第171話・お茶濁す国……ジャパーン‼︎

 アメリカの国防総省、ロシアのクレムリン。

 そして日本の国会議事堂が、地球防衛軍によって占拠された当日。

 日本では、国会議事堂及びその周辺施設が、地球防衛軍によって奪われた自衛隊の戦車や機動部隊によって完全に包囲されている。

 議事堂内での移動に対しては制限はないものの、やはり外に出られないというのはストレスが溜まるものである。

 だが、全ての扉の前には銃を構えた自衛官が立っているため、議員や関係職員も迂闊なことをすることができない。


 結果としては、いくつかの委員会室をそれぞれの党派に開放し、そこで寝泊まりするようにと浅生総理大臣の指示があったので、今暫くはそうするしかない。

 市ヶ谷駐屯地や日本各地の自衛隊が、国会議事堂奪回のためにやってくることを信じるしかなかった。


「しかし、こうも見事な軍事クーデターが起きてしまった以上、自衛隊の存続についても検討する必要がありますわね」

「今回のケースは特殊だろうが? そもそも、アメリカやロシアも同じように攻め込まれて、未だに解決の目処が立っていないんだぞ? うちの自衛隊とは規模が違うだろうが。それでも、自国を守る軍事力の必要性を理解しているからこそ、アメリカ軍を解体するという話にはなってないだろうが‼︎」


 衆議院本会議場では、非公式な党首会談が行われている最中である。

 内部で起こったことについては、地球防衛軍は関与することなく半ば放置状態。

 というのも、日本という国の特色を考えるに、このような軍事的クーデターで捕虜当然の扱いを受けている以上、無駄な抵抗は行わないのが鉄則である。

 あとは日本が誇る優秀な特殊部隊や警察、機動隊が突入してくるのを静かに待つだけである。


「アメリカ軍は法的に認められているからです。残念なことに、自衛隊は憲法の観点から考うるに『違法な存在』であります。そのような組織が、このような軍事クーデターを起こした時点で、現政党には速やかな退陣を要求したいものです」

「はぁ。それなら警察組織も解体だよな? 今回のクーデターで警察が動いていないのは、警視庁上層部が地球防衛軍にすり替わられているからだろうか?」

「警察は合法組織です。話の論点をすり替えないように‼︎」


 まさにこれ見よがしに攻撃の手を緩めない野党。

 これには与党もかなり劣勢の模様である。


………

……


 翌日、朝。

 アメリカの国防総省が奪還されたというニュースが、議事堂内のモニターに映し出された。

 その直後にロシアのクレムリンも無事に奪還され、今は後始末に追われているという情報も流れてきたので、議員たちの中には安堵の表情を見せるものが多い。

 そして、この救出劇の背後ではスターゲイザーの特殊部隊が奪還作戦に関与しているという情報もあり、議員たちはホッと胸を撫で下ろしていた。


「これで、あとは我が日本だけですな。いつ頃、スターゲイザーはやってくるのでしょうか?」

「何か、連絡手段があるのではないですか?」


 残念なことに、国会議事堂内からはスマホをはじめとした通信手段の全てが失われている。

 有線の電話は当然として、スマホなどの通信手段もなんらかの妨害電波によって全て遮断、議員たちが個人的に外部に連絡を取ることが出来なくなっている。


「さぁ。そんなことは私たちが知るわけないでしょうが?」

「それは無責任すぎませんか? どうして軍事クーデターが起きたのか? その原因を考える必要がありますわ。そもそも、現政党のやり方に不満を持った自衛官たちが起こしたのではないですか?」

「現政党に、ではなく、地球防衛軍の目的ははなから惑星スターゲイザーと懇意にしようとしている国家がねらわれていたのですから、私達に非はありませんよ」


 そうキッパリと言い切ったものの、それ以上は何も答えることが出来ない。

 外部からの情報は地球防衛軍が設置したモニターに映るニュースのみ。

 それ以外の手段では外部の情報も連絡も何もない。


「ま、まあ、この件につきましては、スターゲイザーに救出されてから話し合うことにしましょう」

「それがよろしいかと」


 この日も、これ以上の話し合いはなく、双方ともに本会議場を後にした。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 国会議事堂が地球防衛軍に占拠されて、四日後。


「……まだか、まだスターゲイザーは救出に来ないのか‼︎ 外の議員たちは何をしている? とっととスターゲイザーに連絡をして、救助部隊を送るように手筈をとってもらわなくては困る‼︎」


 自由国民党の二階堂幹事長は、その場にいる若手議員を恫喝している。

 なんで自分が、こんな目に遭わなくてはならないのか?

