第239話・敵対どころの話じゃないわ
未確認生命体が射出した観測用ポット。
全長12mのランスのような形状をしており、目標となった惑星の地盤に突き刺さると、内部のセンサーが稼働を開始するように作られている。
また、独自判断により敵対意思を持つものが接近した場合、速やかに排除するために周囲に高周波を放ち、雷撃による攻撃を開始する。
彼らの文明を基準とした破壊兵器であり、それらに対処できる存在に対しては、すぐさま通信により母船に報告、衛星軌道上からの対惑星用ミサイルを射出。
プラネットボンバーと呼ばれる広域殲滅兵器による一斉攻撃により、星の敵対する住民全てを滅ぼす。
彼らは、狩猟民族と呼ぶに相応しい出立ちをしており、人間に例えるならば頭部はスズメバチが進化したような巨大な複眼、牙のように鋭い顎を持つ。
四肢は人間に近い構造でありつつも、関節稼働部は全方位に二百七十度動き、三本で一塊の指がふた塊、手首から伸びている。
もしもこの姿を、地球の特撮ファンが見たならば狂気するであろうし、生物学者が見たならば理不尽な骨格と筋素性であると鼻で笑うだろう。
だが、そのような存在が知識を持ち、スターゲイザーに向かって魔の手を伸ばしているのは事実。
そして、ついに敵の偵察ポットがスターゲイザーの勢力圏まで届きつつあった。
………
……
…
「……」
アマノムラクモによる次元潜航。
そこからの高速飛行によりスターゲイザーまで到着したのは良い。
直接スターゲイザー内部の中央ドックに浮上して全てのシステムをリンク、周辺状況を確認してんだけど。
思わず絶句してしまったわ。
『……ヴァン・ティアンよりオクタ・ワンへ。全ての統制指揮権をオクタ・ワンに移譲』
『ピッ……了解。スターゲイザーの対異星人防衛システムをトラス・ワンに移譲、ヴァン・ティアンはスターゲイザーの全ての生命体を守るためにシステムリソースを割いてください』
『……トラス・ワン、了解』
『ヴァン・ティアン、了解』
「うん、そのあたりは任せるけどさ。これはまた、爽快だよなぁ」
スターゲイザーの周辺には、かなり強度の高いフォースプロテクションが展開している。
スターゲイザーをすっぽりと包み込む、高度120000メートルに広がるバリア。
そこに100以上の巨大なランスが突き刺さり、バリアに向かって雷撃を放っている。
「解析データによると、周辺には高周波の渦も発生。指向性パルス高周波電磁波エネルギーにより、生命体及び電子機器を破壊するためのものと考えられますわ」
「……面倒くさいものをまた。うちの被害は??」
「ありませんわ。全てフォースプロテクションによりカット。唯一、ランス状兵器と高周波によりフォースプロテクションに影が投影され、農作物の日照問題が起こり得るとオタルの市長からのクレームが」
「細かいわ!! そもそもそんなところまで演技しなくてよろしい。しっかし、とんでもない大規模艦隊だよなぁ」
いきなり観測ポットのようなものを射出してきて。
全くノーダメージと分かると、次は艦隊による砲雷激戦が来るだろうなぁ。
──ビビビッ
『……アラート。敵機動艦隊十二隻、スターゲイザー遠深部にワープアウト。距離1200キロ!!』
「スターゲイザー観測部より入電!! 敵艦の砲門及びミサイルらしき射出兵器がスターゲイザーを捕らえました!!」
「敵艦、砲撃開始!!」
「……うわぁ、マジで引くほどのノリだわ。みんな、久しぶりの実戦だからってやりすぎないようにな」
これが危険なら、オクタ・ワンが全ての通信を無視して俺に連絡をよこして来る筈。
それが、トラス・ワンからの報告とグリムゲルデの連絡だけってことは、スターゲイザーは安全だってことだよなぁ。
「敵ミサイル直撃します!!」
──ドドドドドドドォドッゴゴォォォォォオオン
宇宙空間だから、音は広がらない。
これがあの作家さんなら、爆発音だけで二ページは稼げるんだろうなぁと、アホなことを考えつつ。
モニターに映し出された観測データを、のんびりと確認してみる。
見るんだけどさ。
艦橋の全員が、期待に満ちた目で俺をみるからなぁ。
──バッ!!
立ち上がって右手を伸ばして振り上げる。
「被害状況の報告を!!」
あ〜。
なんだろ、この小学校の学芸会のようなノリは。
そして俺の演技に満足したのか、全員が持ち場の作業を開始する。
そのタイムラグ分、報告が早くなるんだけどさ。
「フォースプロテクションに刺さっていたランス状観測ポットは全滅。なお、バリアシステムは問題ありません」
「さらに敵艦隊がワープアウト!! 高エネルギー反応を検知しました!! プラネットブラスター級の兵器かと思われます」
プラネットブラスター?
あ、あれか。
未知の波動エネルギーを射出する奴。
高出力プラズマブラスターのことね、了解。
『ピッ……そろそろ、迎撃部隊を送り出さないと、出番がなくて待ちくたびれておりますが』
「疲れるわけないだろうが!! まあいい、出していいから」
『ピッ……では、ご命令を』
マジか。
そこまでやれってか。
そもそも、敵の目的も何もわからない状態で、いきなり攻撃仕掛けてきたんだぞ?
そこは情報を引き出すために……ええい、面倒くさいわ!!
