第138話・対・地球作戦というか、観測というか

──ピッピッピッ

 無限に広がる……っていうか、神様がしっかりと四次元複合座標によって区分された宇宙。

 地球の存在する区画もその一つなんだけど、とにかく大きくて果てしない。

 銀河系がまるまるひとつ、それよりも大きな区分らしい。

 ちなみに壁とかで区切られているわけではなく、ある一定の距離を越えると隣の神様の管轄になる。

 そのため、自分の管理している世界の知的生命体が、隣の神様の管轄に移動してしまったら、もう手出しすることができなくなる。


 この結果、二つの神様の世界で宇宙大戦のようなものが発生することもしばしばなのだが、神様はそんなものには干渉することはなく、また何かやらかしているなぁ程度で終わらせらのが普通。


 まあ、何事にも例外はあるわけで、ある神様世界の神与物を持ったものが別の神様の世界に乗り込んでしまった場合。

 当然ながら、神様レベルでの揉め事になることもあり、結果として神様たちはその揉め事を解決させるために人間に神託を与えたりする。

 直接の手出しは、原則としてタブーだから。


 そんなルールがあるのだが、なにぶん機動戦艦アマノムラクモについては『神様レベルの特例措置』というものが発生している。

 そもそも、現在の地球のある区画については、運命の女神ラプラスが管理代行を務めているので、ミサキが何かやらかそうと見なかったことにしている。

 まあ、ある意味では『実験』でもあるのだが、そんなことはミサキは知る由もない。


………

……


「ふぅ。これでラストだな」

『ピッ……はい。最後の通信衛星の設置完了。フォースフィールドを展開したのち、Dアンカーで空間固定します』

「宜しく。これで、地球圏の通信システムも全て掌握可能と……掌握? 盗聴という方が早いのか?」


 地球圏の情報を得るために、俺は急ピッチで通信衛星を製作したよ。

 搭載するのは『マハラジャ式二十四型魔導エンジン』。いつもの魔導ジェネレーターほどの大出力ではないのだが、低魔力で安定して稼働するエンジンを組み込んだんだよ。

 その結果、どうしても通信距離が短くなるので、しっかりと地球までの距離を24分割して配置。


 おおよそ160万キロの間隔で配置してある。


 アマノムラクモの公転軌道に合わせて動くように設置しているので、配置的には近いものや遠いものも存在するのだが、地球とアマノムラクモを常に一直線に近い感じに繋ぐことができるようにしてある。


 なお、一番地球に近い通信衛星は、NASAが送り出した宇宙観測衛星で、地球からの距離は160万キロ。

 つまり、同じあたりにアマノムラクモの通信衛星も存在する。


『ピッ……システム稼働。スターゲイザー内観測システムと全ての衛星をリンク……成功。引き続き、データの回収……出力が少し足りません。あとひとつ、地球から80万キロの位置にお願いします』

