第157話・歴史の改悪? いえ進化です
β。
一昔前に存在した、ビデオデッキの規格。
かつてはVHSとβ、この二つのビデオの規格が覇権を争っていた。
どちらが勝利したのかなどと野暮なことは言わない。
ただ、敗者は静かに市場から姿を消すのみ。
だが、このスターゲイザーのオタルでは、βが標準規格。
「だって、小さいし持ち運び便利だし……って、おい、このビデオテープの開発は誰がやった?」
『ピッ……ヘルムヴィーケです』
「ミサキさま、私ですが、何か問題がありましたか?」
「いや、このβのビデオテープなんだけど、中身が違うよな?」
そう。
外見はビデオテープなんだけどさ、よく見ると窓のところから銀色の円盤が見えているんだよ。
「はい。βビデオカセット型ブルーレイディスクケースです。一つのカセットに六枚搭載してありまして、ビデオデッキ型ブルーレイデッキで必要に応じて、ディスクごと読み取ります」
簡単に言うと、アメリカ西部時代のジュークボックス。
一セント入れて曲を選ぶと、レコードを選んでターンテーブル上に運んで曲が鳴るやつ。
あれのレコード部分をカセット型にして、必要に応じて中からブルーレイ・ディスクを選択し、取り出して再生。
うん、面倒くさいほどにローテクノロジー。
「……この形状の意味は?」
「古き良き時代。忘れかけていた懐かしい思い出を再現しました」
「なるほど。まあ、そう言う事ならいいけれどさ」
久しぶりのオタル巡視。
正確には、昨日、このオタルを訪れていた賢人機関の三人について、どのような手段でここに来たのか、それを知るためにやって来た。
どこかに転送用端末があるとか、ワームホールが開いているとか。
この絶対無敵なヴァン・ティアンの監視網を掻い潜り、元気爆発したオタルのサーバントたちにも気付かれず、熱血最強なオクタ・ワンの目ですら捉えられないと言うことがどう言うことなのか?
「オクタ・ワン、賢人機関がスターゲイザーに来た手段だが、何か新しい情報はあったか?」
『ピッ……オタルにやってきた三人がエスパーだった可能性があります。さもなくば、神々が作り出した伝承宝具の目を掻い潜り、こうもあっさりと懐に潜り込むなど不可能です』
「マジか。もしもそうなら、帝国の精鋭エスパー部隊なんて目じゃないレベルだぞ?」
そう。
以前、帝国軍との戦闘になった時、敵のエスパー部隊がアマノムラクモ艦内に乗り込んできた。
テレポーテーションによる敵陣突入からの破壊工作が、敵エスパー隊の主な作戦だったらしく、破壊はま逃れたものの、かなり面倒な相手であった。
今回は、そのエスパー隊よりもはるかに上。
地球から、このスターゲイザーまでいったいどれぐらいの距離があると思うんだ?
それをあっさりと飛んでくるとは、恐るべし子供達。
いや、子供のエスパーって、洒落にならない相手が多いよなぁ。
イヤボーンとか、迂闊に子供を泣かせたら、真っ赤なトマトにされそうだからなぁ。
そのまま一通りの巡視をおこなったけど、やはりワームホールも何もない。
どうやらあの子たちは、賢人機関のエスパー部隊で確定だよなぁ。
でも。
「ヒルデガルド、もしもあの子供たちが本当にエスパー部隊だとしたら、どうして本丸であるアマノムラクモやスターゲイザー中枢にやってこなかったんだ?」
「まだ、そこまで見る力がないのか、もしくは純粋に遊びにきたかのどちらかですね。私は後者をお勧めします」
「なるほど。幽霊の正体がエスパーと分かったら、もう怖くないのか」
「はい。論理的に説明できる存在でしたら」
しかし。
もしも遊びに来た子供というのなら?
そのためだけに超能力?
「……気になるわ。あと子供達の中に、シャンポリオンはいたんだよな?」
『ピッ……マタ・ハリたちの持ち帰ったデータとの照会は完了しています』
「それなら、マタ・ハリに連絡。あの子達が買おうとした靴があったろ? 結果的にテレポートで帰ったから、持って帰っていないんだよ」
『ピッ……では、マタ・ハリたちに届けてもらう事にします。移動方法は?』
「タケミカヅチで、イギリス上空から降下。賢人機関の敷地上空から、マーギア・リッターで降りていいよ。宇宙服を脱いでも構わない、あくまでも靴を届けるという事だからさ」
まあ、その後で話し合いなりお茶会なりに誘われても構わないと思っているさ。
お使いを頼んで、それだけを終えて帰ってくるような単純な思考パターンを持っているはずはないからさ。
そんなこんなで、マタ・ハリたちを乗せて、タケミカヅチは地球に向けて出港。
スターゲイザーと地球の間の移動だから、スイングバイは使えない。
という事なので、十日掛けてのんびりと移動。
そして十日後には、無事に地球圏から高度420kmで静止軌道に乗ることができた。
さあ、明日には賢人機関にレッツゴー‼︎
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