──バッ
再び立ち上がり、力一杯叫ぶ。
「マーギア・リッター全機出撃。敵艦隊を無力化し、鹵獲せよ!!」
そう叫んだが、まだ艦橋クルーはワクワクして待っている。
「こ、このスターゲイザーに刃向かったものに、己の愚かさを示してやれ!!」
「「「「「了解です!!」」」」
はあ、ようやく皆が動いたか。
本当に、うちのメンバーは戦争が好きなんだろうなぁ
モニターの向こうでは、フォースプロテクション外に次々と転送されるマーギア・リッターの姿が映し出されているし、敵艦からも楕円形……水滴型の迎撃機らしきものが出撃しているし。
なんだろ、このハリウッド映画を見ているような気分は。
戦争なのに、何かこう、緊張感が無さすぎるんだよなぁ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「観測ポットより。敵惑星上空にバリアシステムを感知。コード3案件のため、高電磁波によるバリア解除を試みるも失敗」
「ソルジャーの急速解凍を急げ。我々だけでは対応ができない」
移民船に眠る市民及び戦闘員以外で、この艦隊を指揮しているのは五名。
それ以外は全て、自立思考システムを搭載した電脳頭脳により統制されている。
彼らの乗る旗艦からの通信を受けて、各艦隊は連携をとって活動しているのだが、その動きに若干のタイムラグが発生していた。
これまでの彼らの戦闘データでは、すでに敵バリアシスでは無力化されてある筈なのだが、未だにそれがなされていない。
「ミサイル護衛艦を前に。やむを得ないが、プラネットボンバーで惑星表面を焼き尽くす」
「それが賢明でしょうなぁ。我らがポットを無力化するほどのバリアを持つ知的生命体。そのようなものは、我々の星には必要ありません」
「いかにも。即時対応をするべきである」
彼らは次なる手として、ミサイル護衛艦を前に出す。
そこからの砲雷撃によりバリアなど無力化し、星を燃やす算段に出たのだが。
「……予定を変えるべきでは? あの星の住民の知性は我々のテクノロジーを凌駕している。未だかつて破られたことのないプラネットボンバーを、あのバリアは全て無力化している」
「しかも、主砲の攻撃ですら、完全に弾き飛ばしているではないか」
「提案する。この星に干渉せず、更なる先の星を攻略すべきだ」
「いや、高出力プラズマ砲を使用する。砲撃艦隊を前に!!」
彼らにとっての切り札。
必要の無くなった惑星を破壊するための高出力兵器の投入。
それですら、スターゲイザーのバリアを貫通することはできなかった。
「……なんだ、どういうことだ?」
「各艦隊の電子頭脳がエラーを起こしてます。未だかつてない状況に、データ処理が追いついていないかと」
「制御頭脳に干渉しろ、今回の戦闘データについては即時解析は止めるように」
「敵惑星上に未知の存在を検知。迎撃機かと」
「モニターに映してくれ……なんだこれは? この星の住人は巨人なのか?」
「いや、人型をした機動兵器のようだが」
「あの星の住人は、馬鹿なのか? 人型兵器など仮想世界の御伽噺でしか通用しない。兵器たるものは、必要最低限の能力を持っていればよく、人型である理屈など存在しない」
「いかにも。ゆえに、彼らの中には優秀な指揮官と愚かな開発者が存在すると思える」
言いたい放題であるが、実際に宇宙空間での戦闘となると、人型である理屈は存在しない。
高機動する物体が格闘戦を仕掛けてくるなどナンセンス、映画や漫画の世界ならば実在するがそれはロマンであり虚構でしかないと、彼らは考える。
だが。
「……あ、あんな戦い方、我々は認めない」
「全艦隊に連絡。高速ジャンプの準備を、指定座標に一時撤退する」
「移民船の安全を第一とし、迎撃機を全て射出しろ。囮として使え」
「蹴ったぞ、あの人型兵器が、我らの迎撃ポットを蹴り飛ばしたぞ!!」
「そんなバカな、慣性速度を考えても、そのようなことをしたら機動兵器の足が砕ける筈だ、なぜ無傷なのだ!!」
彼らの目の前では、予測不可能な事態が次々と起き始めていた。
その二分後には、全ての艦隊が後方へ緊急避難のためにジャンプしたのだが、最前列にいたミサイル護衛艦二隻がジャンプ前に制御中枢システムを奪われ、スターゲイザーに鹵獲されてしまった。
………
……
…
「敵艦隊ロスト。緊急避難したかと思われます」
「了解。全員、第三戦闘配備まで警戒体制を解除する。被害状況の報告を急げ!!」
と、ここまで演技を求められると、本当に疲れてくるんだからさ。
『ピッ……敵艦隊のうち、プラネットボンバーを射出した二隻を鹵獲。システムを掌握しましたが、内部には乗員は存在しない様子です』
「どういうことだ?」
『……トラス・ワンより報告。敵艦隊は有人艦を電脳頭脳により制御されているのかと思われます。内部構造から、人間のサイズはおおよそ身長二メートル前後の細身であるかと』
「まあ、中に人間がいないなら都合いいわ。スターゲイザー外周でデータの抽出作業および解析を急いでくれるか?」
なんで攻撃してきたのか、それを知らないことには対応できないからさ。
まあ、どんな理由でも、スターゲイザーにいきなり拳を振り上げてきた時点で、情状酌量の余地はないってオクタ・ワンなら叫ぶんだろうなぁ。
はあ。
本当に、のんびりさせてくれよ。
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