第158話・第四種接近遭遇? いえ、宅配です

──キィィィィィン




 イギリス、ソールズベリー郊外。


 賢人機関が所有する広大な敷地内は、現在、厳戒態勢に突入していた。


 つい数日前から、スターゲイザーから飛来する宇宙船の存在を、ハッブル宇宙望遠鏡をはじめとした地球の天文台が確認。


 地球へ向けての軌道で飛来してくることが確認された。




 そこからの各国の対応は素早く、次のモノリスの落下地点が自国に来ることを祈るものたちや、禁止されているスターゲイザーへ向けての通信を試みる国などもあった。


 また、ことは神頼みということで、水垢離みずごりを行う政府関係者のいる国、易により落下地点を占う国なども出始めている。




 兎にも角にも、現時点でのスターゲイザーとの話し合いが可能な国はアメリカのみであり、その次がまだ異星人の出入りは未確認ではあるものの、モノリスが発見された日本の二国だけ。


 他の国々としても、一刻も早くスターゲイザーの恩恵に預かりたい国がひしめいている。




 そんな中、地球の高度300kmまで降下した宇宙船から、合計五機の人型機動兵器が降下作戦を開始。


 大気との圧縮熱にも動じることなく、目的地点である『ザ・ハーミット』の本拠地に着陸した。




………


……





──フゥゥゥゥゥン‼︎


 敷地内にはサイレンが鳴りまくる。


 付近に展開したイギリス軍が、上空から降り立とうとしているマーギア・リッターに向けて砲門を傾け始める。


 万が一の時には、一斉発泡もやむなし、その際には機動兵器はイギリス軍が回収するべきであるというイギリス政府の方針を、枢密院がすべて抑えている形になっている。


 これ故に、『スターゲイザーに弓引くならば、それは女王陛下に弓を引くと知れ‼︎』という通達があるため、形式上は反撃の姿勢を見せていても、実際には実弾を撃つことはできない。




──ガシュゥゥゥッ


 次々とマーギア・リッターが着地する。


 高さ14mの人型兵器。


 それらが綺麗に列をなし、イギリス首都を睨むように並んで立っている。


 左手には巨大な盾、右手にはランス。


 ランスは空高くを睨むかの如く上を向き、敵対意思がないことも示している。




 相手が礼節を重んじるのならばと、イギリス軍も賢人機関の敷地内に政治家や軍人を送り込もうとしたところ、賢人機関がこれを拒否。


 イギリス軍は敷地外で、内部で何が起こるのかを指を加えたまま、報告を待つしかなかった。




──ガシュゥゥゥッ


 中央の機体の胸部が開くと、体を覆うようなウェットスーツにヘルメット姿のマタ・ハリが姿を表した。


 綺麗に全身が分かるスーツ、そしてヘルメットを外した顔が、始めて地球全域に公開されたのである。


 その額に光る宝石は、ダイヤモンドならば20カラットはあるだろう。


 そこを時折り輝かせつつ、マタ・ハリはゆっくりとマーギア・リッターの右手に乗り、地面に降り立つ。




「賢人機関のシャンポリオン、および、つい先日、我がスターゲイザーにやってきた残りの二人を出しなさい‼︎」




 言葉は優しく、それでいて高圧的。


 しかも、今しがた彼女が話した言葉は、綺麗なクイーンズ・イングリッシュ。


 敷地内の警備員をはじめ、報道機関は賢人機関からの中継に息を呑んでしまう。


 異星の言語ではなく、敢えて相手国の言葉を使う理由がわからない。


 それでも呼び出された以上は、堂々と姿を表そうと、アルバートもシャンポリオンは建物から姿を表した。




「私がシャンポリオンだ。そして彼が賢人機関の責任者の一人、アルバート・シュタイナーだ」




 堂々と。


 怯えることなく叫ぶシャンポリオンだが、心臓の鼓動は限界まで高まり、今すぐにでも、ここから逃げ出したい欲求に包まれている。


 テレビを見たものたちは、マタ・ハリの言葉の真意を捉えることができないのだが、彼女の言葉が正しいのなら、賢人機関は独自にスターゲイザーに出入りすることができ、つい最近も訪れたということになる。




「一人足りないな。あの少女はどうした?」


「病気で療養中だ。申し訳ないが、我々二人で対処させてもらう」


「そうか、それならそれで構わない!