「マジか‼︎ なんでまた足りない?」

『ピッ……安定して通信を送れる安全マージンを多くとっております。その結果、二十五の衛星が必要となりました』

「まあ、予備の一機はあるからいいけど。そんじゃ、設置してくるわ」

『よろしくお願いします』


 一番地球に近い座標まで移動すると、オクタ・ワンから送られてくる通信で座標を設定。

 そのまま本当に最後の一機を設置して稼働させると、カリヴァーンのコクピット内モニターに地球のテレビが映し出された。


──ザッ‼︎

「おおお、これはどこのテレビだ?」

『イギリスのバラエティ番組です』

「へぇ。オクタ・ワン、スターゲイザーの方はどんな感じだ?」

『ピッ……システム確認。正常稼働です。これより地球圏のデータ回収を開始します』

「よろしく。プラチナスのやらかした件についての被害者、及び被害状況を細かく調べてくれ」

『ピッ……了解です』


 それを指示したら、あとはアマノムラクモに戻るだけ。

 カリヴァーンに自動航行を頼み込んで、俺は短期間スリーブモードに移行すれば、目が覚めるとアマノムラクモなんだけどさ。


「……ここから、日本のニュースでも観たいところだよなぁ」

『では、バックウェポンシステムの【超空間通信】を換装してください』

「あ、その手があったか。カリヴァーン、バックウェポンシステムの換装許可」


──シュンッ

 一瞬で背部バックウェポンが通信システム特化タイプに切り替わる。

 それと同時に、コクピット内部にいくつものモニターが浮かび上がり、日本のニュースがあちこちに表示された。


「はぁ。流石だぜ日本。あのプラチナスの襲撃も他人事だな……政府からは災害復興支援のために自衛隊を派遣しているし、義援金を集めている組織もある……」


 日本だけではなく世界各国が、消滅したカリフォルニア州の通信施設のために予算を上げている。

 細かい調査や復興のために軍隊を派遣している国もあるが、それらはプラチナスとカリヴァーンについてのデータが残っていないか、それを調べるのが第一任務らしい。


 国によっては、惑星アマノムラクモと接触するための動きもあるようだが、うちから送ったメッセージやプラチナス戦での俺の言葉を必死に解析している最中らしい。


『まあ、先に手を出したのは地球ですから』

「そりゃそうなんだけどさ。『お前、俺の嫌いな音波出したから殺す』って、明らかに短慮すぎる部分もある。まあ、知らないでやった事だし、今回は痛み分けでいいよな」

『死んだものは、霊子光器以外では再生できません』

「それに伴う代償もあるだろう? 今はそれが支払えないから無理。あれは極力使わない方向で」


 流石に、跡形もなく蒸発した誰かを再生なんて無理だわ。

 モニターに映し出されたニュースの中には、今回の件で最終的に行方不明になった人数が十四人と公表されている。

 これが通信施設に残っていた人たちであり、万が一にも生存していたのなら、すぐに連絡をして欲しい旨が公開されている。


「……はぁ。どないしよ」

『別に、ミサキさまが心を痛める必要はありませんよ。プラチナスの鱗でも何枚かひっ剥がして、送りつけてやればいいのです』

「それで良いか。各国の代表とかと話し合うのも面倒くさいしなぁ。また日本とだけ話するかな」

『データによると、それを行うと中国が交渉のテーブルにつかせろと話をするでしょう。その結果、また日本に各国の軍隊が集まり、最悪は日本が戦場になります。今回も同じ結果となる可能性、七十八%』


 かぁ〜。

 そうなるか。

 日本と話するのが楽なんだけどさ、そうも言っていられないっていうのが正直なところか。


「オクタ・ワン、アマノムラクモのフルメンテナンスはいつ終わる?」

『ピッ……魔導ジェネレーターだけでも、あと二日は必要です。そののち艦体各部の調整、機動戦艦としてのクリアランスを確認し、アクシアによって更なる改装。二年はください』

「待てるかよ、俺が地球に降りるための船って用意できるのか?」

『ピッ……現在、アクシア内部でアヴェンジャー級機動戦艦を建造中。こちらは二ヶ月以内に完了します』

「……はぁ。それで良いわ。とりあえず、ちょいと地球を見てくるわ」


 下手に煽らない方がいいのは理解しているさ。

 でも、俺の存在が、アマノムラクモの存在が太陽系にやってきたことをアピールするのには必要だよな。

 そのまま背部スラスターを展開して、地球圏まで向かう。

 さあ、どんな反応をするのか楽しみである。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「あの未知の存在が日本にやってきたら? 政府としてはどのような対応を取られますか?」

 

 こちらは日本国・国会議事堂。

 現在は緊急国会が招集され、カリフォルニア州を襲ったプラチナスと、それを抑えた人型機動兵器に対する対策について協議が行われている。


「詳しい情報がないため、対応をどうするかということについてはお答えできません。ただ、自衛隊はすでに待機状態にあり、いつでも国民を安全な場所に避難誘導することができるようにしています」

「一刻も早い解析結果が出ることを期待します」


 流石に自衛隊は違法だとか、憲法違反だとか騒ぎ立てる輩はいない。

 プラチナス戦の映像については、日本国だけでなくすべての国が見たのである。

 現在の地球の科学力、軍事力では傷一つつけられない未知の存在!そしてそれを止めることができる人型兵器。

 

 どの国も、その技術が、その力が欲しい。

 それをどうやって行うか、それを考えていても埒があかない。


「JAXAからは引き続き、惑星Xに向かって通信を送っています。ですが、未だ返答はありません」

「JAXAに対して追加予算を行いましょう。それで一刻も早く、あの惑星に住んでいると思われる未知の生命体に連絡が取れるようにして貰いたいものですわ」

「早急に対処します」


 そのあとの話し合いでも、惑星Xの対応とカリフォルニア州の援助、そして防衛面についてのやりとりがいくつか行われている。


 それらを中継で眺めながら、ミサキは次の一手を考えることにした。


「……まず電波を停めさせるのが先決だよなぁ。フォースプロテクションを貼り続けると、流石に閉塞感が満載だし」

「彼らにわかる言語で話してみては?」

「そうだよなぁ……かと言って、いきなり英語やら日本語だと、また怪しまれるからなぁ」


 何かこちらの意図を伝えるための言語はないものか。

 ミサキはコクピット内部で思案しつつ、世界各国のニュースにも耳を傾けることにした。

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