第169話・無敵とは、敵が無いってことだよね?

──BROOOOOOOM‼︎

 アメリカ国防総省内。

 激しい銃撃音が鳴り響く。

 ミサキたちアマノムラクモメンバーの予想を覆すかのような、特殊部隊の吶喊。

 もしもその光景がテレビやインターネットで中継されたなら、殆どのアメリカ国民はあの凄惨な事件を思い出すだろう。


 それほどまでにショッキングな突撃の直後、ガーデンツィオらは真っ直ぐに『まともな職員や軍人たち』が囚われている部屋に目掛けて走っていく。

 それを阻止するために、内部にいた地球防衛軍の兵士たちがガーデンツィオらに向かって銃を斉射‼︎


 本来ならば、銃の恐怖を知るものならば、銃口を向けられた瞬間に怯み、そこから逃れようと動く。

 だが、サーバントである彼らは、その程度の威力に傷つくこともない。

 結果として、全身に銃弾を浴びようとも怯むことなく突撃し、敵の武器を破壊し、当身を当てて無力化していく。

 まあ、動く物体めがけての狙撃など不可能なため、結果的には地球防衛軍の兵士たちは銃弾を浴びて瀕死になるものもある。

 それでも、『頭さえ無事ならなんとかなるかなぁ』というアヤフヤな発想でガーデンツィオたちは進む。


 その後方から突入したシールズや海兵隊たちは、目の前で起こった光景に頭を抱えそうになるものの任務は絶対。

 すぐさまブロックごとに制圧を進めると、六時間後には国防総省全域を掌握した。


………

……


「こ、こんなことが起こるとは」


 国防総省長官室。

 そこを占拠していた地球防衛軍の責任者の一人、スコルツィオはモニターを見ながら絶句した。

 ただモニターを見つめ、そこに映るはずのシールズや未確認の特殊部隊が死ぬさまを見ていたかった。


 だが、結果はその逆。


 銃弾を全身に浴び、顔面に直撃しようとも怯むことなく進む敵の特殊部隊。

 大統領の直属部隊である海兵隊。

 そして、世界最強の特殊部隊シールズ。

 僅かな戦力でここまでの事態が起こるなど、スコルツィオは想像もしていなかった。


「わずか数日で、ここまでの戦力が集まるのか? ここまで統率の取れた行動が可能なのか?」


 あらかじめ決まっていた作戦ならば、それに合わせた訓練を行う。

 平時から訓練を続けていた彼らにとっては、細かなミッションの調整は必要なものの、見取り図や人員配置をある程度掌握できる国防総省の奪還作戦などは『想定された訓練内容』の一つでしか無い。

 それが賢人機関のカール・グスタフらによりさらに精査され、トラス・ワンから提案された『想定内対応策』の追加がケネディからも打診されているのである。


 世界最強の頭脳である賢人機関に、アマノムラクモ最強の戦闘用魔導頭脳が加わり、さらに物理的破壊は不可能なサーバント特殊部隊も参戦しているのである。

 これを止めることができるのは、ウルトラマンか超人ロック程度であろう。


──ドッゴォォォォォォン

 右拳一撃で、長官室のドアが吹き飛ぶ。

 そして突入するガーデンツィオらは、室内に誰もいないことに気がつく。


「チッ。逃げられたか……メリクリ、本部に連絡だ。敵司令官は逃走したと」

「まあ待て。その情報は違うな」


 メリクリと呼ばれたナイフ使いが室内に入っていくと、奥の長官席の後ろの壁にめり込んだ扉を確認する。

 その裏からは大量の血が流れているので、メリクリは思わず空を見上げて十字を切る。


「ガーデンツィオ、長官は血袋になって此処にある。他の部隊の援軍に回るぞ」

「偽装じゃ無いのか? こんなに簡単に死ぬのか? 地球防衛軍っていうぐらいだから、俺たちと素手で互角に戦えると思ったが」

「ミサキさまでもあるまいし。うちのミサキさまでさえ、俺たちと素手でやり合おうなんて思わないさ」


 そんなことになったら、確実に俺たちは右手の一撃で分解されてしまうから。

 そう思ったメリクリだが、ガーデンツィオも彼の言葉の意味を瞬時に察した。


「はっ、違いない……地球の奴らの援護に回るぞ。あと二時間で制圧しろ」


 そのガーデンツィオの言葉の通り、この後二時間で国防総省は制圧された。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