 早く助けにきてもらいたいものだと憤慨しているのだが、残念なことに彼の言葉に耳を貸す議員はその場にはいない。

 そもそも、なんでスターゲイザーの特殊部隊が助けに来ることが前提になっているのか、そう質問したいレベルである。


「二階堂幹事長、そもそもの問題として、何故スターゲイザーが助けに来ることが当然と思っているのですか?」

「我らが同盟国のアメリカとロシアを助けて、日本を無視するという理由が無いからだろうが。それぐらい、考えてみたらわかるんじゃないかな?」

「まあ、そう思うのは勝手ですが、スターゲイザーは日本を助けないのではないかと思いますよ」


 傍で話を聞いていた浅生総理が、二階堂に話を振ってみる。

 二階堂は、いつまでも利権にしがみつく亡者のような議員ではあるが、幹事長という立場がある以上、誰も文句をいえなかったのである。

 それでも、若手議員や他の政党の議員たちからは『二階堂下ろし』という話しがあちこちで出始めている。


「何故だね? 何故我々を助けようとはしない?」

「日本が法治国家であり、銃などの規制がしっからとしているからです。他国の場合、軍事クーデターなどが起こったなら軍部が動いて衝突、それこそかなりの死傷者が出ることでしょう」


 淡々と説明する浅生。


「では、何故自衛隊は武力行使をしない?」

「その自衛隊が、地球防衛軍によって占拠されて操られているようなものです。それと、自衛隊の任務は国民の安全を守るためであり、自国民に向かって撃ちだす銃弾は所持していません」


 軍事クーデターに対して軍事力でぶつかるようなことはできないと、浅生は説明している。

 もっとも、市ヶ谷の防衛省が地球防衛軍によって占拠されている現在、自衛隊の援護が届くことはないだろうと諦めている節もある。


「ぐぬぬぬ、そんな腑抜けどもなど要らん‼︎ この俺が、直々に話をつけてやる‼︎ 何人かついてこい!」


 物凄い剣幕で怒鳴り散らすと、二階堂は近くにいた議員を数名捕まえて、正面入り口を占拠している兵士に向かっていく。


──ダーン‼︎

 その直後、正面入り口から銃声が響くと、二階堂がすぐさま医務室へと運び込まれていった。


「……これで少しは、考え方を改めてくれるといいんだがなぁ。さて、本当にどうするか、そこが問題だな」


 浅生は腕を組んで考える。

 スターゲイザーに連絡をつけられる国があるのか。

 アメリカはモノリスの関係で連絡がつきやすいのは理解できる。

 ではロシアはどうやって、連絡をしたのか。


「……例の、暗号回線を解析できたから、連絡して助けを乞うたのだろうなぁ。しかし、ここからじゃスマホも使えないから、外でなんとかしてくれるのを祈るしかないか」


 半ば神に祈る気持ちで、浅生総理は窓の外を静かに眺めていた。


………

……


「あの、ミサキさま。日本は放置していて構わないのですか?」


 地球の衛星軌道上で、機動戦艦タケミカヅチは静かに地球周回を続けている。

 ロシアから戻ってきてすぐに、日本の状況を全て把握、現時点では死傷者は出ないと理解している。


「まあね。今回のケースは、あの地球防衛軍の日本方面司令官が政権を奪うところから始まっているからね。オクタ・ワン、日本方面司令官のデータを頼む」

『ピッ……了解です』


──ブゥン

 艦橋中央に展開したモニターに、日本で活動している地球防衛軍の外見データが次々と並ぶ。


「こいつが、首謀者の有川義光ありかわよしみつか。元陸自の一佐で除隊後には市ヶ谷で焼肉屋を経営。それは表向きであり、実は地球防衛軍の外郭団体だったと」

「はい。元特戦群のエリートで、レンジャー資格を有しています。しかも、剣道の有段者で、居合の達人。現在は市ヶ谷の防衛省を占拠し、自衛隊各方面が動かないように監視しているところです」


 予想外にエリートだこと。

 そして可能な限り無血で事を起こしているのは、日本人の気質なのか、それとも個人の主義主張なのか。


「アメリカは国防総省を占拠して軍事力及び情報を掌握しようとした。ロシアは政治中枢を占拠しフーディン大統領を拉致してロシア自体を麻痺させようとした。では、日本には彼らは何を求めている?」


 腕を組んで考える。

 国会議事堂を占拠し議員を人質に取る。

 そのまま立て篭もるどころか、戦車やら装輪装甲車やらを引っ張り出して、いかにも国会議事堂を軍事的に抑えていますよって大々的に宣伝してあるようなものである。


『ピッ……過程として。スターゲイザーが接触するのを待っているのでは?』

「ここまでのことをやらかして、まさかそれが目的?」

『ピッ……日本人を人質にとってあるのは、ミサキさまの名前から判断して、スターゲイザー星王が日本に関係してあるのではという予測ではないかと?』

「そりゃまたとんでも説だわ。まあ、もう暫くは様子を見るか。別に通信で助けを求められてあるのではないし、アメリカの時のように義により助太刀って訳でもないし」

「ミサキさまの生まれ故郷なのに、随分と冷たいのですね?」

「冷たい? まあ、そうかもしれないけどさ。俺としては北海道さえ無事なら、どうでもいいかなぁって思っているよ」


 そもそも、こんな大規模クーデターにも気がつかない政治組織など、とっとと解散総選挙なりなんなりして日本を良くしてくれよ。


「……まあ、多少の手助けはするか。こういう場合の適切な部隊……手稲山モノリス経由で、忍者部隊を派遣してくれるか?」

「それでしたら、アルバトロスで降下させた方が早いかと思われますが」

「あいつらに任せたら、また吶喊して国会議事堂の正面に突っ込むわ。今回の敵は外なんだから、まずは情報を集めさせてくれればいいよ」


 そもそも、人質の議員を手荒に扱うことはないよなぁと思うからさ。

 さて、本当にどうきたものか。

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