかった未来。それって何かわからないから、どうして良いかわからないの」


 この言葉で、賢人たちは動く。

 一人は地球にいるアルバートに、一人は国連のシャンポリオンに、そしてもう一人はアマノムラクモのミサキに連絡を始めた。



………

……



「……なるほどなぁ。何もない世界かぁ。いつもの予知夢が具体的ではなく抽象的となったと考えるのか、それとも本当に何も無くなったと考えるか……」


 オタルの賢人機関から報告を受けた俺は、キャプテンシートに胡座をかいて、腕を組んで考える。

 千鶴子ちゃんの予知夢の凄さは、俺たちは十分に理解している。

 その上で、何もない未来が見えたなんて言われたら、気になって仕方がないわ。


 それでなくても敵性異星人、コードネーム・エイリアンを相手にしている最中なんだけど。

 これって、何かしらリンクしている可能性もあるんだよなぁ。

 悪いことは、全て纏めてリンクするからさ。


「なあオクタ・ワン。お前はどう思う?」

『ピッ……消失未来の可能性。ブラックホールなどにより星が飲み込まれた場合、その星の未来は消滅します』

「やっぱりそうなるよなぁ。滅んだのなら、何かしらの形跡ぐらいは残るからなぁ。例えば、エイリアンの使う兵器とかで重力兵器とかあった場合、それによりマイクロブラックホールが発生して星が飲み込まれるとかはあると思うか?」


 これも仮定。

 よくある漫画や映画の世界だけどね。

 そういうマイクロブラックホール発生とかって、よくあるじゃないか。

 それで世界が崩壊してしまうのを防ぐために、主人公たちが立ち上がるって話。


『ピッ……仮定としてはあり得ません。現時点で鹵獲した宇宙船の八割のデータを解析しましたが、そういった兵器を開発及び搭載したという形跡も感じられません』

『……トラス・ワンより。通信回線に干渉し、敵艦隊中枢のデータを抽出していますが、それらしい兵器関連データは存在しません』

「なるほど。まあ、これは一旦置いておくとして、トラス・ワン。エイリアンたちの攻撃の意味は?」

『……元々、彼らは狩猟民族のように他星系に進出し、資源及び人材を奪っていました。その矛先が太陽系に到達した方思われます』


 某・光の巨人の出てくる特撮の敵キャラみたいな奴らだなぁ。

 

「それじゃあ、あの艦隊全てが攻撃してくるって事だよなぁ。スターゲイザーは守り切れるけど、流石に地球まで手を出されたら気まずいわ」

『ピッ……艦隊の大半は移民船です』

「移民船か。増えすぎた人口を宇宙に移民するようになって……ってやつか? それとも故郷が滅んだ? トラス・ワン、その辺りのデータはあるのか?」

『……オクタ・ワン、情報をお願いします』


 ん? 

 すぐに返答が来ないところか、トラス・ワンがオクタ・ワンに泣きつくなんて珍しくないか?

 違う、何か裏があって、俺に分からないように内密に処理をしているな?


『ピッ……ミサキさま、その疑いの目はおやめ下さい。我々としても、まだ確定情報ではなく詳細についてはこれから調査を開始するところです』


──ピン!!

「ふぅん……それってさ、このまえ俺に話していた銀河系中心部からの調査と関係しているよな?」


 俺の頭の中で、何か繋がったわ。

 さあ、洗いざらい話してもらおうか?


『ピッ……はい。不確定ですが、現時点で分かった部分だけご説明します。私たちの世界は消滅します』

「……ワンスモア・アゲイン」


 今、なんていった?

 星系間戦争とかそういうレベルじゃないぞ?

 世界の消滅と言ったか?


『ピッ……現時点で、銀河系中心部、直径数光年は消滅しました』

「……原因は?」

『ピッ……神界規定により詳しくは説明できませんが、神々がこの世界を捨てました。結果、世界は神の加護を失い、消滅を始めています』

「……うっそだろ?」

『ピッ。太陽系が消失点に飲み込まれるまでは、まだかなりの時間が掛かります。少なくとも、あと数百年は太陽系の消失には至りませんので、地球人はそれまでに対策を練る必要があります』


 ん?

 地球人は?

 それってスターゲイザーは関係ないのか?


「なあオクタ・ワン。スターゲイザーはその消失点に飲み込まれないってことか?」

『ピッ……世界の崩壊なので、それは不可能です。ですが、スターゲイザーなら、次元潮流を航行する事で、他の神々の管理している世界へと渡ることができます』

「……」


 あ、なんだろ。

 腹が立って来たわ。

 それってあれだろ、今現在、スターゲイザーを襲っているエイリアンたちの故郷が消滅したので、ここまで逃げて来たってことだろ?

 それは結果論として、やむを得ず来たのだろうから仕方ないが、だからと言って俺たちを攻撃して良いって話とはつながらない。

 それよりも、神々が見捨てた?

 はぁ?

 この、俺たちの住む世界が無くなる?

 それってどういう冗談だ?


「オクタ・ワン、神界規定とやらについては俺は詳しくは知らないし、それを説明されたとしても神々の考えなんて理解できそうにない。だから、一つだけ教えてくれ。世界の消滅は防げるのか?」

『ピッ……不可能。世界を支える神が存在しない以上、器はゆっくりと消滅します。何もかもが虚無に包まれて消えます』

「地球を他の神々の世界に移すことはできるか?」

『ピッ……この世界の神の庇護下にあったものに対しては、神界規定により他の神が手を差し伸べることはできません。ゆえに、地球を移すことは不可能です』

「ちょっと待て、スターゲイザーなら次元潮流に乗って他の神々の世界に行けるんだよな? この星の人間はどうなる?」


 沈黙。

 俺がアマノムラクモでこの世界から旅立ち、次元潮流の間に浮かんでいたスターゲイザーに逃げてから。

 この星にはいろんなことがあった。


 避難民であったエルフたち。

 侵略者であった帝国兵士。

 元々の住民であったドラゴン。


 皆、それぞれの世界から逃げて来たり、追いかけて来たりしたやつらだ。

 色んなことがあったけど、今は皆スターゲイザーの住民。

 でも、さっきの話だと、彼らも逃げることはできないということか?


『ピッ……神界規定により、他の神々の世界へスターゲイザーを移動させた際。移動可能な存在はミサキさまと、サーバント及びワルキューレのみ。他の生命体は全て、次元潮流から出た時点で消滅します』

「……ミサキ・テンドウよりアマノムラクモ及びスターゲイザー全てのシステムに命じます。世界の消滅を防ぐための手段を探すこと、そのために宇宙全域までの調査を行うこと。トラス・ワン、対エイリアン戦略は全て任せる、地球とスターゲイザーに被害が出ないようにしてくれれば良い。可能ならば、そのエイリアンたちにもこの場から撤退してもらえたら良いんだがな」


 叫んだよ。

 これって神々の決定に対して、異を唱えた事になるんだろうけどさ。

 俺もなんやかんやでラプラス眷属の亜神、運命の輪を操ることができるのなら、この理不尽な世界の消滅にも干渉してやろうじゃないか!!

 

 

 

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