『ピッ……以上、ペンタゴンの奪回作戦の全貌です。ミサキさま、お体の具合でも悪いのですか?』


 いや、なんていうか。

 どこまでも出鱈目な奴らだなぁと、つくづく思ったわ。


「いや、いつもの確認疲れだな。それで、ガーデンツィオたちの部隊……正式名称はなんでいうんだ?」

『ピッ……サーバント特殊部隊【エクスペンダブルズ】でよろしいかと。本人たちも、そう呼ばれるのを希望しています』

「却下だ却下‼︎ そのまんまじゃねーかよ。奴らの部隊名は【フリークス】もしくは【ディーガイズ】、このどっちかにしろ」


 変人集団か、危険な奴らかどっちかだよ。


『ピッ……メリクリは、【ディーボウィ】を希望しました』

「うっさいわ。デンジャラスボーイか? それともドリームボーイか? そんなかっこいい名前なんて銀河のスクラップだ。心を囚われていない奴らにそんなかっこいい名前は無用‼︎ ディーガイズで決定‼︎」

『ピッ……登録しました。なお、彼らは次の戦場に向かいたいと』

「アルバトロスで、速やかに帰還するように。あの程度の突撃で壊れる訳じゃ無いだろうが」

『ピッ……了解です』


 はぁ。

 うちの特殊部隊って、なんでこんなおかしい奴らばっかりなんだ?

 地球のDVDを趣味で見るのは構わないが、それに感化されすぎだよ。

 忍者部隊に『梅安』とか、『日光闘将求』とか、その道の人が聞いたら拳を握って殴りかかってくるぞ。


「まあ、アメリカ国防総省の件の後始末は、ケネディたちに任せる。それよりも日本とロシアの動向はどうなっているんだ?」

『ピッ……日本はまあ、銃社会でない分、平和的かつ合理的に国会議事堂内部に軟禁されています。今は地球防衛軍が日本政府として宣言を行い、日本の掌握を行うべく何かしてます』

「うわぉ、やる事はすごいが最後はまだ未確認かよ」

『ピッ……なかなかに、詳細までは把握しきれておりません。それよりも問題なのはロシアです』

「え? どういう事?」


………

……


──ロシア連邦・モスクワ

 ロシアの首都モスクワの中心に位置するクレムリンは、ロシアの政治中枢であり、堅牢無比を誇る大統領府官邸を始めとした様々な建物が立ち並ぶ要塞である。

 その正面に広がる赤の広場をはじめ、現在のクレムリン周辺は地球防衛軍の兵士らによって完全に包囲されている。

 すでにクレムリン内部の建物のほとんどが彼らに掌握され、多くの議員たちが拉致され連れ去られている。

 だが、現在のクレムリン周辺では、全く予想外の出来事が起きている。


「どこだ、フーディン大統領はどこにいるんだ‼︎」

「わかりません。大統領府庁舎内で会議を行っていたという報告は受けていますが、突入部隊が到着したときには、すでに姿が見えなくなっていました‼︎」


 政府中枢を抑え、大統領を捕らえることが彼らの任務。

 それであるかも関わらず、未だフーディン大統領は消息不明である。


………

……


 一方、大統領府庁舎内

 とある階のとある一角。

 あまり目立たないその部屋で、地球防衛軍の兵士が2人、死体となって転がっている。

 一人は首筋の頸動脈を掻き切られ、もう一人は心臓の位置目掛けてナイフでひと突き。

 まさに一撃必殺の暗殺術であるが、まさかそれを行ったものが彼であるなど、死んだ彼らは想像もしていなかったであろう。


「ふぅ。まだ現役であることを忘れてもらっては困るな。しかし、我が国の兵士にも地球防衛軍の犬が紛れ込んでいたとは……」


 倒れている兵士から銃を取り上げると、それをズボンの後ろポケットに仕舞い込む。

 そして近くにあるクローゼットを開いて中から防弾ジャケットや武器を取り出すと、最後にナイフを構えてから軽く身構える。


「この国の大統領が、ただのお飾りだと思われては困るからな。ここからは反撃に出させてもらうよ」


 ロシア大統領ウラジーミル・フーディン。

 元ソビエト連邦特殊部隊所属のエリート諜報員である彼は、こんなこともあろうかと庁舎内の様々な場所に『彼しか知らない』武器を隠してあった。


「まずは、情報を集めるところから始めるか……全く、こんなにハードなミッションは現役時代でもなかったがな」


 すぐさま天井の排気ダクトをこじ開けると、そこから天井裏に移動。

 かくして、ウラジーミル・フーディン大統領の反抗作戦が始まったのである。

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