──パチン


 軽く指を鳴らすマタ・ハリ。


 すると、彼女の機体の左右のマーギア・リッターからも、二人の男性が姿を表した。


 今度は手に荷物を持ち、先程と同様、ゆっくりと地面に降り立つ。




「私は、スターゲイザーからの使節としてやってきたマタ・ハリという。彼も視察団の一人、ケネディ。そして彼は護衛の李書文だ」




──オオオオオオ‼︎


 名前を名乗る異星人。


 しかも、その名前は地球の歴史に存在した有名人。


 心なしか外見もそれに似せていているのは、気の際ではないだろう。




「ようこそスターゲイザーの使節の方。ですが、私たちは地球代表団ではありません、私たちと話をする前に、まずはニューヨーク国連本部の地球代表団と話をして欲しいのですが」




 頭を下げて、そう告げるアルバート。


 ここで賢人機関が前に出ると、後々が面倒なことになる。


 だが、全世界に中継しているこの状態で、先ほどのように地球代表団を立てておけば、あとは先方の判断次第。


 しかも、最初にマタ・ハリたちは、しっかりとシャンポリオンを指名しているのである。


 これで名目は全て立った。


 あとは、どのような話し合いになるのかと、アルバートは胸をワクワク躍らせていた。




──ガチャッ


 すると、李書文がケースから四角い箱を三つ取り出して、シャンポリオンに手渡す。




「これは?」


「先日、我が星で君たちに買い与えたものだよ。いきなり消えたので、星王さまも心を痛めていてな。今日は、これを届けにきただけだ」


「本来ならば、君たちに取りにこさせるべきなのだが、地球の技術では、取りに来るまで待っていると素材が変質してしまう恐れがあるからな」




 マタ・ハリに続いて、ケネディもそう告げる。


 そしてケネディは、手にしたアタッシュケースから、小さな薬瓶を取り出す。




「もう一人の少女の名前は?」


「千鶴子……三船千鶴子です」




──ヒュゥゥゥゥ


 その名前を聞いて、すぐに薬の素性を変化させる。


 本来ならば、名前だけでは判断は不可能なのだが、彼のマーギア・リッターの背部バックウェポンシステムはカリヴァーンの超空間通信システムの廉価版。


 マタ・ハリたちとアルバートの話が始まった時には、すぐにオクタ・ワンが超空間通信を通じて賢人機関のシステムをハック。


 そのライブラリデータから、三船千鶴子を発見すると、彼女の現在の様子に適した薬を『転送』したのである。




「では、この薬を与えなさい。今、ここで調合した、彼女用の薬だ。彼女にしか効果は発揮しないし、変に解析でもすることがあれば、それは普通の水に変化する」




 先に釘を刺すケネディ。


 そしてマタ・ハリは最後に、こう伝えた。




「君たちがいかなる方法にてスターゲイザーにやってきたのかは知らない。だが、我が星王さまは、君たちの無謀なる勇気を認め、君たち三人の惑星への入国を許可する」




──ブゥン


 右手に三枚のカードを取り出すマタ・ハリ。


 それはミサキが発行した身分証カードであり、ミスリル軽合金によって作られている。


 これも、この映像をタケミカヅチで見ているミサキがオクタ・ワンに指示し急遽作り出されたものである。




「もしもまた来るのなら、そのカードの裏の秘匿コードで連絡したまえ。それは我が星のドラゴンたちにも、心地よい音色に聞こえるやつだからな」


「それでは!失礼する」




 それだけを一方的に伝えると、マタ・ハリたちはマーギア・リッターに乗り、空高くへと上昇を始める。


 やがて目視も不可能な状況になって、ようやくアルバートとシャンポリオンは、我に帰った。




「……なあ、シャンポリオン。今の話を要約すると?」


「靴を忘れたから持ってきてあげましたよ。ついでだから、千鶴子用の薬も調合してあげたから、飲ませてあげてね。いつでも遊びに来れるようにカードも作ってあげたから、先に連絡してね、以上だ」




──ガクッ


 思わずその場に崩れ落ちるアルバート。




「な、なんで靴を持ってくるだけで、ここまで大袈裟なんだよ。いや、なんで届けにくるんだよ」


「星王さまの命令だって言ってたよな? それって、この前ホワイトハウスに来た時の、最後の一人だったんたんだよなぁ」




 シャンポリオンに肩を借りて立ち上がると、施設外から聞こえる軍部の通信など全て無視。


 そのまま二人は、賢人機関オフィスへと戻っていった。




 

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